第14話 俺、加護について学ぶ
王都への出発までに他の依頼は受けられないかと思っていたら、何とか薬草採取ができそうなので挑戦することにした。
薬草採取は依頼の中でも、基本中の基本。駆け出しが受ける依頼だ。
まあ、俺駆け出しだし。
でもマルトに鍛えられたからその辺は得意だし。
短時間でクリアできそうだから、丁度いい。
そういう訳で薬草を探して森を歩いているのだが、何故か俺のあとを付いて来る奴がいる。
「あんた、なに?」
最初は方向が同じだけかと思ったけど、あちこちうろついているのに常に数メートル背後にいるんだから、偶然という線は消えた。
いい加減鬱陶しくなって背後を振り返る。
俺のあとをつけて来たのは、オレンジ色の髪の背の高い姉ちゃんだ。
ちょっと、どこかで見たことあるような顔? どこだっけ?
「なんか俺に用?」
睨みながら聞けば、姉ちゃんは軽く首を傾げて口を開く。
「お前はレイだな?」
「そうだけど?」
「…ギロが面白い奴だと言っていた」
「ギロ?」
いきなり出てきた名前に、今度は俺が首を傾げる。
「あんた誰?」
「サズ。ギロの妹だ」
「あー…あ?」
言われて見れば、ギロとちょっと顔立ちが似ているような気が、する?
見たことあるような気がしたのはだからか?
ギロは濃いオレンジ色の髪だし、サズは明るいオレンジ色だ。
色合いは似てる。
「で、その妹が俺に何の用?」
「ギロが駆け出しと組むのは珍しい。訳を聞いたら、お前は面白い奴だと言っていた。確かにお前は面白い」
「…………?」
なんだろう?
サズはなんでこんなぶっきらぼうな話し方をするんだろう。
もしかして俺は喧嘩を売られているのか?
いや、敵意や殺気はないな。ってことは、コミュ障か、コミュ障なんだな?
「ギロがしている守護の指輪は、お前が作ったんだろう?」
「え、判るのか?」
「漏れだしている魔力がお前のものと同質だからな」
「魔力…」
あの指輪から俺の魔力が漏れ出している?
初めて知ったよ。
そんなの気にしたことなかった。
っていうか、他人の魔力を気にしたことがないわ。
「…それ、誰でも判るのか?」
俺の質問にサズは数秒間首を傾げて後、横に振った。
「判る魔法使いは、多くはない。が、少なくもない」
「は? どっちだ?」
すげー適当感満載。
「それは…三人に一人くらいか?」
再びサズは首を傾げたのつ首を横に振った。
「いや…四人に一人くらいだ」
「あ、そ…」
確かに、多くはないが少なくもないな。
しかし見て判る人間がいると言うことだ。
となると、魔力は隠すようにした方がいいんだろうか?
「魔力を消したりできるのか…?」
それ、どうやるんだ? 隠匿か何かか?
隠匿は、あの本には載ってなかったな。
つまり、初級の術式じゃないってことだ。
「お前の術式は甘いから魔力が漏れるんだ。効率の良い術式ならば、もっと魔力は抑えられる」
術式が甘いって、似たようなこと前にも聞いたな。
確か、学園の先生だったか。そうか、拙いって言ってたのはこういうことか。
そりゃ仕方がない。俺は初級の本しか見ていないんだから。
「まあ、それは…おいおい学んでいくさ」
学園に入学したら学べる筈だ。
俺はそれだけを期待している。でもってもっと良いものを造ってやる。
「それと」
「うん?」
まだあるのか。
「精霊の加護はどうやって使っているんだ?」
「!」
加護のことまで知っているのか。まさかギロが話したんじゃないよな。
そんなに口が軽いイメージじゃなかったんだが。
胡乱そうにサズを見れば、サズは肩を竦めた。
「見たら、判る」
「それも四人に一人?」
「いや、十人に一人、以下だな」
「十人に一人に入るサズは何者?」
ギロの妹と言うことは解った。けどそれだけじゃないよな?
