第8話 とりあえず喜んでくれて良かったです。

 自転車を押しながら歩く事15分、家に着いた。

 家に向かう途中も色々と談笑したが、今のところ何か探られる様子はない。

 『好きな食べ物は何か』とか『普段は家で何をしているの?』とか。

 

 その問いを適当に返しつつ、家にジナイダさんを入れる前に「少し散らかってるから待ってて」と言い俺は家に入った。

 さて、ここから鈴葉の私物を10分程度で隠さなければならない。

 といっても絶望的なほど量があるが。

 

 まずリビングには鈴葉が使っている化粧水やトリートメントなどが置いてある。

 専用のカゴにまとめられていて棚の上に置いてあるので、それを一旦鈴葉の部屋に収納。

 他にも玄関には鈴葉が出かける時に使う靴が3セットほどあるし、リビングと玄関を繋ぐ廊下には鈴葉の上着が何着かある。

  

 親の物は別に片付けなくても良いのが功を制した。

 とりあえず親のものだと誤魔化せそうな上着は放置し、派手な物だけ部屋に投げ入れた。

 その他にの私物もとりあえず部屋に投げ入れ、最終確認をして何も無いのを確認した後、玄関の扉を開けてジナイダさんを家に入れた。

 

 「ハァ……ハァ……どうぞ……」

 「なんで疲れてるの……?」

 「まあ以外にも家が汚くてね……少しだけ片付けてた……」

 「何も気を遣わなくても良いのに。お邪魔します」


 ジナイダさんは上品に靴を脱ぐと、俺の後に付いて来た。

 幸い周りを見るような仕草は確認できなかったので、俺は少し安心した。


 「それで、ジナイダさんは何が食べたいですか?」

 

 今日は丁度食材があまりない。

 鈴葉の試合が終わった後に一緒に買いに行こうと思っていたのだが、ジナイダさんが急に来ることになったので買い足しは出来なかった。


 「急にお邪魔しているのに食べたい物を指定するのはおこがましいですよ。お腹を満たせるならば恭吾くんの好きなものでお願いします」

 「な、なるほど……」


 俺は手を洗った後、いつものエプロンを着けて冷蔵庫を開けた。

 中には多少の野菜とひき肉が入っていた。

 下手に面倒な料理を作って失敗したら困るから自信のある料理にするか。

 ひき肉と玉ねぎがあるならハンバーグ一択だな。

 

 冷蔵庫からひき肉と玉ねぎ、にんじんを取り出した。

 まずは、ひき肉をボウルに移してそれを練る。

 この時に重要になってくるのが冷やしながら練ること。

 氷水を入れたボウルにひき肉を入れたボウルを入れる。

 冷やしながら練る事で肉の油が体温で溶けずにそのまま維持できる。

 

 十分に練った後に調味料を加え、さらに練る。

 粘り気が出てきたところでみじん切りにした玉ねぎと冷蔵庫にあった牛乳、溶いた卵を入れてまた練る。

 ムラが無くなるまで練ることが出来たら、今度はそれを三等分にして両手で投げ合い、中の空気を抜く。

 10回ほど投げ合って中の空気が抜けた事を確認したら形を整え、手に油を塗り表面を滑らかにする。

  

 一度皿に置いた後、フライパンを熱してそこにサラダ油を敷いた。

 十分に熱されたことを確認したら、そこにハンバーグをくっつかないように並べる。

 中火で3分ほど焼き、色が変わって来た。

 色が変わったことを確認して、ハンバーグをひっくり返して再度3分ほど焼いた後、フライパンに蓋をして弱火にした。

 弱火にして5分経ったら、今度はIHコンロの電源を消してハンバーグを蒸らす。

 

 こうすることによってハンバーグの中にうま味と肉汁が閉じ込められ、凄く美味しくなる。

 付け合わせに茹でたにんじんをと思ったが、時間的に面倒だと思ったので冷蔵庫にしまいキャベツを取り出した。

 取り出したキャベツを4分の1ほどに切り分けて千切りにする。

 皿に千切りしたキャベツを盛り付け、蒸らしてあったハンバーグをフライパンから取り出して皿によそった。


 今回は材料が無いためちゃんとしたものは作れないが、最後にウスターソースとケチャップを混ぜたなんちゃってデミグラスソースを作り、ハンバーグにかけて完成だ。

 三つ作ったハンバーグは一つを鈴葉用にとっておき、後の二つは俺とジナイダさんで食べる事にしよう。

 最初に白米を持って行った。

 この時もしっかりと気を付けて親の茶碗を使った。

 

