筋肉聖女と呼ばないでっ

東束 末木

筋肉聖女の旅立ち

「ミリアルド様、ミリアルド・ローエングラム様」

王城の廊下を歩いていると、城の侍女から声が掛かった。


「あら、何かしら?」

侍女に顔を向けると、たちまち頬を染めて視線を落として・・・

もうっ! みんな反応しすぎよ! そこまでじゃあないでしょうに。

って言っても、これっていつもの事だから、もう諦めたけどね。はぁ。


「失礼いたします。王女殿下がお茶会にお招きしたいと」

「まあ素敵。何時いつかしら?」

一応訊きはするけど、まあ答えは半ば予想できているのよね。


「それが・・・『今から』とのことです」

ふふ、だと思った。


本来お茶会というのは、開催する側も招待される側も様々な準備が必要となる。

だから、今日これからなどという誘い方はありえない。例えそれが王女でもね。

だから、それを伝える侍女が戸惑ったとしても仕方がない。だってありえないのよ?


でもね、私とフィリア王女の間の『お茶会』は違うの。

だってそこには何の思惑も裏表もないんだもの。

ただ「暇ならお話しましょう」というだけの軽いお誘い。それだけなのよね。

だから、


「あら丁度いいですわね。今からなら何の予定もありませんから。場所はフィリア殿下のお部屋かしら?」

なんてふうに応えるわけ。


「え、あ、はい。そうです」

私の軽い受け答えに驚く侍女。ふふっ、ごめんね。

侍女と言っても上級貴族の子女だったりするのだから、まあそれは驚くでしょうね。


「時々あることだから、あなたも気にすることはないわ。フィリア殿下には身支度を整えてから伺うと伝えてね」

まだちょっと困ったような顔の侍女にそう伝え、微笑みを残して自室に向かう。

後ろで侍女が顔を真っ赤にして硬直してるのには気づいていたけど、まあがんばれ。



私の肩書きは、ローエングラム公爵家の第一子で、そしてなんと聖女。

公爵というのは王位継承権を持つ特別な爵位。そして私の母親であるローエングラム元王女が、かつて聖女として勇者たちとともに魔王を討ち取った時に得た爵位。

なので、私も王位継承権を持っている。順位は高くないけどね。


魔王を討ち取ったそのパーティには、お母様の弟――当時王子で今王様――も勇者として加わっていた。

王族から2名も魔王討伐に参加するなんて正気の沙汰とは思えないけど、これって実は神託によるものだったんだって。

王宮内でも色々揉めたらしいけど、まあ神様に言われちゃったら仕方がないわよね。

だって、神様の言う事に反対できる人なんている?


というわけで、神託により勇者の力を得た王子と聖女の力を得た王女。

仲間と協力して、攻め込んできた魔王軍を迎え討ち、そして倒しました、と。

まるでおとぎ話みたいじゃない。


実際にお話にもなってるしね。

すごくたくさんの種類の英雄譚が作られて、そのどれもが大人気。

どうやって魔王を倒したのかは一切公表されてないから、みんな想像と工夫をこらして様々なバリエーションを生み出してきたみたい。


これって学者たちにとっても興味をそそる題材みたいで、どれが実話に近いのかを論点とした、ひとつの学問にもなっているとか。

そのうえ派閥に別れて日々論争を繰り広げているというのだから、正直頭が痛い。

まあ平和な証拠ってことなのかしらねえ。


その平和の中、公爵となったお母様が婿としてお父様を迎え、そして私が生まれたのだけど、そこでまた神託があったらしい。

聖女の力がお母様から私に引き継がれた、って。


聖女として認定された私は、12歳から王城に自室を用意される事になった。

そしてそれからは王城で生活するようになり、そして今に至る。

はい、以上回想終わり。



支度を終えた私は、従妹であるフィリア王女の部屋へ。

「お招きありがとうフィリア。呼んでくれてうれしいわ」

「ミリアお姉さま! ようこそおいでくださいました」


フィリアはこのローゼンシュタイン王国の第一王女。

年は私より2歳下。

私が城で暮らすようになってからの4年間ずっと一緒に過ごしてきたから、今ではすっかり姉妹のような関係。

最初の頃はちょっとギクシャクした時期もあったりしたけどね。


そうそう、私ってミリアルドっていう名前があまり好きじゃないのよね。

だって、名前の響きがまるで男性みたいじゃない。ね、そう思わない?

