迎える終焉の鬼灯ら
熊鉄
終焉を迎えることは確かに怖い。けれど傍にはいつも一緒に逝く魂がある
数多の人達が生きている中 幾千の命の灯が 今日もまた今日も
ただ静かに穏やかにふっと 消えるように空気と共に溶け込む
人はそれぞれ 懸命に生き 人生を謳歌し
いずれ訪れるであろう 終焉の刻まで 限りある人生の中を
ただひたすらに歩み続ける
余命宣告を受け 覚悟と虚しさが ごちゃ混ぜになりながらも
残りの人生を 掌で包み込むように大事にし 歩むことに専念した
だんだんと 床に伏せるようになり
病院のベッドの上で 過ぎ行く季節を窓から
眺める日々を送る
幸い身内はもう既にいない だからこそ安心してあの世に旅立つことが出来る
ただ一人は寂しいなと 少しだけわがままな気持ちが心の何処かにあった
同じ病室で隣の若い男性の患者の元に
毎日彼女と思われる女性がお見舞いに来る
毎回横目で見やり 話を聞く度 微笑ましく温かい光景に
自然と心がポカポカと
癒されていくのが手に取るように分かる
若い男性とは一言も言葉を交わしてないが 何故だが分かる
互いにそう長くはないことを
それでも毎日欠かさずお見舞いに来る彼女は
強がることもなくただ自然の笑顔で男性と
楽しく些細な会話をし 必ず鬼灯を一房 花瓶にさして帰ってゆく
彼女が毎回 鬼灯を持ってくる意味は もう既に最初から理解はしていた
必ず病室から出るとき 男性の隣のベッドにいる自分にも
丁寧に深く頭を下げて退室していく
嗚呼…… なんて心が清らかで慈愛に満ち溢れた
女性なんだろうと しみじみと思い耽った
余命宣告を受け床に伏せてから 長くも短いような歳月が流れ
その日は良く晴れた秋空で 空はどこまでも青く澄んで まるで自分の心を
ありのままに映し出しているかのようだった
その日の昼下がりも いつものように変わらず 男性の元にあの彼女が
お見舞いに来た やはり手には鬼灯が握られていた
変わらず他愛のない会話を いつもより今日は少々長めにし
彼女はまた花瓶に鬼灯を一房さして
また自分にも深く深く長めのお辞儀をして
退室した 退室する時の彼女の表情はやはりいつも通り……
否 隠しきれてない
哀愁を感じさせる雰囲気が滲み出て
男性を最後に見つめた瞳は 言わずもがなだ
トンっ と病室の引き戸が静かに閉まり
ふと 本当に何気なく隣にいる男性と目が合った
互いにどこか儚げで切なげで でも安堵しきった安らいだ表情をしていた
お疲れ様 ありがとう と
耳元にそよ風の如くそっと優しく聞こえるように囁き
同時に目を瞑った
まだ意識がある中 終焉を迎える準備を整え ただただ暗く暗い
トンネルの中を歩み進める
勿論 終焉を迎え 次第に遠のいてゆく意識の中を歩んでいくのだから
恐れと不安はある
だけど だけれど
一人じゃない 一人で逝くのではない
何故なら 彼女が 彼女の想いが籠った 鬼灯がその日終焉を迎えた人々らを
優しく包み込んで あの世へと導いてくれるのだから
嗚呼…… 嗚呼……
最後まで良き人生だった
と 意識を手放し そして終焉を迎え
己の魂は鬼灯によって 幾千の想いと共に あの世へ旅立つのであった
迎える終焉の鬼灯ら 熊鉄 @magokorobook
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