 「お~、ついに完成したんですね!」

 「まあ材料の問題で少し手間を省いた部分はありますが、しっかりと自信のあるものを作りました」

 「ワクワクです!」


 一度キッチンに戻り、今度は作ったハンバーグを持って行く。

 なんちゃってデミグラスがよりハンバーグを際立出せていてとても美味しそうに見える。

 ジナイダさんの目の前にハンバーグが盛り付けられた皿と箸を置いた。


 「どうぞ、ハンバーグです」

 「わぁ……! 凄い美味しそう! 食べても良いですか?」

 「食べてください、お口に合うと良いのですが……」

 「はい、では頂きます!」


 ジナイダさんはハンバーグに切り込みを入れた。

 その瞬間中に詰まっていた肉汁が溢れ出してきて皿が肉汁で埋め尽くされる。

 目を輝かせ、一口サイズに切ったハンバーグを可愛らしい口でパクっと食べた。

 

 「んん~~! 美味しい!」


 左手を頬に当て、ジナイダさんは美味しそうな表情を作る。

 とりあえず気に召したみたいで良かった。

 一口食べたら止まらなくなってしまったのか、ハンバーグを一口サイズに切り食べる。

 そして隣に置かれた白米を一口。

 それの繰り返しでジナイダさんはあっという間にハンバーグを完食した。


 「美味しかったです。恭吾さんって料理お上手なんですね」

 「まあ人並みには出来ると言いきれますかね。それでもまだまだだと思うので、これからも日々練習してきますが」

 「その心がけも素晴らしいと思います」

 

 うーん、ずっと前から思っていたが敬語って凄く喋りにくい。

 いつも鈴葉や両親としか話さないから、急に敬語となるとおかしくなってしまう部分がある。

 ため口でも良いか聞くか。


 「えっと、ちょっと良いですか?」

 「はい、どうしました?」

 「敬語やめません?」

 「それはどういう事でしょうか……?」 

 「その、実は俺って友達がいなくてですね、それでいつも喋るのって両親ぐらいなんですよ」

 「はい」

 「それで、急に敬語となると喋りにくいなって。ほら、これからも接していくとなると固い口調より砕けた喋り方の方が楽だと思うんですよ」

 

 ジナイダさんは顎に手を当て、少し考える素振りを取った後「確かに、一理ありますね」と納得してくれた。

 

 「だからその、呼び捨てで呼んで良いかなとか逆にもっと砕けて欲しいなとか思いまして」

 「そうですね、そっちの方がこれから友達としてやっていくには良いかもしれません」

 「えっと、じゃあ……ジナイダ?」

 「んーと、恭吾くん?」

 

 何だこれ、俺たちは初々しいカップルか。

 鈴葉とだったらこんな事を言うのだろう。 

 しかし相手は凄く可愛い小動物感のある金髪ハーフ美少女。

 ノリツッコミを間違えれば縁を切られる可能性だってあるし、俺に出来た初めての友達。

 

 バレない様にとは思ってはいるが友達が一人もいないのも人としてマズいかもしれない。

 それに一応共通の友達と繋がっているわけで、困ったらそこを頼れば良い。

 

 「ぷっ」

 「ふふっ、あはは」

 「何だこれ」

 「何か面白いですね」

 「そうだな、でもこれからよろしく」

 「こちらこそ、よろしくお願いします」


 時たま見せる彼女の笑顔、それが手に入れたくても手に入れられない特別な物のような気がして自分の中に保存したいと思ってしまう。

 これが恋なのだろうか、それとも仲良くしたいと思う気持ちが強くなっているだけなのだろうか。

 初心な俺には何も分からない。

 

 でも鈴葉と絡んでいる時とは心情が明らかに違う。

 きっとこれはジナイダに対して俺が何かは分からないが、特別な気持ちを抱いているのだろう。

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クラスのお前らは知らないだろう。男女問わずモテるクール系美少女が、家では俺の義妹で屈指のゲーマーで俺の助けがないと生きていけないという事を。 竜田優乃 @tatutayuno

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