打ち解けてすぐぐらいの頃だったかしら。フィリアにそんな話をしたら、それから彼女は私のことを「ミリアお姉さま」と呼んでくれるようになった。

だから、この呼び名はフィリアだけの特別な呼び名。

今に至るまで、他の誰にも「ミリア」と呼ばせたことはない。



「今日は最近人気のお菓子が届きましたの」

「まあ、それは素敵ね。どんなお菓子かしら」

会話の流れに合わせたタイミングでテーブルにお茶とお菓子が並べられる。

ほほう、さすが王女付きの侍女。いい仕事するじゃない。

さっき案内してくれた子も、いつかこんな仕事できるようになれるかしら。


「私も初めてなんですけど、マカロンって言うそうですの」

「あら、小さくってかわいい。それに色どりも綺麗ね」

見た目だけでも人気が出る理由がわかるわね。


そのマカロンをひとつつまんで口に入れてみると、

「あら? 何か不思議な食感ね。優しい甘みと香りだけが口の中に残って・・・」

「ミリアお姉さま、これすっごく美味しいですね・・・」

「ええ、すごいわね、このお菓子」

今度私も取り寄せましょう。



初めてのお菓子を一頻ひとしきり堪能し、紅茶を区切りに次の話題へ。

「そういえばお姉さま、また求婚のお申し出があったとか」

ああ、口に残るほのかな甘みが一瞬で苦みに変わった。

ねえフィリア、正直これは避けたい話題よ?


「皆さん示し合わせたように美しいとか可憐とか・・・花や月に例えるのは最近の流行りかしら? それはまあ確かに私も自分の容姿が中々のものとは自覚していますが・・・それにしても皆さんの目つきがあまりにあんまりなので、もう最近では話しかけられる前から逃げ道を探すのが習慣に・・・」


断るのも避けるのもホント大変。すっごく疲れるのよね。

しかも皆さん何度断ってもしつこく寄ってくるし。

こういうのって、ひとりワンチャンスとかじゃないの?

あの目とあの顔つき、もう思い出すだけで背筋が寒くなるのよ。


「お姉さまの美貌は中々どころではないのですが・・・それは自覚できているとは言えないのではないかしら?」

何かフィリアが呟いているみたいだけど、背筋を震わせる私には聞こえない。


「その様子ではまだもうしばらくこうしてご一緒いただけそうですね。ふふふ、わたしにとってはとても嬉しいことですのよ」

「ええ、私もよフィリア。この先もずっと一緒にいましょうね」


この話題はここまで! 終了! もう続けない!

さ、次の話題にいきましょ。

「そういえば、あれから勇者の神託ってありました?」

そうフィリアに問いかける。


「いいえ、それらしい話は聞いていませんわ。という事は、やっぱりお父様って今でもまだ勇者なんでしょうか? 何だかとても勇者って感じがしませんけれど」


そう、それは私も感じてる。

相対すると王の威厳は感じるけど、勇者って言われると何か違う気がするの。

じゃあ勇者って何?って言っても、おとぎ話に出てくる勇者くらいしか知らないのだけど。でも親子ほど年の離れた勇者と聖女って・・・ねえ。


そんな取り留めもない話をしていると、急に部屋の外が騒がしくなった。

廊下を走り回るような音や話し声。何? いったい何事?


「どうしたのかしら?」

ただ事ではなさそうな気配にフィリアと顔を見合わせていると、

「少々様子を見て参ります」

ここで、できる侍女さんが動いた。


彼女は扉からするりと半身を出し、近くにいた衛兵に声をかけて一言二言。

その衛兵は部下と思われる別の衛兵を呼び寄せ指示を送り、部下の衛兵は小走りに駆けていった。


その様子に軽く頷いた侍女さんは部屋に戻り扉を閉める。

「今のところ状況は不明ですが、確認に行かせておりますので間もなく分かるかと思います。すみませんが少々お待ちください」


一連の流れるような応対には全く隙がない。この侍女さん、いったい何者?

「取り敢えず、今日のお茶会はここまでにしたほうがよさそうね。お話の続きはまた次回にしましょう。そうね、じゃあ次のお茶会は私の部屋にご招待しましょうか」


それを聞いたフィリアからは一瞬で不安げな表情が消し飛び、

「うれしいですわ! ご招待、お待ちしていますね」

弾けるような笑顔でそう応えた。



「少々失礼します」

ふと侍女さんが扉に向かって歩き出すと、数歩歩いたあたりで扉が外からノックされる音が響いた。

侍女さんはすかさず扉を少し開け、ノックしたままの姿勢の衛兵さんから話を聞き始める。


あれ? 今ノックの前に動き出してたよね? え?