「これでもA級の魔法使いだ」
「だから精霊の加護も判るのか」
兄妹揃ってA級かよ。
とんでもねぇな。
「精霊の加護は珍しい。しかもお前は四属性ある。もっと珍しい」
そこまで判るのか。ヤバい。
サズ、ヤバい。
「加護の数は他言無用にしてくれ。うちにバレるとまずいんだ」
「わかっている。加護持ちは大変だからな。加護の数が判る者はもっと少ないから、心配しなくてもいい」
「そうなのか…」
「私は『精霊の眼』があるからな」
特殊スキル持ちか。
ってことは、鑑定持ちも気を付けた方がいいってことだな。
「それで加護だ」
一区切りついたところで、話が最初に戻った。
「どう使うって? 錬金以外で使ったことないな」
狩りは専ら大鎌を使うから、精霊の加護を使う必要がない。
大鎌は、切れ味抜群だもんな。
だから精霊の加護はアクセサリー作りばっかりだ。
あと、身体強化と空間収納?
「勿体ない」
サズは呆れたように残念そうに呟いた。
「そうは言ってもなあ」
「武器に加護を乗せれば、威力が増す。攻撃だってできるだろう」
「…………へえ?」
「お前は属性武器を使うのだろう? 当然だ」
「ギロはそんなの教えてくれなかたった」
「ギロは武器に乗せられるほどの魔力操作が得意ではないし、魔法攻撃はやらない」
「ぇ、そうなんだ」
得意じゃないなら、教えてくれる筈がないか。
魔力操作なんて下手な扱いしたら、万が一の時に対応できないかも知れないもんな。
なら、そういうのがあるよくらい、教えてくれてもいいのに。取っ掛かりがあったら、後々変わることもあるだろうに。
「武器に加護を乗せる、か…」
「教えてやろうか?」
「マジで!」
いきなりの申し出に聞き返せば、サズは頷いた。
「ただし、条件がある。私も守護の指輪が欲しい」
「作りが甘いやつだぞ?」
「問題ない」
「サズがそれでいいなら、俺は構わないけど…」
「充分だ」
交渉成立。
俺は大鎌に魔力を乗せる方法をサズに教えてもらった。
やり方は、刃の部分に膜を貼るように魔力で覆う。気持ちはラップでくるむみたいな。
膜を薄くするのは、一番イメージしやすかった。
サズには感心された。
薄くするイメージは、なかなか掴めないんだそうだ。
確かになあ。
こちらの世界で一番イメージしやすい紙でも割と厚いし布も厚い。絹でもラップに比べたら絶対的に厚い。
その辺りの厚みでも出来なくはないが、魔力の無駄遣いになるらしい。
あと、ムラになる。
厚みよりムラがあるのが良くないんだとさ。
俺はラップをイメージしているから、ムラはない。
あと、ラップって何かを覆うのに最適のイメージなんだよな。
お陰で、覆わせた魔力に加護を乗せるのは、最初のコツさえ掴めればあとは簡単だった。
火を纏わせたり氷や風を纏わせたり。
対称の属性に合わせれば威力は倍増。
でもって、それができれば攻撃に転化するのも簡単だった。イメージしたラップを丸めてぶつければいいんだから。
うわー、今からなんか狩りに行きてぇ。
時間的に、絶対無理なんだけど。
次、次の機会はあるのか?
「とりあえず、試す時は周囲に気をつけろ」
「分かった」
サズの忠告に素直に頷く。
火なんか、特に周りに誰かがいたら危ないもんな。
「今日は助かった」
「うん」
「指輪は…出来たら…いつ渡せるんだ?」
「ギルドに預けておいてくれればいい」
「ギルドな。分かった」
となると、あと一回くらいは何とか出てくる必要があるな。
スケジューリング頑張ろう。
次の機会を願いつつ、俺たちはギルドに戻る。
薬草採取の依頼を完了した後、俺はサズと別れた。
さて、帰ったら指輪を作らないとな。
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