この街は狼で溢れてる

御伽アトリ

この街は狼で溢れてる

登場⼈物 

狼少⼥ 両親から虐待を受けている主⼈公 親が虐待をしている時だけ狼が⾒える  

    『狼が来た』その声は誰にも届かない ただ別の狼を呼ぶだけ 

⼤狼さん (パパ)多分偉い⼈ ⾃分が狼であることは隠さない。でも気づかれない

      誰も気づこうとしないから 躾の鞭と洗脳の飴 

メス狼さん (ママ)誰も狼だと気づかない 誰も気づけない笑ったときの顔はこの

       世で⼀番醜くて、⼀番優しい

嘆くピエロ 笑った仮⾯をつけているが誰よりも悲しい⾔葉を喋る。でも何もできな

      い 誰も⾒ない叫んだところで道化の⼀⼈それは彼⼥が他所者だから 

狼の群れ  仮⾯の奥からラジカセの声が聞こえる。ノイズのくせに嬉々として傷を 

      抉る 

⺟  ピエロの⺟親だった︑メス狼が演じる 

 

開演 

舞台中央に痣と傷まみれの少⼥がいる 

周りには不規則に置かれた机が四脚 上には仮⾯が適当に被されたラジカセ狼少⼥は泣き疲れたのかぐったりしているその様⼦をピエロは黙って⾒ている 

 

ラジカセ1 あららどうしたの︑ 

 

狼少⼥、眼を覚ます 

 

ラジカセ2 どうしたんだい、その怪我 

狼少⼥ えっと 

ラジカセ1 あら転んじゃったのね。⼤変、お⽗さんとお⺟さんは?

狼少⼥ 違う︑狼が 

ラジカセ2 あもう痣になっちゃって︒あ︑お⺟さんきてくださいよ 

 

メス狼︑登場 

 

メス狼 あらすみません。もうこの⼦ったらすぐいろんなとこにぶつけるんです 

ラジカセ1 元気があっていいじゃない 

ラジカセ2 でもほどほどにしないとな︑お⺟さん⼼配しちゃうからな

メス狼 本当にご迷惑おかけしました︒ほらちゃんとごめんなさいして狼少⼥……

    あの 

メス狼 どうしたの、早く⾔いなさい 

狼少⼥ ごめんなさい 

 

メス狼、狼少⼥の⼿を引く照明はメス狼に焦点がく 

 

メス狼 ねえお⺟さん⾔ったよね 

狼少⼥ …… 

メス狼 ⾔ったわよね。何であんな所で寝てるの

狼少⼥ ごめんなさ……

メス狼 うるさい 


メス狼、狼少⼥にビンタし髪を掴む

 

メス狼 ごめんなさいじゃないの。ねえわかるでしょ。あなたが、そうやって、勝⼿

    なことしたら私が怪しまれるの。その痣治しなさい、他の⼈に⾒られるん

    じゃないよ。黙ってお⺟さんの意⾔うこと聞いてなさい。

狼少⼥ いや。狼、狼がいる。誰か来て、助けて

 

照明戻る 

 

ラジカセ3 何々どうしたんだ

ラジカセ4 狼ですって

ラジカセ3 狼だと、どこだ、どこに出たんだ

ラジカセ4 またあの⼦じゃないの

ラジカセ3 ああほんとだ。またあの⼦じゃないか 

メス狼 すみません。いつもいつも

狼少⼥ 狼、狼がいる。助けて。お願い

メス狼 やめなさい、やめなさいって。聞こえないの 

 

⼤狼、登場 

 

⼤狼 おい何してんだ

メス狼 あ、あなた 

ラジカセ3 またこの⼦がおかしなこと⾔ってんだ

⼤狼 またか。ちゃんということ聞かせろ

メス狼 なによ、私のせいじゃないわよ

ラジカセ4 まあまあ 

狼少⼥ お⽗さん助けて 

⼤狼 うるさい 

 

⼤狼、狼少⼥をはたく

 

⼤狼 いつもいつもこんなくだらないことで呼び出して。いい加減にしろよお前。

   狼なんてどこにいるんだ︒あ?⾔ってみろ 

狼少⼥ あ、狼が 

⼤狼 ああ? 