謎の侍女さんは、衛兵から話を聞き終えると、こちらへ戻ってきた。

「国王陛下がミリア様をお呼びとの事です。聖女の装いで謁見の間までお越しいただきたいと」


ホントに何があったのかしら。聖女の装いで呼ばれるなんて。

急いで部屋に戻って着替えないと。

「分かりました。一度部屋に戻ってから伺いますとお伝えください」


部屋を出る私の後ろから、フィリアの声が聞こえてきた。

「私も謁見の間に向かいます。アンヌ、準備を。動きやすい服に着替えます」

あの侍女さん、アンヌって名前なんだ。何度も顔を合わせてきたけど、名前を聞いたのは今日が初めてね。

ここまで只者じゃない雰囲気を感じ取ったのも今日が初めてだったけど。


アンヌね、覚えておこう。



装いを整えた私は謁見の間に到着した。

私が歩を止めると、左右それぞれの扉の前に控える衛兵は、一瞬のアイコンタクトで全く同時に扉を開ける。


その淀みない動き、彼らまたプロフェッショナル。扉を開けるプロフェッショナル。

その感動を衛兵たちに目で伝えると、それを正しく受け取った彼らは誇らしげに頭を軽く下げた。ふふっ。


そのまま謁見の間の中ほどまで進み、

「ミリアルド・ローエングラム、参りました」

シンプルに口上を述べる。

この雰囲気ならばこのくらいが丁度いい。


「ああ、よく来てくれたな、聖女ミリアルドよ」

「お待たせいたしました陛下。何があったのかお聞きしても?」

「うむ。おお、フィリアも来たのか。ならばこのままここにいるのが良いだろう。一緒に聞くがよい」

どうやら着替えたフィリアも到着したようだ。後ろから近づいてくる気配を感じる。


「さて。では騎士団長よ、今一度皆に説明せよ」


王の側に控えていた騎士団長は、数歩前に進み朗々と状況説明を始めた。

「現在、王都の周りを数千の魔物が取り囲んでいます」



いきなりの爆弾発言。どこから魔物が? 途中の町や村は無事? なぜ誰も気づかなかったの?

疑問が次々に湧き上がる。でもまずは口を挟まず説明を聞くべきでしょう。

「魔物たちは何の前触れもなく突然出現しました。全方位の門衛・見張りから同様の報告が上がっています。方法は不明ですが、囲まれたとみて間違いないでしょう」


「そして頭の中に響くような声が聞こえたとのこと。内容は『これから魔王様が王に会いに行く。謁見の間で待つがいい』でした。おそらく伝達魔法のたぐいかと思われます」



騎士団長が説明を終えると、すかさず王からの声。

「と言う事だ。相手は魔王と呼ばれるほどの力を持つ者、来ると言うのなら間違いなくここに来るのだろう。皆も別の部屋に退避したいと言うのならば止めはせぬが、おそらくどこも危険度は変わらぬだろうな」

なるほど、それでフィリアを部屋に戻そうとしなかった訳ね。


「状況は理解しました陛下。それで、聖女の装いを指定されたということは、私は聖女として参加すればよろしいのですね」

聖女の力は、「支援」と「回復」から成り立つ。その対象は一点集中ではなく周囲の味方すべて。そのため、軍団規模の対象に効率よく支援や回復を掛けることができるのが最大の特徴だ。

故に今回は外を囲む魔物の群れの殲滅にあたるものかと思ったのだが。


「実は今回の襲撃に関しては女神より神託を得ていたのだ。ミリアルドにはこの謁見の間にて魔王との戦いに参加してもらう」


どういうこと?

女神さま、聖女の運用間違ってない?



それから私達は、謁見の間でできる限りの準備を整えた。

フィリアに防具を付けさせたり、どう頑張っても戦力にならなそうなおじいちゃん達を下がらせたり。

その最中さなか、フィリアの支度を終えたアンヌから鋭い警告の声!

