エピローグ「夢オチ?」


「よくも他人の不幸をそこまで笑っていられるものですね」

 鏡の中の自分は無表情のままこちらを見つめている。

「魔王か?魔王なのか??だったら悪ふざけは辞めろ」

「はて、何を言っているのでしょう」

「俺の顔で妙なことを言うのは止してくれ。気分が悪い。今日のことは悪かったよ。代わりに、隣村をやってくれ。今度は助けに行かないから」

「あなた、自分が何をしているか、分かっているのですか?」

 悪雄は異能力を発動し、時間を止めた。鏡の顔の口も止まる。そして拳で鏡を殴りつけ、鏡を粉々にした。しかし、中の顔は破片となっても、再び話し始めた。

「あなたが成すべき正義を行わず、かえって自分のために他人を陥れたので、“彼”はあなたに代償を求められました。見なさい。あなたの家族は皆殺しにされます」

「いい加減にしろと言ってるんだ魔王!!また聖剣を突き刺すぞ!!」

「魔王?これのことですか??」

 悪雄は恐る恐る割れた破片を覗き見る。どこかは分からない。どこかは分からないが、どこか炉の燃え盛る場所で、魔王の生首が杭に突き刺さり、業火に焼かれている。

「あ!!あぁっ!?魔王!?」

「あなたには失望しました。もう・・・終わりです」

 鏡から手が伸びてきた。血みどろの手だ。赤黒く染まった手が何本も伸びてくる。子どもの手もあれば、大人の手もある。それらは悪雄の腕を掴み、首を掴み、足首を掴み、鏡の中に引き入れた。悪雄は真っ逆さまに堕ちてて行く。




 悪雄はベッドから落ちた。そして猛烈な吐き気に襲われ、悪雄は洗面所に駆け込み、蒸かし芋を吐き出した。恐る恐る、ゆっくりと目の前の鏡を見る。随分若い顔をした青年が写っていた。自分の顔だと認識するまで、時間がかかった。

「戻って・・・来たのか」


 それから数日、悪雄は何もせず、ぼーっとしていた。異世界であったこと、体験したことが頭から離れない。

「あれは夢だったのか」

 悪雄の両親が心配して病院に連れて行ったが、診断結果は“過労”とのことだった。ニートの青年に過労があるものかと、両親はいぶかしげだったが、悪雄はあまり違和感を感じなかった。

 更に1ヵ月が経った。悪雄はあの日々のことを徐々に忘れ始めていた。昔(とは言え、実時間では1ヵ月と少しなのだが)ハマっていたゲームを再びプレイし、『アイバス』の録画を一気見する毎日。懐かしさと楽しさを感じていた頃。家のインターホンが鳴った。悪雄は出ない。こちらの世界では、そうしていたのだから。しかしインターホンは鳴り続ける。

「アシオ」

 誰かが自分を呼んでいる。どこかで聞いたことのある声だ。

「英雄、アシオ」

(もはや疑いようもない。俺はこの声の主を知っている。これは何を意味するのか。彼は知っているのか。俺が“あの世界”で何を画策していたのか。ダメだ。絶対に顔を合わせるわけにはいかない)

 悪雄はコントローラーを放り投げ、パジャマのままベランダの戸を開けた。屋根への階段から、下の物置小屋に飛び移り、地面にジャンプすると裸足のまま駆け出した。庭仕事をしていた父親が目を丸くする。無理もない。ずっと引きこもっていた息子が、いきなりベランダからダイブしてきたのだから。後がめんどくさいので、悪雄は時止めを発動しようとした。が、無論ここで発動するわけもなく、悪雄は父親の前で“燃 萌佳”のポーズをするだけの恰好になった。そのまま走って家の裏口から出ようとしたが、一人の黒人女性にぶち当たり、悪雄は地面に尻もちをつく。

「OH, Sorry boy・・・あなた、アシオよねぇ?」

(この声も聞いたことがある)

 悪雄は恐る恐る顔を上げる。

「ファティマ・・・」

「逃げなくてもいいじゃないか、ブラザー」

後ろからも見慣れた男が歩いてくる。

「ダニー・・・」

 ブレーキ音と共に、ランボルギーニが裏門の前に停車する。貧乏な家にはどう見ても場違いな一台。中から、ブロンドの髪の男が現れる。サングラスを外しながら、男は聞いたことのある声で口を開いた。

「ずいぶん若いお爺さんですね」

「白馬・・・王子」

「話をしませんか。英雄アシオ」


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俺だけの異世界イイ世界 ぶんぶん @Akira_Shoji

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