メス狼 あなた、そこまでにして 

⼤狼 お前が⾯倒みないからだろ、ここでしっかり躾けないといけないんだよ

ラジカセ4 ねえ、⽌めた⽅がいいんんじゃない 

ラジカセ3 うん、これくらいはした⽅がいいじゃないか。ですよね 

⼤狼 ええ、その通りです

狼少⼥ 狼が……狼が! 

⼤狼 いい加減にしろって⾔ってるんだ 

 

⼤狼、狼少⼥を突き⾶ばす 

スポットがピエロに向く他の⼈たちは⽌まる 

 

ピエロ これが私の見ている⽇常。少⼥は「狼が来た」と泣き、叫び、助けを求めて

    いるだけど私達の前には狼なんて⾒えなくて、嘘つきの彼⼥は毎⽇毎⽇罰を

    受ける。狼って何をさしいているのか。私は考えてわかったふりをして︑そ

    していつも悲しくて泣くのです。笑ってるように⾒えますか?それはピエロ

    だからです。何も変えられないただの道化だからです。それはとても利⼝で

    楽なことです。これからも私は道化を全うしなければならない。他所者だか

    ら。私は嘆くピエロ、いつかこの痛みすらも笑えなければならない。だか

    ら、少しだけお話ししよう 

 

狼少⼥、ピエロ、お互いに眼を合わせる 

相変わらず机は不規則に、不細⼯に笑いながらラジカセは並ぶメス狼と⼤狼が中央にいたまま蚊帳の外に狼少⼥、そしてピエロは⾒ている 

 

⼤狼 おい

メス狼 なによ 

⼤狼 また外に出たな

メス狼 だからなによ 

⼤狼 だからいい加減⾃分の⽴場理解しろ 

メス狼 仕⽅ないでしょ。あの⼦が外に居たんだから 

⼤狼 俺が締め出したんだよ 

ラジカセ1 あの⼦ 

ラジカセ2 嗚呼あの⼦ 

ラジカセ1 また狼が出たですって 

ラジカセ2 ⼀体何回⽬だ 

メス狼 締め出したって、あなたバレたらどうするの 

⼤狼 その呼び⽅もやめろ、お前と夫婦になった覚えはない

メス狼 そんなのはわかってる 

ラジカセ3 やっぱり教育が悪いんだよ 

ラジカセ4やめなさい、誰かに聞かれたらどうするの 

ラジカセ3 構いやしねえ、どうせ誰も告げ⼝なんてしないさ 

⼤狼 全部⽬障りだ、俺はあの娘の親などではない。この家に⼊れてやる義理は無いメス狼 なにを⾔ってるの。あの⼦はあなたとの⼦ 

⼤狼 黙れ、この売⼥が。いっそのこと死んでくれたほうがマシだ

ラジカセ1 やっぱりあの⼦おかしいわよ 

ラジカセ2 もしかしたらそういう病気 

ラジカセ3 いやいや親の教育が 

ラジカセ4 ⼿を焼くわよ 

ラジカセ1 そうね、ご両親も忙しい時期なのに 

ラジカセ2 お⺟さんも綺麗な⼈なのにもったいない 

ラジカセ3 お⽗さんも最近切⽻詰まってて苛⽴ってるんだよ

ラジカセ4 ねえ私あのお⺟さんどこかで⾒覚えが 

 

ラジカセたちの⾳はやがてノイズになるその間狼⼆⼈の会話はループし、ループごとに早くなる 

3回⽬のループで時間後⽌まる焦点が狼少⼥とピエロへ 

 

ピエロ 私はあなたを助けたい 

狼少⼥ …… 

ピエロ 私はあなたの⼒になりたい狼少⼥ …… 

ピエロ ねえ聞こえてる 

狼少⼥ …… 

ピエロ 聞こえてるんでし︑ならわかってよ︒ 

 

狼少⼥、逃げようとする 

 

ピエロ なんで、またなの?私はこんなにも必死に伝えてるのに。⾔葉にすらならな

    いの?おかしいじゃん。怖くてくるしいのはあなたと⼀緒なのに結局分かり

    合えないっていうの? 

