番外編 ある少年の告白



僕の両親はとても仲が良い。



突然何を言っているんだと思うだろうがどうかこのまま付き合って欲しい。

『その後』の話を聞きたい人だっているだろう?



では話を戻そう。

えーと、、、そうーーー


僕の両親はとても仲が良い。

1番身近にいる俺が言うんだから間違いない。



家でも外でも手を繋いで離れないのは当たり前。


ご飯はいつも一緒に作り味見と称して食べさせあって居る。


別々の職場に向かうとき離れがたいように抱きしめ合いながら愛を囁くような人たちだ。


別々の職場と言っても父さんは私立A学園高等学校高校の教師、母さんはその系列の保育園で保育士をしている。

同じ敷地内で隣り合わせにある高校と保育園の校舎だ。

休憩時間は学校境の塀まで来てロ○オとジュリ○ットよろしく愛を囁きながら逢瀬を繰り返えすこの二人は、離れると息も出来ないレベルなのかもしれない。


ちなみにこの光景は隠れ名物として人気を博しており、毎日抽選で1組限定で昼休み中隠しスポットで見られる裏抽選会が開かれていると言う。

もちろん本人達はそんな事はつゆ知らず毎日(バレていないと思い込みながら)イチャイチャしている。


こんな感じでいくら上げでもキリがないレベルの仲良し夫婦。

これを見せられる息子の気持ちも考えて欲しいよ。



はぁ、、ほらまた玄関先でイチャついている。

いってらっしゃいのチューって、、、出勤時間も道のりも一緒の癖に。。。

あっ、でもそろそろやめないとあの人・・・が来ちゃうよ。




「あらあら山田家の皆さんおはようございます。朝から仲が宜しくて結構。

でも急がないとお仕事増えちゃいますよ、山田先生。

ではお先に。

ゆづ葉、ーーけっけい、お先にいってきまーす!」



あー既に遅かったか。

父さんまた今日も残業確定だ。まぁ目をつけられた人が悪いよ。 



今″行ってきます”と出て行った彼女は父さんの働いている学校の校長だ。

そして母さんの古い友人でもある。



名前は足立夕子さん。

幼馴染の母さんと離れたくないあまり、学生にしてマンションの1フロアを買い取り我が家の隣に居を構える言う過去を持つ強者だ。

そして毎日懲りずに2人を引っ掻き回す粘着質な所もある。


そんな彼女は僕が産まれた時から側にいるのが当たり前の存在だった。


母さんが子供の時からの夢を叶える為、短大へ通い出した時も常に傍にいてくれた。


そんな家族以上に家族のような存在だった夕子さんだが、いつも一緒にいる事で気づいた事があった。

そう、母さんを見る時だけしか見せない表情だ。

それは母さんが父さんを、父さんが母さんを見つめる時と同じ表情。



いつの頃からか『あぁ、そうなんだ』と理解した。

それと同時に自分も夕子さんにその表情で見て貰いたいと思ったんだ。

あの熱い眼差しで、、、。

その時にやっと自分の感情に気付いたんだ。



僕はーーー夕子さんを異性として好ましく思って居るのだと。



でも僕を見る夕子さんは母さんと同じく子供への愛情で、僕が向けて欲しい感情とは程遠かった。



自分が子供だからダメなんだ!と、早く大人になれるよう努力した。

身体を鍛え、勉強も頑張った。

身長も順調に伸び、あっという間に夕子さんを抜き、そして父さんにも届こうとしていた。


それでも夕子さんは母さんしか・・見ようとはなかった。




そして時は過ぎ、僕は高校生になった。

入学したのは父さんが勤める学校、つまり夕子さんの学校だ。



父さんは当初入学に反対していた。

親が教師の学校だと変に勘繰られると。

成績が良ければ良い程疑われる、苦労するのは目に見えていると。



それでも折れない俺に母さんが




「慶は決めたら一直線だからね。

いいじゃない、好きにさせてあげましょう。

でも何があっても人の所為にだけはしない事。ーーーあとは折れない心かしら。ふふっ、あの子・・・は手強いわよ。しかもライバルは無限よ。

慶、頑張って仕留めなさい。」




そう言って母さんは父さんを渋々ながらも納得させ、そして僕にエールを送った。



いつもは鈍感過ぎる母さんだが妙な所で感はが鋭い。

僕の彼女への感情に気付いて居たみたいだ。



こうして夕子さんが校長を務める高校に通うことになった僕は、四六時中夕子さんを口説く事に専念した。




そして今日も校長室を訪れ愛を囁く。




「愛しい夕子さん、会いたかった。

授業で会えない時間がもどかしいよ。

いつ何時でも傍にいたいのに、、、。

早く一番近い存在になりたい。

だから、そろそろ良い返事をくれないかな?」



       

手を取りながら語れば、すぐ離され距離を取られる。

野良猫みたいで可愛いな。




「はぁー。。

慶、、、いい加減しつこいよ?

こんなやりとりを始めてどのくらい経ってると思うの?」




窓の外を眺めながら話す夕子さんの横顔を見ながら思い出す。




「んーー、僕が小3の時に初めて気持ちを伝えたから、、、8年だね。

それが何?

寧ろ年々気持ちが増していくからそろそろ全てに置いて限界に近いけど。」




そう答えればまた深いため息を吐いた。

そして強い口調で話す。




「だ・か・ら!!もうやめなよ!!

慶のその気持ちってヤツは母親に対してのモノだって。

小さい頃から、それこそおむつ替えまでしていたんだよ!?

それを実の母親じゃ無い私だから無意識に恋だと変換して盛り上がってるだけなの。

そろそろ気付きなさいよ!!!」




何を言ってるか分からないな。

こんなにも『好き』『愛してる』という感情が母親に対しての物の訳が無いのに。

それにーーー





「夕子さんもそろそろ気づいたら?

