第7話 嫉妬

 セ、セレナがわたしのことを好き?

 突然、そんなことを言われて、わたしはちょっとどきりとする。


 セレナはふふっと笑って、青い瞳でわたしを見つめている。


「あ、リディア先輩、照れていますね?」


「て、照れてなんかいないもの!」


「顔が赤いですよ」


 セレナがその小さな手を、わたしの頬に当てる。わたしは思わずびくっと震えた。


「リディア先輩って可愛いですよねー♪」


「か、からかわないでほしいな」


「からかっているんじゃなくて、私がリディア先輩のことを大好きなのは本当ですよ?」


「で、でも……」


 そういえば、こんなやり取りをわたしもお姉ちゃんとした気がする。


 そのときは、わたしがお姉ちゃんを大好きと言って、お姉ちゃんが照れて。

 今度は、セレナがわたしを大好きと言い、わたしが照れている。


 セレナがそんなふうに言ってくれるのは嬉しいけれど……。


「リディア先輩は、後輩の私に何でも教えてくれましたから。危ないところも何度も救ってくれましたし。暗殺者として今日まで生きてこられたのは、リディア先輩のおかげです」


「そ、そうかな……」


「はい! だから、今度はわたしがリディア先輩たちの力になりたいんです! 私を冒険者仲間にしてくれませんか?」


「え?」


 わたしとお姉ちゃんは顔を見合わせた。お姉ちゃんも戸惑っている。

 セレナはえへんと胸を張り、そして、楽しそうな表情で言う。


「私、お二人の役に立つと思うんです。リディア先輩と一緒に前衛をこなせます」


 セレナが得意とするのは典型的な暗殺者の戦い方。

 短剣――いわゆるダガーを使い、小回りをきかせながら敵の攻撃を回避して戦う。


 同じ前衛でも、わたしは魔法剣士で、正面から攻撃を受け止めて、火力の高い攻撃を行うタイプだ。

 セレナが前衛としていてくれれば、たしかに心強いとは思う。


 でも……。


 わたしはセレナのことを完全には信用できていなかった。セレナはわたしたちの正体を知っているし、裏切ったら困ったことになる。


 わたしはちらりとお姉ちゃんを見た。

 お姉ちゃんはなぜか頬を膨らませて、わたしを翡翠色の瞳で睨む。


「ふうん……二人は仲が良いのね?」


「えっと……うん。そうかな」


「二人は昔から仲間だったのよね。羨ましいな」


 お姉ちゃんは小声でつぶやいた。

 わたしは目を丸くする。

 セレナが微笑む。


「あ、ソフィア様ってば、もしかして、私に嫉妬してます?」


「し、嫉妬!? なんで私がセレナさんに嫉妬するわけ?」


「大事で可愛い妹をとっていかれたくないからでしょう?」


 セレナの問いに、お姉ちゃんは顔を赤くし、目をそらした。

 も、もしかして……本当にお姉ちゃんがヤキモチ焼いているの?


 わたしはちょっと、ううん、とても嬉しくなった。

 それって、つまり、わたしのことを大事に思ってくれているということだもの。


 わたしはくすっと笑って、お姉ちゃんに近づく。


「大丈夫。わたしが世界で一番大事なのは、お姉ちゃんだもの」


「ほんとに?」


「もちろん!」


 わたしがそう言うと、お姉ちゃんはほっとした表情になり、それから、恥ずかしそうな顔をしてうつむいた。


「わ、私も……リディアのことが……一番大事」





<あとがき>

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悪役令嬢の妹に生まれましたが、破滅後のお姉ちゃんを幸せにするのは私です 軽井広💞キミの理想のメイドになる!12\ @karuihiroshi

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