 

狼少⼥、振り返って 

 

狼少⼥ あなたは誰、私はまたこの⼈のことを考えてしまった。みんなは彼⼥のこと

    をおかしな⼈という。おかしな格好におかしなしゃべりかた。それは他所者

    の証だと⾔っていた


ピエロ 私は他所者かもしれない、けどそれがなんだっていうの 

狼少⼥ 他所者には関わるな。それは悪い⼦のすることだ。悪い⼦には狼が来る。マ

    マが優しかった頃私にそういった

ピエロ 他の⼈と変わらずまじめに謙虚に働いて、⾯倒ごとを起さず道化でいる。私

    はちゃんと与えられたことをこなしている 

狼少⼥ この人が悪い⼈ではないことは私は知っている 

ピエロ あなたが助けて欲しいならわたしは⼒になりたい。でも⼈が空気がそれを許

    してくれない。あなたの⾔葉が欲しい。あなたの⾔葉が理由になるから。そ

    うすれば何か変わってくれるなんて淡い希望かもしれないけど。でもきっ

    と。私は私の何かを変えたい 

狼少⼥ 他所者に助けられたところで何か変わるわけでもない。私はあなたではない

    誰かを待っている。私にはあなたの顔が⾒えないの。あなただけじゃないけ

    ど。⼈みんな顔を隠している。不気味に笑った影の奥には、⽛や⽑⽪が⾒え

    るの。本物は⾒たことない。けどそれは私がママからきいた狼だった 

ピエロ ⾔葉は理解できないし理解されない。それでも訴え続けたら何か変わるだろ

    うか分かり合えるだろうか。わかりきっているのは只々⾒苦しいだけ 

狼少⼥ ねえ、その仮⾯。私に頂戴。私はあなたになりたい 

ピエロ 私はあなただった。同じ形で同じだけの傷を持ってここまで逃げてきた 

    でもこの仮⾯は渡せない。私じゃ取れない

狼少⼥ ねえ、できないの? 

ピエロ うん。あなたのお⽗さんしかできない、でも 

狼少⼥ それならいいもう。何もしなくてい 

ピエロ 『          』

 

ピエロは必死に何かを伝えようとしているが狼少⼥には届かない 

 

狼少⼥ おお ……かみ? 

 

⽌まっていた時間が動き出す

焦点はメス狼と⼤狼に当たる


⼤狼はメス狼を殴る 

メス狼、⼤狼を睨む それは⼤狼の逆鱗に触れた 

 

⼤狼 なんで娼婦のお前が俺のことそんな⽬で⾒るんだ。やめろやめろやめろやめ

ラジカセ1 それは少し昔の話 

ラジカセ2 この街ができて間もない頃だった

ラジカセ3 私たちには優秀なリーダがいた 

ラジカセ4 育ちもよく賢い⼈でいろんなとこと関係があったらしい 

⼤狼 俺はお前とは違うんだよ。男に媚びて尻振って、そうすることでしか⽣きれな

   いくせに、俺がお前たちを⽣かしてやってるのに 

ラジカセ1 彼は⼈望があるわけではない

ラジカセ2 彼は慕われているわけではない 

ラジカセ3 彼は⼈徳があるわけではない 

ラジカセ4 だけけど私たちは知らない間に彼を信じことにした

⼤狼 殺してやったっていいんだぞ。俺にはなんの関係もないんだからな

ラジカセ1 いつからか彼は⼥性を連れてきた

ラジカセ2 とてもきれいなひとだった 

ラジカセ3 笑った顔はとても素敵で 

ラジカセ4 私たちは違和感を覚えた︒何かが違う 

メス狼  できないくせに 

 

メス狼は不気味に笑う 

誰が⾒ても彼⼥はボロボロなのに⼤狼が不思議と怯えているように⾒えた 

⼤狼は威嚇をした 

それは野⽣の動物が危険を感じた時にするそれだった

 

