第15話 俺、王都に出発する
サズに加護についていろいろ聞いたあのあと、もう一回だけ依頼をこなすことができた。
猪だったけど結構な大物だったから、纏まった金が欲しい俺には実に有り難かった。
ありがとう、猪。風の加護でいつも以上にスパーンといったよ。すげー切れ味だった。
君の犠牲は忘れない!
さて、サズに指輪を作るついでにもう二つ作った。
指輪ばっかりだ。
仕方がない。実際に指輪しか作ってねーんだから! 他のものも造りたい気持ちはある。が、ペンダントヘッドとコサージュとかはデザインがいるんだよ! 今、この状況で術式とデザインを両立させる余裕がないんだよ!
つー、諸事情のもと、指輪を極めることにした。指輪だってデザインはあるよ。わかってる。だが、しかし。只のわっかでも指輪は成立するんだ。
そーゆー訳で、かなり時短で指輪を作れるようになった。
術式も、馴れたものならほほいのほい、さ。
そうやって、双子の分も造ったのさ。
その二つを持って、猪狩りついでにフェルマー領に向った。
王都に行く前に双子にも会っておきたいからな。
すっかり平和になったフェルマー領は人里近くの森に魔物の影はない。
もっと地方や奥地に行けば何かしらいるんだろうけどね。あと猛獣、害獣は普通にいる。けど探すのが面倒なので、俺はそこまで行かない。日帰り出来ない場所には行けないんだよ。
フェルマー領の精霊の祠へ続く道まで来ると、何故だか双子がいた。
「本当に来た!」
「レイ!」
リュートとフルールが駆けて来る。
おー、背が伸びてる。
子供って成長早いなあ。
「久し振りだなあ」
しみじみ呟くと、フルールに睨まれた。
「久し振り、じゃないわ!」
「来ないって言ったら、本当に全然来ないって酷いよ!」
リュートも非難轟々だ。
「悪かったって。にしても、よく俺がここに来るって解ったな?」
「精霊様に聞いたの」
「うん、ここにレイが来るって」
「へえ?」
ぇ、何? 俺の動向が判るってもちもち達とここの精霊は繋がってんの?
初耳。ってか、気にしたことなかった。
精霊は世界中にいるわけだから、何かしらの通信手段持っててもおかしくないわ。あのもちもちの見た目に惑わされてたわ。
だって星の双子みたいなもちもちなんだぜ?
「その精霊様は俺のこと何か言ってた?」
「ううん、教えてくれないわ」
「絶対、レイのこと知ってるのに」
「なるほど、個人情報は守られてんのね」
繋がってても情報は漏らさない、か。
意外に徹底してんな。
「私たち、もうすぐ王都に行くから、今日会えて本当によかったわ」
「王都?」
「王立学園に入学するんだ」
「ほお」
そか。双子たちも入学するのか。
「じゃあ丁度良かった。これ、やるよ」
俺は指輪を差し出した。
ひとつは水の流れをモチーフに、ひとつは炎をモチーフに。どちらも、兄と妹で練習済みだからデザインを変えるのも余り難しくなかった。まあ、あっさり系なデザインなんだけどね。
「指輪?」
「一応、守りの術式が刻んである」
「これもしかして…レイが造ったの?」
「そう。素人作だから甘い所は多目に見ろな」
かなり良い出来だとは思うけど、プロと比べたらやっぱいろいろ甘いと思うから先に言っておく。
が、双子たちは気にしないようだ。
嬉しそうに指にはめて、次に落胆に眉をハの字にした。
「サイズ、大きいんだけど」
「成長すんだろ。大人になるまで鎖付けとけ」
「あ、そうね」
フルールがあっさり頷いた。
サイズはレントとルピウを参考にしたから、今は大きくて当然だ。成長したらぴったりになるかはわからない。が、どれかの指には合うだろう。
リリーナは大人になったらそれなりのを贈るつもりだけど、双子は大人になるまで交流が続くか判んないんだよなあ。
俺の立ち位置がいろいろビミョー過ぎて。
「何かの役には立つだろ」
「ありがとう、レイ」
「ありがとう。大事にするわ」
双子たちが嬉しそうで何よりだ。
「じゃあ、俺行くな」
「また、会えるよね!」
「会えんじゃね?」
「絶対よ!」
絶対とは言い切れないが、多分学園で会うことになるんだろう。
ってことは今は黙っておこう。
双子と別れたあと、ギルドに向かったけどサズには会えなかった。だから、決めていた通り指輪は封筒に入れてギルドに預けた。スペックはギロと同じだ。その辺は同封した手紙に注意事項と一緒に書いておいた。
多分、大丈夫だろう。サズの方が術式や魔法関連の約束事はきっと詳しいだろうから。
王立学園に入学が決まっている俺だが、必要なものは全て自分で揃えなくてはならないから金はいくらあっても困らない。だから、今回の猪は本当に有り難かった。貯めていた魔石も放出したからそこそこの金額はあるんだけど、金はいくらあっても邪魔にはならない。
何しろ父親からレントに渡された資金は微々たるもので、必要なものが全く揃えられない。
父よ、世の物価というものを知っているか?
