第17話 『そういうの好き』
ルーチェは呪いから解放されたが万全の状態ではなく、少し話をした後また眠りについてしまった。
ノノの見立てでは、現状起きていられるのは一時間が限界。丸一日活動できるようになるにはまだまだ時間が掛かる──といったことを遅めの昼食の席で聞いていた。
「なんか回復が早くなる方法とかないかな?」
ヒガナはノノに質問をした。
「そうですね、血を与えるというのはどうですか? ルーチェ様は吸血鬼。吸血鬼にとって血は最大の栄養ですから」
「血か……」
あんまり乗り気ではないヒガナ。いくら回復の手助けとはいえ、痛みを伴う自傷して血を流すのは少し気が引ける。
「……やれっていうなら、ヒガナの指を千切る覚悟はできてる」
「なんで千切るんだよ! それに千切る覚悟ってなに!? そんな怖い覚悟いらねぇから!」
「……ヒガナはちゃんと反応してくれて嬉しい」
と言っている水面下でアリスは、苦い緑色の野菜をこっそりとヒガナの皿に移していた。
これがアリスの本命──話に集中させ、皿から目を離した隙に嫌いな野菜をヒガナの皿に忍び込ませる作戦。
まぁ、普通にバレる訳で、
「なにさりげなく移してるんだよ」
「……ご主人様の健康を考えた結果」
「良い風に言ってるけど、単純に嫌いなだけだよな?」
「……別に嫌いじゃない」
「ふぅん、俺は苦手だからアリスに食べてもらおうかな」
移された野菜をフォークで突きながらニヤつくヒガナに対して、アリスは少しいじけた。
「……それは意地悪」
「そんなことしないよ、冗談だよ、冗談。アリスの分もしっかり食べるよ。ルーチェについてはおいおい考えるとして、これからどうするかな」
目の前の問題に立ち向かうのが精一杯で、これから先をどうするかは全く考えていなかったヒガナ。
ルーチェがヒガナを召喚したのかは現状不明。真相の鍵となる記憶は固く閉ざされているからだ。
ならば彼女の記憶を蘇らせることこそ真相への近道だろう。
「思い出の場所、知り合いに会ってみれば、ルーチェの記憶も少しは刺激されるか?」
記憶回復の手段として一応あげてみるが、そもそもルーチェのことを知らないヒガナにはどこへ行けばいいか分からない。
「アリスはルーチェの交友関係とか知ってるか?」
自分の垂れた耳で遊んでいたアリスは、ヒガナに問われて記憶の中を探る。
「……狐さん」
「狐さん?」
「……うん、ルーチェに会いに来てた……九本尻尾がある狐さん……ヌクヌクしたかった」
若干悔しそうに言うアリス。その狐の尻尾で暖をとりたかったのだろう。もふもふ良いもんね。
アリスの発言に反応したのはノノだった。
「もしかして、
「──っ! 知ってるのか!?」
身を乗り出して顔を近付けるヒガナに、ノノは驚いて頬を赤らめる。それから手をパタパタと振って、
「は、はい。
淫魔とは思えない初々しい反応に、エマは苦笑して少し付け加える。
「
こうも簡単に次の手掛かりが得られるとは思ってなかったヒガナは表情を綻ばせる。
「じゃあ、
「……狐さん、ヌクヌクしたい」
「分かった。じゃあ次の目的地は瑞穂ノ国だ」
「ここからずっと東ですよ。王都を抜けて、海を渡った先ですね」
王都という単語にヒガナは少し胸を躍らせた。
ファンタジーにおいてかなりの確率で舞台になり、言葉だけでファンタジー感を演出してくれる王都。
瑞穂ノ国に向かう途中にあるなら是非とも寄ってみたい。
ヒガナは無駄にテンションが上がり、アリスを撫でる。
「王都だってさ、アリス〜」
「……あうぅ」
撫で方が乱暴で若干嫌がるアリス。兎耳も『ヤメろ』と言わんばかりにヒガナに当たっているが、気にしている様子はない。
「あのー」
ヒガナとアリスのじゃれ合いの最中、ノノが軽く手を上げて注目を集める。