ラジカセ1 ⼦供が⽣まれ 

ラジカセ2 街のみんなで祝福した 

ラジカセ3 彼の顔はひきつった笑顔で 

ラジカセ4 彼⼥はどこか勝ち誇ったように⾒えて 

メス狼 あなたは私を殺せない。あの⼦も殺せない。殺せないから吠えることしかで

    きない。みんな⾒えてるのに⾒ないから。だからあなたは安⼼して傷を作れ

    る。でももし⾒えてしまったら、私は終わる。それはあなたも同じ︒私はあ

    なたが⼀番怖いものを知っている 

 

⼤狼、ようやくメス狼の⾔葉が⽿に⼊る 

 

メス狼 あなたが⼤切なのはこの街の⼈からの信頼。それと同時に⼀番恐れている。

    もしあなたが狼の群れの主だとしても、群れはいつだって叛逆できる 

    私はあの⼦を産んだ時から私はあなたに勝った。いくら傷を増やしたところ

    で私は何も怖くない。それは私が娼婦だから 

⼤狼 …… 

メス狼 そう、その顔が⾒たかった 

ラジカセ1 でも本当にお似合いの夫婦だ

ラジカセ2 少⼥は少し変わっているけど 

ラジカセ3 とてもいい家族で 

ラジカセ4 ここはとてもいい街だ 

ピエロ 私たちはそんな確証のない物語を眺めているただ意味もなく、意味も⾒いだ

    すことなくその視線がノイズに変わっても

狼少⼥ 私が犠牲者であることは変わらない。あなたが私を本当に救いたいならあな

    たが犠牲になってくれる? 

 

時間が変わる 

狼少⼥、⺟の元へ 

 

ピエロ 私がここにきたのはいつのことだったか。私と⺟はあの少⼥のように⾝体中

    にあざがあって、帰る場所もなくこの街にたどり着いた 

 

狼少⼥と⺟ラジカセの内側で彷徨い⼤狼に会う 

 

⺟ お願いします。お願いします。 

⼤狼 わかりました

ピエロ お⺟さんここはどこ?私帰りたいよ 

⺟ ごめんね、でも今⽇からここがお家だから

ピエロ お⺟さん私嫌だよ。ここなんか怖いよ 

⺟ そんなことない。きっと⼤丈夫だから

ピエロ お⺟さんはどこへ⾏くの? 

⺟ …… 

⼤狼 ⼤丈夫だ。今⽇からこれをつけなさい 

 

⼤狼、仮⾯を渡す 

 

⼤狼 これがあれば誰も君を怖い思いさせない 

ピエロ いや、だめ外れない。とれない。何も⾒えない 

⼤狼 それが君を正してくれる 

ピエロ お⺟さん、ねえ。⾏かないでひとりにしないで 

⺟ ごめんね 

 

⺟、狼少⼥を抱きしめる 

 

⼤狼、去る 

時間が変わる 

 

狼少⼥ 痛いよお⺟さん 

メス狼 …… 

狼少⼥ お⺟さん 

メス狼 あなたが……あなたが 

メス狼、狼少⼥を抱きしめる 

狼少⼥ ……お⺟さんは、狼だ。お⽗さんがつれ来る前はずっと⾷べ続けていたって

    お⽗さんは⾔っていた。⾷べていないと⼼が壊れちゃうんだって。⾷べても

    ⾷べても満⾜できなくて、ずっとお腹が空いてて。でもお⺟さんは私を⾷べ

    られないらしい。その意味をずっと考えてきたけど私はわからない。ただお

    ⺟さんが泣いてるのは悲しいからで少なからず私が原因で、私がちゃんとし

    たらお⺟さんは笑ってくれるかもしれない。そう思わないと私はお⺟さんを

    嫌いになってしまうから 

         

 

⼤狼 お前は 

ピエロ …… 

⼤狼 何をしているんだ

ピエロ 本当は私はいらないのだろうか 

⼤狼 他所者のお前を雇ってやったんだぞ

ピエロ 私はここにいるといえるのだろうか

⼤狼 ただでさえ物覚えが悪いんだ

ピエロ なんのためにここにきた

⼤狼 わかったら早く仕事に戻れ 

ピエロ もし⼈を殺したら……何か変わるだろうか 

⼤狼 おい、他所の⾔葉を使うな 

ピエロ 私は彼らを理解できないけど。彼らは私を理解しようとしない 

⼤狼 さっきから何をいっているんだ

ピエロ 何をしても理解されないならいっそ⾃由になってみようか 

⼤狼 おい聞いてるのか 

ピエロ ……ハイ。⼤丈夫デス。(カタコト)

