任意迷宮
赤城ハル
聞き込み
我がクラスの文化祭の催しは展示となり、段ボールでミニチュアオブジェを作ることになった。クラスで6つの班を作り、各々オブジェを作り始めた。
それが今朝、2班が作成していたエッフェル塔が倒壊し、ボロボロになるという事件が発生。
太田は怒り、容疑者として宮下に詰め寄った。けど、宮下には完全なアリバイがあった。
では、一体誰が?
そして様々な憶測がクラス内で生まれたが、すぐに否定され泡のように消えた。とうとう犯人探しも頓挫したところでクラスメート達から挙手制の探偵役の推薦が行われ、ミステリー研究会所属ということで俺が大多数の挙手によって選ばれた。
もちろん、すぐに俺は拒否したが、こっちの意見は無視されて進められた。
仕方ないので聞き込みを開始。すると、「何、本当に調べてんのよ」とか文句を言われる。
「手を挙げといてよく言うよ」
と返すと、
「誰が手を挙げたか覚えてるの?」
と鼻で笑い返される。
「誰が手を挙げていないかは覚えているが」
そう言い返すとクラスメートは大抵黙る。
そして最後にアリバイを聴くとこれまた大抵が「俺(私)疑われてるの?」と嫌悪の顔をされる。
何これ逆ギレ?
俺がキレたいんだけど。無理矢理押しつけられたこっちの身にもなれっつーの。
「別にないなら良いけど。ただ、容疑者濃厚になるよ。……え? 当然だろ。アリバイのない人間なんだから、疑われても仕方ないよな?」
俺が容疑者を見るような目をして言うと大抵、彼(彼女)らは素直に答える。
◯村岡日和
「え? 最初が私なの? なんでよ? はあ? たまたま? めんどくさいわね。
え? 誰が犯人だって? そんなの宮下でしょ? どうしてって、そんなの皆、言ってるじゃん。え? アリバイ? 私の? 私が教室に入ったのはホームルームちょっと前よ。ギリギリだったわ。証人はチエとアッキーよ。なんでかって? そりゃあ、一緒に登校したからよ」
◯西島智恵と秋山紅葉
「何? 探偵ごっこ?」
「チエ違うよ。さっき、皆で決めたじゃん」
「あー。そうだっけ。ふわー。……ごめん。私、昨日遅かったのよ。うちの班が1番遅かったしね」
「いやいや、どうせ遅くまでスマホいじってたんでしょ?」
「アハハ」
「犯人は宮下なの? ……え? アリバイがある。そうなんだ」
「本当に? アイツ、遅くまで残ってて怪しかったよー」
「それを言ったらチエもでしょ? 最後まで残ってたんでしょ?」
「ひどいー。私を疑うの?」
「なんでよ!」
「えーとアリバイだっけ、最後というだけよ」
◯第一発見者、倉田英輔
「俺が教室に入った時にはエッフェル塔は倒れてたよ。勿論、俺じゃあねえぞ。俺は三浦と柿田と一緒に登校したんだよ。
その時には教室には誰もいなかったぜ。
アリバイ? 着いたのは8時15分くらいだったはず。犯人について心当たり? ああ!? 宮下なんだろ? なんでって、皆言ってるしさ。それにあいつ、太田に恨みあったし。え? 何かって? ええと……なんか女性関係。駒森に悪口がどうたらとか?」
◯三浦修二と柿田友春
「倉田と? おう! 一緒に登校した」
「そうそう駅から一緒だぜ。だから俺達は白だ」
「え? 宮下とのこと?」
「確か、太田が駒森に宮下がお前の悪口言ってたとかじゃね?」
「そうそう。で、それが宮下にバレて、太田と揉めたんだよ」
「ケンカ? どうだっけ?」
「つっかみあいはあったけど、それだけだよな」
「殴る一歩手前くらいで止められたからな」
「うんうん」
◯サッカー部、相沢雅治