「もし王都に行くのでしたら、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「いいぜ、俺にできることなら」
快諾を貰ったノノは一冊の本を懐から取り出して、ヒガナに手渡す。
「これを王都にいるお姉ちゃんに渡して欲しいんです」
「……魔神論?」
「なんか厨二心を躊躇なくくすぐるタイトルだな」
「まぁ、中身は死ぬほどつまらないんですけどね」
「えぇ……つまらないのかよ」
「お姉ちゃん、変な本集めるの趣味なんです」
姉に想いを馳せるノノの表情はとても優しく、耐性がなければ確実に心を奪われてしまっただろう──それくらい魔性の表情をしていた。
×××
その日の夜。王都へ向かう準備……といっても荷造りするほどの荷物を持っていないが、それでも準備している感を出して、セルウスを旅発つ心構えを作る。
すると、扉がノックされエマが二度目の訪問だ。
「今、良いですか?」
「あぁ、アリスも湯浴みに行ってて暇だったんだ」
「それは重畳です。ちょっと夜風に吹かれながらお喋りと洒落込みましょうよ」
これが最後ですから、とエマは微笑した。
世界の空気はどこまでも澄んでいて、夜空に輝く星々の光が惜しげもなく地上へと射し込む。
その中で一際輝く月と、天使のような少女の組み合わせは幻想的な光景で神話の一部を切り取ったみたいだ。
神々しい光景を一般的にしているヒガナはパーカーを手に突っ込んで夜空を見上げていた。
「なぁ、さっきのこれが最後ってどういう意味?」
「そのままの意味ですよ。私たちは帝国に戻るので。面倒臭いですけど調査報告しなければいけませんから」
「そっか……お別れか」
たった数日の付き合いだが、ヒガナにとってエマは死の象徴であると同時に頼りになる存在となっていた。死地を共に過ごし、ある種の連帯感を感じていたのかもしれない。
別れとなると寂しいと感じてしまう。
その感情が顔に出ていたのだろう。エマはヒガナの顔を覗き込んでニヤついた。
「もしかして私たちの離れるのが寂しいんですか?」
「そりゃ……まぁ、な」
恥かしげに頬を掻きながら言うヒガナに、エマはくつくつと笑う。
「嬉しいですねぇ、実は私も結構寂しいんですよ? ヒガナさんは話しやすいですし、アリスさんの不思議な感じはクセになりますし」
「おぉ、俺もエマちゃんとは話しやすいと思っていたんだ。なんかこう会話のラリーが心地良いつうか」
「どうやら私たち相性良いみたいですね」
二人は顔を合わせて笑ってハイタッチをする。
「と言っても私とノノちゃんの相性には到底及びませんけどね」
「ノノちゃんか……超癒し系だよな。見ていると色々危ないけどな」
「普通にしているだけで他人の理性を殺しにかかってますからね。体質って怖いですよね」
「全くもってその通りだな」
二人揃って肩を竦める。
エマはノノの体質に理性を殺されかけても、衝動的な行動を起こさなかったヒガナの忍耐力の高さに賞賛を心の中でひっそりと送った。
「でも、ヒガナさんの淫魔難はまだまだ続きますね」
「あー、ノノちゃんの姉ちゃんか。どんな子なんだろう?」
まだ見ぬノノの姉を頭の中で想像するヒガナ。
そんなヒガナにエマは同情の視線を浴びせた。
「あの姉は信じられないくらい性格悪いですよ。ノノちゃんの清らかな性格を泥水で限界まで濁らせたら姉の性格になります」
「評価エグいな!」
「これでも甘めに言っているんですよ。もし悪魔が存在しているとしたら、間違いなくあの姉のことです」
「それは性格の悪い淫魔って意味か?」
「茶化さないでくださいよ。私がつまらないこと言ってるみたいになるじゃないですか」
頬を膨らませて不満を露わにするエマの頭をしてやったり顔で撫でるヒガナ。
濡羽色の髪はとても柔らかくて指通りがすこぶる良い。
エマは特に嫌がったりはせずに頭を撫でられている。
他人が見たら兄妹のようだ。似ているのは髪色だけだが。