「来ますっ!」


次の瞬間、アンヌの視線の先に突如黒い穴が出現した。

それは「空間に穴が開いた」としか言いようのない、穴そのもの。


そしてその穴の中から・・・

「人間の王よ、魔王ジャック・サイ・シーテンである。控えよ。」

ついに魔王が現れた。




「其の方、魔王ジャックと申したか。一方的に押しかけるとは礼儀を知らぬようだな。次からはアポイントメントを取ってから来るがいい。順番待ちと内容精査で数か月後の謁見となるが、何なら多少早めてやってもよいぞ」

「ふん、訳のわからん事を言うな。先代の魔王のもとに一方的に押しかけてきたのは貴様達であろう」


ああ、それは確かに。これについては魔王の言い分のほうが正しい気がする。


「ふむ、まあよかろう。それで、わざわざここまで何の用で来たのだ?」

「決まっておる。貴様に殺された先代に代わり挨拶に来たのだ! まずは貴様ら全員死ぬがいい! その後に人間どもを根絶やしにしてくれる!」


「よかろう、ならば貴様も先代魔王のもとへ送ってやろう。この勇者の力、思い知るがいい!」


叔父様・・・やっぱり今でもまだ勇者だったのね・・・

いい年した中年勇者・・・ふっ・・・でも、でも頑張って中年勇者っ!


「さあゆくぞ! まずは『攻撃上昇』『防御上昇』『速度上昇』」

「まだまだ! 『対魔特攻付与』『クリティカル上昇』『命中上昇』」

「これもだ! 『回避上昇』『器用上昇』『幸運上昇』」

「さらに行くぞ! 『体力自動回復』『魔力自動回復』『精神自動回復』」

「まだ終わらん! 『物理耐性』『魔法耐性』『精神耐性』」


「よしっ!! さあ往くのだ騎士団長よ! トッピングマシマシだっ!!」

「うおおおぉぉぉぉ!!」


様々な付与を受け、七色に輝く騎士団長が魔王に突撃するっ!! っておい!

勇者の力って、勇者の力って・・・支援!?

え? じゃあ聖女は?


「あの、叔父様? 私って・・・ここで何すればいいのでしょう?」

「うむ! ミリアルドよ、母より受け継がれ女神によってお前の中に封印されていた聖女の力、今こそ解放しよう」


は?


「女神に願い奉る。御身にて施されし聖女の封印、今こそ解き放たれたし!」

「いやあの、封印? 聖女の力? 初めて聞くんですけど・・・ナニソレ?」


混乱する私に天から金色の光が降り注ぎ、私は光に包まれる。

その光の中、私は確かに女神の声を聞いた。


「わたしの聖女、ミリアルドよ。あなたが私の力に耐えられる体となるのを待っていました。・・・わたしは愛と美を司る女神、カリーナです」


ああはい、はじめまして・・・


「わたしの司る愛と美に関しては、すでにあなたの中にあります。しかし、聖女の力に関しては、あなたの体が成熟するまで渡す事が叶わなかったのです」


まあ確かに、私も疑問には感じていた。聖女として魔力の扱い方や様々な魔法を習得してきたけど、能力としては魔法師団長と同等レベル。

すごい力だと思うけど、パーティで魔王と戦えるのコレ?って。


「さあ、今こそあなたに全ての力を授けます。そしてその力を振るうに相応しい、最も美しい姿に!!」


その声とともに私を包む力の奔流!

その力が外から内から私の体を満たすっ!!

その温かさと心地よさの中、限界を突破した私の体が弾けたっ!!

ような気がした。


「これであなたは聖女としての全ての力を得ました。すべてを薙ぎ払う破壊の力、その身を守る不滅の力、属性を無視する全破の力、そして圧倒的な回復の力。この力を解放した今のあなたは、神代の最終兵器『筋肉聖女』として顕現したのです! あなたは今っ! 美しいっっ!!」


そして女神はサービスのつもりか、私の全身の姿を私の脳裏に投影。

何よこれ!?

こんな私、見たくなかったわよっ!! 絶叫っ!!!!


「いやあああぁぁぁ!! そんな怖い存在になるのいやあぁぁ!! 最終兵器って!? 筋肉って!? 絶対嫌ああぁぁぁ!!」


そんな私の精一杯の拒否も叶わず、光は唐突に消える。

そして周りの目に晒される私の・・・姿。


「筋肉・・・」

「神代の・・・」

「なんと神々しい筋肉美・・・」


おじいちゃんたちが何かぼそぼそ言ってる。

さっきの女神の声が聞こえていたのは、どうやら私だけじゃなかったらしい。ううう・・・


そんな混沌とした状況の中聞こえてきた、重々しい王の声。

「うむ、まさに当時の姉上と同じ姿よ。神に祝福されし聖女よ、今こそ魔王を滅するのだ」

「・・・」


私は王に訊かなければならないことがある・・・


「叔父様、他に言うべきことはないのですの?」

「う、うむ。安心せよ、聖女の装いというのはその姿でもはじけ飛ぶことのない不滅の装備。それを着ている限り今のそのマッチョ・・ゲフン・・・筋肉・・ゲフンゲフン・・姿でも問題はない」


