後編

「うう…すみません…」

気付けばミカは正座させられ、洗いざらい話していた。


「そっか。あんたも落ちこぼれか。見てて分かったと思うけど、俺もなんだわ」

そう言って笑う天使が綺麗で、ミカは思わず頬を赤らめてしまう。


「俺さ、天使のみんなといても苦しいんだ。たまに俺と話してくれない?」

「え。わ、私でよければ…」


それから、ミカと天使の密会が始まった。

天使の名前はコウ。

ミカと同じで、落ちこぼれらしい。


天使と悪魔が仲良くするなんて、本来なら禁止されている事だ。

コウとミカは、仲間達に見つからないような隠れて会っていた。


いつも話す内容は、他愛ない話だった。

昨日はどんな事があったか。

今日はどんな物を見かけたか。


お互い、天使と悪魔の世界が居づらいと感じている2人にとって…

この時間はとても楽しいものだった。



「私とコウが、逆だったら良かったのに」

「逆?」

「私が天使で、コウが悪魔」

「そんな事言ったってバレると、大変だよ?」


そう言って笑うコウ。

無邪気に笑うコウは何だか少し悪そうで、既に悪魔のようだった。


「でも、そしたらうまくいってたと思わない?

無意識に良い行動をさせてしまう私と、悪い行動をさせてしまうコウ…。

本当は逆だったんじゃないかな、って思うよ私」


そう言ってミカも笑った。

そんなミカを見て、コウは微笑みながら言う。


「確かに。ミカって笑ってる姿が、本当に天使みたいだよね」

「え!?な、何急に!」

「いや…綺麗に笑うからさ。俺は可愛いと思うよ」

「か、可愛いって…」


笑顔の事だ。深い意味は無い。きっとそうだ。

分かっていても、ミカは顔が赤くなるのを止められないでいた。


「あ、今日はそろそろ帰るね!コウも今日のノルマこなしたなら早めに帰りなよ!ね!」

ごまかすようにそう言って、ミカはその場を後にした。


悪魔界に帰り、先程の事を思い出してミカが鼻歌を歌っていると仲間の悪魔が寄ってきた。


「…ミカ」

「ん?なぁに?どうしたの?」

「…悪魔長が呼んでる」

「え?」


悪魔長とはミカたち悪魔にとって、親のような存在だ。

悪魔のトップに呼ばれた事で、ミカは冷や汗が垂れた。


「お、お呼びでしょうか」

悪魔長の元へ、重い足をひきずるようにして来たミカ。


「ミカ。あなたが天使と仲良く話している所を見たという者がいます。…本当ですか?」

「あ…いえ、その…」

「いえ。本当かどうかはどっちでも良いです。金輪際、仲良くすることはやめなさい。天使に恋した悪魔がどうなるか…あなたも分かっているでしょう?」


そう。

天使に恋した悪魔は、その聖なる光に当てられて光となって消えてしまう。

そう言われていた。


「で、でも!恋なんて…」

「あなたの恋心を相手に伝えてしまえば、すぐに光になります。分かったらもう行きなさい」


ミカは泣きながらいつもの場所に飛んで来ていた。

コウと会えなくなるのは嫌だ。


「そっか、私とっくに…」

コウへの恋心を自覚し、1人うずくまり涙を流す。


「ミカ?」

「えっ…コウ?」


顔を上げるとそこにはコウがいた。

「こんな時間にどうしたの?」

「ミカこそ」

「何だか…コウに会いたくなっちゃって…」


思わずそう言うと、コウはミカを抱きしめた。

「俺も。多分ミカも同じこと、言われたんだよね」

「コウも…?」

「うん」


そう言って抱きしめていた手を離した。

「俺達天使はさ。悪魔に恋をして恋心を伝えてしまえば、暗闇と一体になって消えてしまうって言われているんだ」

「そうなんだ。悪魔はね…天使に恋心を伝えたら光となって消えてしまうんだって」


そう言って、黙り込む。

するとコウがまた悪そうに笑った。


「じゃあさ…天使と悪魔が恋に落ちたら、どうなるんだろうね?」

「一緒に?」

「そう、一緒に」


そう言ってミカは笑いながら泣いた。

コウもミカも、今考えている事は同じなのだ。


「コウ…私。コウの事が大好き」

「うん。俺も、ミカが好きだよ」


そう言った途端に、2人の姿がどんどん消えていく。

「どうなっても、私コウが好き」

「俺も、大好きだ!」

手を繋いで笑いあう2人。


そしてそのまま、2人の姿は消えてしまった。


***


あれから数年後。


「ミカ!早くしないと遅刻するだろー!」

「待ってよー!置いていかないでったら、コウー!」

「はーやーくー!」


そう言いながら通学路を走る、学生服の2人の姿。


「やっぱ無理ー!疲れたー!抱っこして抱っこー!」

「な!…あぁ、もう!おんぶな!」


いつものワガママに慣れているのだろう。

コウと呼ばれたその男子生徒は、ミカと呼ばれたその女子生徒の前にしゃがみ込んだ。


「やだ…これ、パンツ見えない?」

「だぁー!もう!どうせスパッツ履いてるだろうが!」

「何で知ってるのよ!?」

「うるせぇ!良いから、早く乗れって!学校遅刻するだろうが!!」


そう言ってコウは自分の背に乗るよう促す。

「早くしねぇと、俺一人で走るぞ!?」


その言葉に慌ててミカは言った。


「すぐ乗るって!さっすがコウ!まじ天使!」


そうおだてながら、ミカはしゃがみ込んだコウの背に身を預ける。


「お前はまじで悪魔だよ!!」


そう悪態をつきながらも、笑いあう2人。


その光景は本当に、とても幸せな光景だった。

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【短編】悪魔と天使の恋 くるみりん @kurumirin

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