「あぁ、あれですね。ヒガナさんは淫魔との相性が普通の人より格段に良いので姉に相当遊ばれますよ……卑猥な意味も込めて」
「一気にダメな感じになったんだけど!? つか、そんなに淫魔との相性良いのか、俺」
淫魔といえば可愛い又は綺麗な女性というイメージがヒガナの中では強い。そんな淫魔との相性が良いと言われれば正直悪い気はしない……しないが、色々と危険な香りがするのも事実だ。
「淫魔というより魔族ですかね。魔族を誑かすフェロモンでも出てるんじゃないんですか?」
「俺にそんな特殊スキルはないと思うんだけどな」
「魔族のハーレムでも作ったらどうですか? 結構楽しいかもしれませんよ」
エマの冗談を重ね塗りした言い方に、ヒガナも冗談っぽく「それもいいかもな」と返す。
「けど、俺にはそんな甲斐性は皆無さ。アリスだけでもいっぱいいっぱいなんだから。ハーレムなんて形成したらすぐに潰れちまうよ」
「アリスさんはどんなハーレム王でも持て余すよ思いますよ」
「かもな」
ここで会話が途切れて無言の時間が少し続いた。
しかし、二人の間に気まずさというものは一切なく、寧ろ心地良いものですらあった。
暫しの沈黙を破ったのはエマだった。
「一つ忠告です。王都に行ったらアリスさんの動向には十分に注意を払った方がいいですよ」
「どういう意味だ?」
「言い方が悪かったですね。アリスさんから目を離すな、と言った方がいいですかね。王都はある意味ではアリスさんにとっては因縁の場所ですから」
意味深な発言にヒガナは眉を顰めた。
「因縁の場所?」
「耳には入っているでしょう? ──貴族殺しの件」
「貴族殺し?」
初耳の情報にヒガナは驚きでおうむ返しすることしかできなかった。
そんな話、アリスからは一言も聞いていない。
そして、エマの台詞から察するにアリスの貴族殺しの一件は王都で起こったことなのだ。
「もしかして聞いていないんですか?」
「初めて聞いた。今すげぇ、困惑している」
「なら、私が概要を説明するのは野暮でしょう。……アリスさんは貴族殺しの印象がついています。安易に街中を顔丸出しで歩いていたらどうなるかは分かりますよね」
「いくら印象がついているからって」
衝撃の事実に全く対応できずにまともな返答が思い浮かばない。
ヒガナの渦巻く心中をさらに掻き乱すかのようにエマはさらに言葉を紡ぐ。──アリスにとって悲劇としか言いようのない事実を。
「貴族を殺したかどうかは最早問題ではないんですよ。大衆の総意──民意がアリスさんを犯罪者と決めつけ、貴族殺しの印象を植えつけたんです」
「民意」
「民意は怪物なんです。知らず知らずのうちに民衆はその怪物に飼い慣らされているんですよ。それは考えることを放棄した家畜も同然。ですが誰も怪物から逃げようとしない。なぜだか分かりますか? 楽だからですよ。怪物に飼われていれば自分は何も考えなくてもいいですからね」
「………………」
「考えず、ただ怪物に従う──それは本当に人間と呼べるのでしょうか? 私はそうは思いません。人間は個人で既に完結していて、思考という機能を備えています。故に自分で考え、自分だけの結論を導き出さないといけない。そして、それをできる人間は強い……ヒガナさんもその一人です」
俯いていたヒガナは顔をあげた。
エマは微笑し、心の内を見透かすような声を空間に染み渡らせる。
「何があってもアリスさんの味方になり続けるつもりですよね?」
ヒガナは顔を引き締めて断言した。
衝撃は今も頭の中で響き渡っている。いつまで経っても余韻にならない。
そんなノイズだらけの思考でも、エマからの問いかけの答えはすぐに出てきた。
「あぁ、俺は何があってもアリスの味方だ。それこそ世界が敵になってもな」
どうしてアリスにここまで肩入れするのか。正直なところよく分かっていない。
──この世界で初めての仲間だからなのか?