⼤狼 お前はいいな。何も考えなくていいから。俺もそうなればよかった︒ 

ピエロ ソウデスカ 

⼤狼 お前は俺の好きな⽬をそしている。⾒えそうで⾒えない、お前たちも何も⾒て

   いない⽬だ。その⽅がきっと幸せだ

 

⼤狼、去る 

 

ピエロ ああ、帰りたい 

 

ピエロ、今にも泣き出しそう。だが彼⼥の仮⾯はそれを許そうとしない 

    依然と笑ったまま 

 

メス狼 ⽣まれてきてくれてありがとう

狼少⼥ お⺟さん? 

メス狼 あなたがいるから私は⽣きていられる。あなたがいるから私はここにいられ

    る。願わくば……あなたが男の⼦ならよかったのに 

 

メス狼、狼少⼥を突き⾶ばす 

メス狼、狼少⼥へ暴⾏ 

周りのラジカセたちは話し始める 

 

ラジカセ2 それにしてもあの⼦、本当に迷惑だよな 

ラジカセ1 そうねえ、今時狼ってねえ 

ラジカセ3 いい加減俺たちも躾けないといけないんじゃないか

ラジカセ4 でもあの⼈の娘さんなのよ 

ラジカセ1 そうねえ、でもあの⼈たちも困ってたし 

ラジカセ2 なるべく楽させてやりたいし 

ラジカセ3 ⼤丈夫。ちっと懲らしめたらいいだけだ

ラジカセ4 それもそうね 

メス狼 なんで男の⼦じゃないの

狼少⼥ おお……かみ 

メス狼 あなたが男の⼦ならもっと愛してあげられたのに。今よりもずっと強く抱き

    しめて。抱いてあげられるのに。こんな頭がおかしい⼦でも抱けば全部同じ

    なのに 

狼少⼥ 狼、狼が出た。だれか、誰か助けて

メス狼 あなたが……ごめんね、ごめんね 

狼少⼥ いや 

 

狼少⼥、メス狼を突き放す 

 

メス狼 今、何した?ねえなんであなたが私を拒むのねえ。やめてよ、私を愛して

    ちゃんと愛してよ

ラジカセ2 お⺟さんお⺟さん

ラジカセ1 今⽇も⼤変そうに 

ラジカセ4 もしよろしければ私たちが⾯倒⾒ましうか

ラジカセ3 お⺟さんは休んでください 

 

メス狼、ラジカセたちをにらんだ後直ぐに優しいよそ⾏きの顔に戻る 

 

メス狼 あらお気遣いありがとうございます。すが皆さんに迷惑かけるわけにも

ラジカセ1 迷惑だなんて 

ラジカセ4 そんなことないわよ

メス狼 いやでも

 

⼤狼、狼⼩⼥の元へ 

 

⼤狼 そうだな。お⾔葉に⽢えたらどうなんだ 

メス狼 そうね 

⼤狼 今⽇はこの⼦にちっとした矯正をしないといけないので準備の間⾒ててくれま

   せんか 

ラジカセ2 ああいいとも 

⼤狼 ほら、⾏こう 

 

⼤狼、メス狼を連れて⾏く 

 

狼少⼥ あの、ありがとうござい…… 

ラジカセ3 やっといなくなった 

狼少⼥ え? 

ラジカセ1 さてどうしましょうか 

ラジカセ2 そうだな×××なんてどうだ 

ラジカセ3 いいね、なんなら×××で×××っていうのも 

ラジカセ4 そうしたら‒‒‒‒‒‒ 

 

ラジカセたちの⾳割れは激しくなる 

彼らの声は狼少⼥には理解できない、けど彼⼥はあることに気がついた 

 

狼少⼥ ああそうか、あなたたちも狼だったのね

 

ラジカセたちの声は激しい物⾳に変わる 

 

狼少⼥ 私はずっと狼をよんでいたのね。いっそのこと⾷べられれば全て楽になるだ

    ろうか 

 