僕のこと結構前から意識してるの分かってる?

朝だって僕に声をかけるだけでどもって居たし、今だって、、、此方を見ずそっぽを向いてるのは、自分で言った事に傷ついて居るんでしょ?

『その気持ちってヤツは母親に対してのモノ。恋だと変換して盛り上がってるだけ。』って言葉で。

でも大丈夫だよ。僕は本当に心から夕子さんを女性として愛してるんだから。

さぁこっちを向いて?」




頬に手を触れ強制的に此方を向かせれば夕子さんは真っ赤に頬を染め潤んだ瞳をしている。




「~~~~~!!!!」




見られた事への恥ずかしさからか声の無い叫びを上げ更に顔を真っ赤に染め上げる。

ーーーくそっ、、なんて可愛いんだ!!




「夕子さんっ、その顔反則!!

そんな顔されたら理性が効かなくなっちゃうよ。


ーーーーーここで襲われたいの?」




そう熱を孕んだ目で語れば、瞬間夕子さんの腰が砕け倒れそうになった。

僕は慌てて抱き止める。顔と顔が近い。今すぐにでもキスができる距離。

その状態でパニックになった夕子さんは『あっ、あっ、。』と口をパクパクさせたかと思うと、突然助けを求めるように大声で叫んだ。




「尚美、尚美!!!来て早く!!!

そしてコイツ追っ払って!!!」



夕子さんが呼んだのは秘書を務める藤堂尚美さん。

高校からの同級生で大学から今に至るまで夕子さんの側に居てさり気なく支え、見守って来た夕子さんが信頼を置いている一人だ。



まったく。今優しく身体を支えて居る人物対して追っ払ってとは失礼な。

だが、その言葉に反応する人は居ない。

訝しげな表情の夕子さんに事実を伝える。




「あぁ尚美さんね、あの人は来ないよ。僕の協力者その①だからね。寧ろ今校長室ここに規制線張ってくれてるし。

いや~良い人だよね。

『夕子さんを幸せにするので有れば協力は惜しまない。私の大切な人をよろしく』って。」




夕子さんは信じられないと言うような顔をしている。

まぁそうだろう。

尚美さんは夕子さんの事を本気で・・・愛している人だから。

でも、だからこそ彼女に認められれば、これ以上に強い味方は居ない。



ハッと気を取り直し今度は電話を掛けようとして居る。

スマホの画面が見える。

えーーと相手は、、、




「結城姉に電話しようとしても無理だよ。」




結城姉とは僕の従姉妹にあたる人物だ。夕子さんと同時期から家の逆隣に叔母さんと共に住んでいる。




「まっ、まさか。」





驚愕した顔となる。

そりゃそうだよね。結城姉は夕子さんに逆らうはずがない。高校時代から本人曰く″愛の奴隷″だったそうだから。




「その通り。結城姉は協力者その②ね。今日は携帯を家に偶々・・忘れたみたいだよ。

だから残念ながら我が校の事務局からここに駆けつけられない。

あっ。そういえば『二大お姉様と家族~~ふ、ふ、ふ~♪』って歌ってたなぁ。」




一瞬で空気が冷たくなる。




「あの、おバカが!!!」




夕子さんは冷たい表情で窓の外を睨みつけている。

ーーーあぁこれは結城姉に後で謝らないとな。

まぁ逆に「かつて無いマジオコ顔!!」って喜びそうでは有るけどさ。




「で?

そろそろ返事をくれるかな?

理事長お義父さん名誉顧問叔父さんも僕と夕子さんの結婚式を楽しみにして居るんだよ?

ーーーさぁ応えを聞かせて??」




『四面楚歌。。。』

と小さく呟いた後、泣きそうな顔で僕に問い掛ける。

僕は全て真剣に受け止める。




「私、おばさんだよ?」




「うん。」





「我儘だよ?」





「うん。」





「まだゆづ葉を忘れられないよ?」





「うん。」





「自分の子供みたいな存在に惹かれるヤバイ人だよ?」





「うん。」





「それで幸せになれると思う?」





ここで漸く言葉を発した。





「例えおばさんだとしても、

我が儘だとしても、

母さんをまだ好きだとしても、

子供みたいな俺に惹かれたとしても、


僕は全部を受け止める。

そのままの夕子が好きなんだ。

そのままの夕子を愛して居るんだ。


幸せになれる?じゃ無い!!

俺が幸せにするんだ!!!

そして夕子が傍に居れば俺は幸せなんだ。

他人なんて関係ない!

俺たちだけの幸せを掴もうよ。。。

だからーーー俺に夕子の全てをくれ。」




勢い余ってギュッと抱き締めてしまったが夕子は全く拒絶しなかった。

それどころか頬を染めコクンッと頷いでくれた。





「OKなんだな?!」





涙を流しながら頷く夕子。





「ーーーうん。ーーーー幸せに、、して。


慶、愛してる!!!」





「もう夕子を離せない!離したくない!」





そのままお互いの唇が重なった。




柔らかい感触。甘くそして熱を孕んだ唇を何度も何度も合わせる。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




っと、僕の話はここまでにしよう。



後は、、、語るまでもない。




『その後』の話は楽しめたかな?




最後に一つだけ言うので有れば、、、そうこの話をしよう。





数年後。

結婚式を挙げていなかった両親が、ある新婚夫婦・・・・と共に合同で結婚式を挙げた。

そして再び火の付いた彼らがその後、長女と孫を同時に授かったそうだ。






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私好みのあなた。もう離しませんよ。 ポカポカ妖気 @ahohanako

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