──何となく不憫に見えたからなのか?
──単純に可愛いからなのか?
──それとも、もっと別の、ヒガナすら意識していない理由が?
いくら考えても答えは見つからない。
だが、アリスに対する気持ちは紛れもない本心だというのは絶対に揺るがない。
「一度でいいからそういうこと言われてみたいですね」
「そう言ってくれる人を見つけな。エマちゃん可愛いからすぐに見つかるだろ」
「無理ですよ。全員ノノちゃんに釘付けになりますから」
「思わぬ落とし穴があった!」
ノノの存在感には尊敬の念を抱くレベルだった。
思わず吹き出したエマ。ツボに入ったのか涙を浮かべながら笑い、指先で溢れた涙を拭う。
「とにかくだ。民意だろうが何だろうがアリスに牙を剥くなら全力で抗うまでさ」
「ヒガナさんなら怪物も殺せると思いますよ」
「ありがとう、エマちゃん。俺たち意外と良い友達になれそうだな」
「何言ってるんですか、もう友達じゃないですか」
エマは無邪気な笑みを浮かべつつ拳をヒガナに向けて突き出した。
ヒガナはエマの天使のような笑顔に応えるように笑い、小さな拳に拳を合わせた。
×××
翌日。
宿屋の部屋で準備を終えて、あとは出発だけとなったヒガナたち。
「アリスちゃん、アリスちゃん。いくら軽いからってルーチェを荷物のように持つんじゃないよ」
黒を基調としたゴシック調の豪奢なドレスを丁寧に着たツインテール幼女の首根っこを掴んでいるアリス。
寝ているからといってその持ち方はどうなんだろう、とヒガナは思いながら苦笑する。
「……ついうっかり」
指摘されたアリスはルーチェをお気に入りのぬいぐるみを抱くように胸元に引き寄せる。
「なんか微笑ましい光景だな」
「……?」
ヒガナの発言の意味がよく分からず、不思議そうに首を傾げるアリス。
それから宿屋を出ると、エマとノノの二人がヒガナ達を待っていた。
エマはヒガナたちを見つけると軽く手を挙げ、ノノは見事なカーテシーを披露した。
「おはようございます」
「おはよう」
ノノがヒガナの方に近寄り、物品を差し出した──漆黒の外套、便箋、それから地図だ。
「ヒガナさん、お姉ちゃんの件よろしくお願い致します。あと、これも渡して貰ってもいいですか?」
「手紙な。しっかり渡すから任せてくれ」
ノノはパッと顔を明るくしたが、すぐに少し申し訳なさそうな表情をした。コロコロ変わる顔色にヒガナは疑問を抱く。
「あの、お姉ちゃん結構……その、性格の方が……あれなので……えっと……」
「言い澱み過ぎじゃないか?」
「普通に性格悪いって言えばいいじゃないですか」
横からノノの姉をバッサリ斬り捨てるエマ。
それを全力で否定するようにノノは手をブンブンと振るう。
「ちっ……お姉ちゃんは性格悪くありません! 相手が苦しむ姿を見て喜んだり、大切にしている物を壊したり、事あるごとに罵詈雑言を浴びせてしまうくらいです!」
「それ性格悪過ぎるだろ!」
「でもでも! ほらその……小さい子って好きな子に悪戯しちゃうことってあるじゃないですか? お姉ちゃんはその対象が広くて、悪戯の度が過ぎているだけなんです!」
「一見擁護しているように聞こえているけど、何一つ擁護されてねぇよ、それ!」
実の妹──心優しく、穏やかな性格のノノですら庇いきれない性格の悪い姉の存在に、ヒガナは戦慄が走る。同時に少し会ってみたい、怖いもの見たさがあった。
姉の話題で持ちきりになっているところを無視して、アリスはノノが持っている外套を指差す。
「……それは何?」
「これはルーチェ様にと思いまして」
「ルーチェに?」
「はい。『陽に愛される君』と言えども陽はお身体に毒ですから。この護身霊装ならルーチェ様を守ってくれますので」
護身霊装をありがたく受け取ったヒガナは早速ルーチェに着せた。といっても羽織らせただけなのだが。
