解答編

 放課後、俺は2人をミス研の部室に呼んだ。今は学園祭準備のため部室には誰もいない。

「俺に何か用か? 部活があるんだけど?」

 ユニフォーム姿の相沢が怪訝な顔をする。

「すぐ終わるさ」

「お前達を呼んだのはエッフェル塔の件だ」

「何? 私達が犯人って言いたいわけ? 動機は?」

 西島が敵意剥き出しの目を向ける。

「動機は不明。でも、皆のアリバイを聞いた上でお前達以外いないんだよ」

「何言ってんのよ」

「エッフェル塔はボロボロだったんだよ。倒れただけでは、ああはならない。その後、犯人の手によってボロボロになったのだろう。そしてその後、別の何者かの手によって直された。けれど修復は不十分だったせいか結局は崩壊」

「……」

「直したのはお前だろ相沢雅治。そして壊したのはお前だ! 西島智恵!」

「え? 意味わかんないんだけど?」

「太田がなぜ宮下を疑ったか分かるか?」

「それは……動機もあるし、太田より昨日遅くまで残ってたからでしょ。そりゃあ、私だって疑うわよ」

「ん? どういうことだ? 俺は一度も昨日にエッフェル塔が壊されたとは言ってないぞ」

「朝来たら壊れてたんでしょ?」

「お前はギリギリ登校したから知らないが、朝にはまだ壊れていなかったんだよ。そして8時15分頃にエッフェル塔は崩れたんだよ」

「……私だっていう証拠はあるの?」

「まだしらばっくれるのか?」

「お前が言ってることは全部憶測だろ。それに第一発見者が嘘をついてたらどうするの?」

 相沢が西島を庇うように前に出て言う。

「そうよ。名誉毀損! 訴えてやるわよ!」

「だが、このままだと、そこの相沢が犯人になるな」

「はあ?」

「警察沙汰になって、本格的な捜査になり、指紋とか調べられるぞ。相……犯人はセロハンテープを使ったのでべったりと指紋が残ってるしな」

 俺の言葉に西島は目を大きくして相沢を伺う。相沢は安心しろという顔を西島に向ける。

「犯人だってバカじゃないだろ。指紋を拭き取ってるだろ」

 と言って相沢は不敵な笑みを俺に向ける。

「だがな糊の部分に指紋が残ってるんだよ」

「え?」

 俺は壊されたエッフェル塔の一部を相沢に投げ渡す。

「よくテープのとこ見てみろ。指紋が浮き出てるだろ」

 エッフェル塔の一部を見て、逢沢の顔が青くなる。

「どうする? これでもしらばっくれるか?」

「……わかった。認める」

「雅治!」

「智恵、もう本当のことを言おう」

「……」

 そこへ、「原因は俺だろ」という言葉とともに太田が部屋に入ってきた。

 これは予想外だったので俺達は驚いた。

「太田、どうして?」

「ん? お前が壊れたエッフェル塔の一部を貸してくれって言うから、犯人を見つけたんだろうなと思ってな」

「そうか。それで『原因は俺だろ』ってのは?」

「実は俺、ちょっと前まで西島と付き合ってたんだよ」

「なるほど自分を振って他の女に言い寄り始めたから、その仕返しにと」

「少し違う」

 と西島が否定した。

「え?」

「こいつ、付き合ってる時に駒森に言い寄ったのよ。しかも駒森と宮下の仲を悪くするため嘘をついて。マジ最低」

「すまん」

 太田は西島に頭を下げる。

「なるほど。で、相沢がテープで補強した理由わけは? 西島が好きだから庇った?」

「違う。西島と同じく太田には思うところはあって、それは西島を庇った理由の一つだ。その、庇った理由は宮下のためにもなると思って」

「宮下が好きなのか?」

 え? ホモなの?

「違う! そうじゃなくて、駒森の件で、このままだと宮下が可哀想だから……」

「? どういうこと? なんで宮下のためになる? どう見ても宮下が疑われたんだから、宮下のためにはならんだろ?」

 こいつは馬鹿なのか?

「でも、少し考えたら宮下が犯人ではないと判るだろ?」

「あのな。犯人が判名しなければ、ずっと容疑者だぞ。しかも変にオヒレがついて、悪い噂になったらどうする」

「そ、そうか?」

 まったく! 頭に脳ではなくサッカーボールが入ってるのか?

 それともヘディングばっかして頭イカれたか?

「どうしよう? 俺、今から皆に謝りに行くべき?」

「雅治、なんで皆なのよ。被害者は2班よ」

「なら2班に?」

「2班も元々そこのこいつに無理矢理指示されてやってたから、そんなにショックではなかったからいいんじゃない。てかさ、謝ったらサッカー部の顧問にバレて、最悪辞めさせられるわよ。まあ私も酷い目に遭う……ああ、私は同情されるかな?」

 西島よ。お前、変にポジティブだな。

「何か良い案ないか?」

 相沢が髪を掻きむしる。

「穏便に済む方法は…………まあ、あるにはあるな」

 俺は太田に視線を向ける。

「ん? 俺?」


  ◯


「すまんかった」

 翌朝、ホームルーム前に太田は宮下に頭を下げて謝った。

「お前には完璧なアリバイがあった。疑って悪かった」

「……そう。で、犯人は?」

 宮下は鋭い目を太田に向けて聞く。

「それは判らん」

「あっ、そう」

 太田はもう一度、頭を下げ、そして席に戻った。

 これで宮下は容疑者から外れた。変な噂も流れないだろう。


 西島の言う通り、2班は太田に指示されて、なあなあで制作していたので、壊れたエッフェル塔に関してなんの思い入れもなかった。

 むしろこの件に乗じて榊が太田の代わりに指示を始めた。太田も皆には言えないが先の件は自身のせいということもあり、文句を言わなかった。


 そして事件は迷宮入りとなり、終わったこととなった。

 ……一件落着?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

任意迷宮 赤城ハル @akagi-haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説