「俺が1番に教室に来たよ。朝練があったからな。7時からだせ。きついなー。え? なんで学園祭の前に朝練かって? サッカー部は全国大会三連続出場を目指しているからな。気合入ってんだよ。で、何がなんでも地方大会には勝ったなきゃあ、いけないんだよ。一年も関係なしにだよ。きついなー。
昨夜も遅くてよ。19時だぜ。ほんと困るわー。
それで俺はそっち優先なんだわ。文化祭に参加できなくてすまないな。
アリバイ証人? ないなー」
◯文芸部、上島佐保子と佐川葵
「私が来た時にはエッフェル塔は倒れてませんでした。時間は8時です。私は教室に入って、すぐ文芸部の部室行きました」
「私も佐保子と同じでーす」
「アリバイ証人は葵と、あとは駒森くらいかな」
「太田と宮下のこと? うん。知ってるよ。太田が嘘ついたんでしょ」
「ひどいよね。自分が狙ってるからってさ」
「そうだね」
「でも、私はさ犯人ではないと思うよね。だってさ明らかに疑われることするかな?」
「……葵、そもそも彼にはアリバイあるよ」
「まじで?」
◯2班、榊久美子
「犯人? 知らないね。宮下って言うけどどうだろうね?
まあ、私は事件ではなく事故だと思うね?
え? どうしてかって? そりゃあ、あんなもんいつ壊れてもおかしくなかったからね。塔の脚は床に刺さってるわけではないからね。斜め切られた棒を立てるのって大変なんだよ。それなのにアイツは……。
アリバイ? ああ。8時15分くらいかな?
そのころには
◯宮下昴
「俺じゃない! 俺は7時半の電車に乗った! その時、木村や原井も一緒だった。隣りのクラスのやつもいた。
8時10分に駅に着いて、それから学校に着いたのは25分くらいかな?
教室に着いたときは馬鹿みたいに大騒ぎだったな。特に柴田のやつが。あいつ、こういうときは馬鹿みたいに騒ぐからな。ほんとウザい。アリバイ? 聞いてただろ。木村や原井、それと隣りのクラス数名。
恨み? そりゃあ、あるよ。あいつ駒森に俺が悪口言ってたとかあることないこと言いやがって。そりゃあ小さいこと言ったこともあるけど、脚色したり、大きく膨らませやがって。それを実際に言ったことのように誤解を招くようにしやがって。ほんと、ムカつく」
◯駒森莉子
「犯人に心当たりですか? そりゃあ、宮下君かな? 陰口を言う……え? 違う? ……そうなんだ。でも、太田君と揉めてたし。
アリバイですか? 教室に入ったのは8時で、その後すぐに隣りのクラスの友達に借りていた雑誌を返しに行ったんです。証人は佐保子と葵、それと隣りのクラスの友達かな?」
◯柴田賢
「え? あー? あれはびっくりだったよ。倒れてたからな。
俺が教室に入ったのは8時5分くらいかな? その後すぐ職員室に行って、それで教室に戻ったら倉田達が喚いていたんだよ。
え? 職員室に行った目的? 暖房だよ。今日は一段と寒かったからな。でも、授業始まってからって断られたよ。
アリバイ証人? 田中と佐々木かな。一緒に登校して、一緒に職員室に行ったからな」
◯太田健吾
「は? 風で倒れた可能性? それはない。ちゃんと脚は床にガムテで固定していたんだ。それに風で倒れるならエアコン近くのミニチュアオブジェとか倒れてるだろ。それにピサの斜塔の方がやばいだろ。あれ細くて傾きすぎじゃん。
どうして宮下を疑っているかって? そりゃあ、恨みだろ? それにアイツ、遅くまで残ってたしな。
アリバイ? 被害者だぞ? ……まあいい。8時20分くらいか? 廊下で柴田のやつが喚いているのを聞いたな。それで中に入ったら……」
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