「そう、装備についてはまあいいですけど・・・それで終わりですか?」


『(遺言は)それで終わりですか?に聞こえる・・・魔王の100倍怖いんだが・・・』

「い、いやまだあるぞ。今のその姿だが、戦いが終わり安全が確保された時点で元に戻るはずだ」


オーケー理解した。叔父様、命拾いしましたね。


「分かりました。なら早々に終わらせましょう」

見れば、騎士団長の七色の光はすでに消えかかっており、あちこち傷だらけで中々悲惨な姿になっている。

私は魔王の前に立ち、宣言した。


「私の心の平穏の為、今すぐ滅びなさい」


「ふん、大きく出おって。貴様がどれだけ筋肉を・・・」


これ以上余計な口を開くなっ!

左手で魔王の角を掴み、腹パン一発。

あら、なかなかいい感触じゃない。じゃあもう一発。


おや? 白目向いて泡吹いてる? まあ汚い。もう一発。

何かしら? 今鳴った音ってちょっといい感じのじゃない? ドゴッって。

ふふっ、もっといい音鳴るかしら? もう一発。


あら? この魔王っぽかった塊、なんか端からサラサラ崩れて消えていくわね。

って、目を覚ました? ボソボソなんか言ってるわね。

「くっ、我は四天魔王最弱・・・他の・・・」


まいっか。じゃあ完全に消える前にもう一発。ドッゴーン!

うん、いい音いい感触っ。

さて、これで完全に消えたわね・・・





・・・あれ? 今私何してたっけ?

魔王の前に立って・・・ええっと・・・

腹パン×5発、すっごくいい笑顔で。

だって・・・だって、楽しかったんだもの・・・


そおっと周囲を見渡すと、叔父さまやおじいちゃんたちがじっちこちらを見て・・・目を逸らされた!?

あら? アンヌだけはニッコリと・・・サムズアップ!?


その横のフィリアは・・・怖くてフィリアの顔見れないよ!!



「いいぃやあああぁぁぁ!!」



もう周りなんか気にしてる余裕はない。

自室へ駆け戻り、そのままベッドに潜り込んだ。

もう嫌っ!寝るっ!!





翌日。

「おはようございます! ミリアお姉さま」

起き抜けにフィリアの突撃を受けた。


「あら、いつものミリアお姉様に戻ってる・・・。あのっ、昨日のミリアお姉さま、とっても素敵でした。私、すっごく感動しました!」


慌てて自分の姿を鏡で見ると・・・

よかった・・・、元の姿に戻ってる!

本当によかったよぉ・・・

昨日の自分の姿を思い出し、ちょっと涙ぐんだ。


「聞いてください、お姉さま。昨日あれからお父様とお話ししましたの」

「ええっと、それはどんな話だったのかしら?」


「まず、王都を取り囲んでいた魔物ですけど、魔王が滅された瞬間に消えてなくなったんですって」

「それはよかったわ。少し気にはなっていたのよ」

ホントは忘れてたけど。


「それでお父様ですけど、昨日が勇者としての最後のお仕事だったんですって。それで女神様から神託があって、勇者の力はわたしが引き継ぎましたの」

「え!? フィリア、あなたが?」


「ええ。それでお姉さま、ここからが大事なお話です。・・・お姉さまの聖女としての役割なんですけれど、四天魔王の残り三体とそれを率いる魔神を滅すれば終わるんですって」


ほほう、それであの忌まわしい聖女の力から開放される、と。


「ですからお姉さま、勇者のわたしと聖女のお姉さまで全部やっつけて終わらせてしまいましょう」

「そうね、フィリアが一緒だったら私も心強いわ。四天魔王と魔神、それと女神カリーナを滅すればいいのよね」


「お姉さま・・・、お気持ちはよく分かりますが、女神は滅さないでください」

「そう? まあフィリアがそう言うのなら。じゃあ半滅はんめつくらいにしておきましょう」

「お、お姉さま? せめてお話くらいに・・・、あ、お話は口でですよ・・・筋肉で『おはなし』はしないでくださいね」



「いやあああぁぁぁっ! 筋肉って言わないでーーーっ!!」



こうして勇者と聖女の旅が始まる。

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