着替えが終わったルーチェをぼんやりと眺めてから、再び抱きしめるアリスはどこか嬉しそうで兎耳も珍しくピンと立っている。
「ヒガナさんにはこれを」
エマは小袋をヒガナに投げる。手で華麗に受け止めると手のひらにずっしりとした重みが伝わった。
紐を緩めて中身を確認すると、目が眩むような白金色の金貨がぎっしりと詰まっていた。それとは別に何かの模様が刺繍されたハンカチも入っていた。
「これ……」
「貸すだけですよ。ちゃんと返してくださいよ?」
それは『また会いましょう』というエマなりの意思表示だったのだろう。
ヒガナは粋な演出に思わず口元が緩む。
それから、エマとノノに満面の笑みを浮かべる。
「倍にして返してやるぜ」
「それは無謀ですよ。臓器全部売っても全然足りない金額ですからね、それ」
「……………………え?」
エマは外套を翻し、背を向けてヒガナ達に軽く手を挙げる。
「では、またどこかで」
「色々とありがとうございました。また会えることを楽しみにしています」
ノノは惚れ惚れするようなカーテシーをしてからエマの小さな背中をトコトコ追いかける。
そんな二人の背中に向かってヒガナは大きく手を振った。
「本当にありがとう! また絶対に会おうな!」
アリスはルーチェを抱えたまま、低い位置で手をヒラヒラと振る。
「……またね」
二人の背中が見えなくなってから、ヒガナはアリス達に顔を向ける。
「それじゃあ、王都に行くか。っと、その前にアリス」
「……なに?」
「王都はアリスにとって因縁の場所なんだろ。本当に大丈夫か?」
心配そうな顔をするヒガナだが、当のアリスはこれといって気にするような素振りは全く見せずあっけらかんと言う。
「……ヒガナが居てくれるなら、それでいい」
「アリス」
「……それにルーチェも居る……満足」
ストレートに信頼を伝えられたヒガナは顔を真っ赤にしながら、アリスの頭をくしゃくしゃと撫でた。ヒガナなりの全力の照れ隠しだった。
「………………」
「……ヒガナ?」
「な、なんでもねぇ。よっしゃ! 王都に行こう!」
照れすぎてパニックになっているヒガナはガチガチになりながら歩き始める。
まるで変なカラクリ人形のような動きを披露するヒガナを見つめながら、アリスは笑顔を浮かべた。
「……変なの……でも、そういうの好き」
新しい仲間であるルーチェを抱きかかえながらアリスはヒガナの後を追いかけた。
×××
セルウスの入口にはウォルトとモニカがいた。
ウォルトはヒガナたちの姿を捉えて、軽く手を上げた。
ヒガナは二人を見て喜びが表情に現れた。街中を探したが結局見つからなくて、挨拶を諦めかけていたのだ。
「なんか顔色悪くないですか?」
モニカはヒガナの顔を覗き込んで首を傾げる。
よく変化に気づけるな、と思いながらヒガナはソロフォロニウス城であったことを掻い摘んで説明した。
話を聞き終えたモニカは大きく溜め息を漏らした。
「ヒガナさんって危険なところに飛び込むの大好きなんですか?」
「案外そうかもしれないな」
「全く! もう怪我しても治してあげませんよ! それかお金をとります!」
プンプン怒るモニカにヒガナは平謝りする。
彼女は本当に心配しているからこそ怒ってくれるのだ。何とも優しい子なのだろう。
モニカをなだめてから、ヒガナは二人に対して深々と頭を下げて感謝の意を伝えた。
「俺たちを助けてくれて、守ってくれて本当にありがとうございました」
「……ありがと」
「いいってことさ。また会う機会があれば、その時はよろしくな」
「また会いましょう、ヒガナさん、アリスさん」
互いに手を振りながら別れる。そこに悲しみや後悔は一つもなく、あるのは爽やかな気持ちのみ。
これでセルウスでの心残りはなくなった。
気持ちを新たにヒガナたちは王都へ向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。