中古や古着でなんとか揃えられるかも、と言うレベルだぞ。
学園の制服だって、古着で簡単に買えるものでなく、どうしようかと思っていたところ、ようやく入学半月前等と言う時期に兄のお古が回ってきた。兄のお古に関してはとりあえずジュスト経由で情報があったから慌てずに済んだのだ。
俺より一回り大きな制服は、メノウとルピウがいろいろ手直ししてくれた。
兄はオーダーメイドなのにな!
つか、お直しがいるくらの体格差なのかよ! 腹立つわー。
とりあえず、こちらで揃えるのは最低限に止まった。
残りは王都で揃えよう。そのための資金はあるんだし。
王都の物価は不明だけど、よほど高いものでない限りは何とかなる筈だ。
何とかしてみせる。俺、中身はド庶民だから。節約生活には慣れている。王都に百均ないかなあ。
まあ、王都で落ち着いたらギルドで依頼をこなしてまた稼げば補填もしていけるだろう。多分。
「レノン様、お身体にはお気をつけください」
「ありがとう、レント。みんなも元気でね」
出発の朝、馬車の前にみんなが集まって来ていた。
と、言っても五人しかいないんだけどね。
この別邸にいる使用人全員と、わざわざ来てくれたマルトも含めての五人。
「レノン様、これを…」
涙目でメノウが小箱を差し出してきた。
受け取り中を見ると、ペンとインクの筆記セットだ。ペン軸の感じからして彼女たちにとって決して安いものではない。
「これ…」
「みんなでお金を貯めました。お勉強、頑張って下さい」
ルピウが泣き笑いの顔で言った。
「ありがとう!」
俺は小箱を抱き締める。
俺は、親には恵まれなかったけれど、それ以外には恵まれた。
なんて有り難いことだろう。
少なくとも独りではなかったのたから。
俺まで泣きそうになりながら礼を述べ、馬車に乗る。
荷物はとうに積まれている。
そもそも俺の荷物は少ない。トランク二つで収まるのだ。私物そのものが少ないからな。
鉱石関係は、もちもちたちに頼んで出来る限り集めて収納に放り込んである。部屋の私物もシーツとかそう言うの以外は収納済みだ。
下手に残して行けば、きっと捨てられるからな。
だから何も残さない。
どうせ、ここにはもう帰らないんだから、残す意味もない。
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
皆の声を背に馬車は走り出した。
がたごと揺れる馬車は大変乗り心地が悪い。とにかく、尻が痛いんじゃあ。
普段、両親が乗る馬車はまだ乗り心地は良いだろうが、俺が乗るのは使用人が使う馬車だ。
うちには数台の馬車がある。客用、家人用、使用人用、荷馬車。この四種類だ。
日本で言えば、客用は高級外車、家人用は高級国産車、使用人用は一般国産車、荷馬車は軽トラみたいなものだ。
自動車なら、一般国産車でも乗り心地に問題ないが、馬車となると話は変わる。
道が違うからな。当然こちらの道は舗装されていない。町やその周辺は石畳だが、そこから離れればただの地面だ。ところどころ、大穴が空いている。雨が降ったら巨大な水溜まりができるんだろう。よかった。雨降ってなくて。晴天なら晴天で、砂ぼこりだ凄いんだよなあ。劣悪。
そんな道だから馬車のグレードが落ちれば、当然乗り心地も悪くなる。
道の凹凸を全部拾うからな。
それでも辻馬車や乗り合い馬車よりはマシな方だと言える。
馭者もうちの使用人だから、安全だし。乗ってるの俺だけだから、広く使えるし。
辻馬車を覚悟していたから、使用人馬車であっても充分だよ。
父親も少しは気にしてくれたのかね。
よく判らないけど。
馭者も俺に同情してくれているのか言葉数は少ないけど、そこはかとなく親切だし。
だから、王都までの道のりはそれほど酷いものではなかった。まあ、退屈ではあったけどね。
◇◆◇
王都は領地の何倍も賑やかと言うか、華やかだった。
なるほどこれが都会と言うやつかあ。
東京とかと比べたら、そりゃあお話にはならないけどね。
渋谷とかさ。
あれと比べたら、まあ、ね。てか、比べたら駄目だわな。
それでも、領地より遥かに人は多い。人種も。職業も。商店だけでなく出店も沢山だ。
あれは肉じゃなくて、菓子か? 甘い匂いがここまで漂って来るよ。
通り過ぎた広場には大道芸人が数組いた。
数組いるあたりが、都会なんだよな。それだけ稼げるってことなんだから。
本当に、退屈だけはしなさそうだ。
割とわくわくしているうちに、馬車は学園に着いた。
新しい生活かあ。
何があったとしても、今までよりはきっとましだろう。うん。
新生活、万歳!
異世界転生したけど、三人兄妹の真ん中は大変なんです! 島津香 @mukamam
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