⼤狼、再びくる 

 

⼤狼 おまたせしました。すみません、みててもらって 

 

ラジカセたちは何か返答するがもうそれは声とは⾔えない代物⼤狼は理解しているのだろうか、適当に相槌を打っている 

 

⼤狼 ほら⾏こうか 

 

⼤狼、狼少⼥の⼿を引こうとする 

 

狼少⼥ いや、いやだ 

⼤狼 早くきなさい 

ピエロ だめ⾔ってはダメ

狼少⼥ やめて離して 

ラジカセたち ―――――――― 

ピエロ そこに⾏ったらあなたはもう 

⼤狼 ⼤丈夫だから⼤丈夫だから 

ピエロ 何が⼤丈夫なの 

⼤狼 何も変わらない。過ぎて仕舞えばいつもの⽇常だ

ピエロ彼⼥はどうなるの、あなたはどうして彼⼥を傷つけるの 

⼤狼 忘れた、ただ確かな理由は 

狼少⼥ 私は狼少⼥、誰かの助けを求め叫ぶ少⼥ 

⼤狼 もしくはあの⼥の娘だから 

狼少⼥ でももしかしたら、いやきっと私が呼んでいたのは助けなんかじゃなくて最

    初から狼を呼んでいた。だからみんな私のことを狼少⼥と呼ぶ︒ 

⼤狼 理由なんてそれだけでいい。それで⼗分だ。俺は頭おかしい娘を懸命に躾けて

   いる。そういうことになっている 

狼少⼥ おかしいよね。狼はみんななんだもん。みんなが狼なのに、私が狼のように

    疎まれ蔑められ最後にはこんなにあっけなく殺されるんだから

ピエロ 違う、彼⼥は普通の⼥の⼦なの。ただ誰かに⾒てもらいたいだけなの。私で

    はない誰かに 

⼤狼  じゃあお前が犠牲になるか 

狼少⼥ 狼が私を殺す、ううん。狼みんな私の前から消えるんだ

ピエロ それで彼⼥は助かるの

メス狼 ねえ何してるの 

⼤狼 わからない 

メス狼 その⼦に何するの 

⼤狼 お前は助けてやれるのか 

メス狼 ねえなんであなたがその⼦を傷つけるの、なんで殺そうとするの 

    私がお腹を痛めて産んだ⼦なのに 

狼少⼥ ああみんな私を⾷べようとしている。でも私が死ぬんじゃない 

メス狼 あなたが不甲斐ないせいで⼥の⼦だった。私は男の⼦を産む。産めたはずな

    のに 

⼤狼 これは仕⽅のないことなんだ。俺が変わったところで何もできない 

メス狼 あなたが満たしてくれないから、私の渇きはいつまでも 

狼少⼥ ようやく解放される。私がいなくなったところでお前たちの苦しみは変わら     

    ない。変わらないんだ 

⼤狼 そうだ、変わらない。だから俺は間違っていない。俺は⾃由なんだメス狼 ね

   え愛してよ。私を愛してよ。誰でもいい。私の愛に応えてよ。 

狼少⼥ 「狼が来た」ちがう。みんなみんな、お前たちみんな狼だ。私の前から消え

    てなくなれ 

 

⼈もガラクタも狼も壊れた

原型を留めていないノイズが清々しいほどの不協和⾳を掻き鳴らす 

 

ただ⼀⼈を除いて 

 

ピエロは泣き、叫び、⾒えない唇を噛み千切り 

震えた⼿で⽯を拾う 

その⽯で⼿を⾃傷し、無理やり震えを⽌めた後 

その⽯を投げる 

ノイズの中でガラスの割れた⾳が⼒強く不協和⾳を断ち切るほんの数秒にして⻑い沈黙が空間を包み込む 

 

ピエロの仮⾯が外れ、床に落ち、その⾳は沈黙のせいかやけに⽬⽴っていた 

 

ピエロ、いや⼥は呼吸を整えた 

 

狼少⼥は初めて笑った

 

⼥ お……狼がきたぞ! 

 

何かが変わった

 

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この街は狼で溢れてる 御伽アトリ @Atoriotogi

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