第17話 魔法使いの森Part3
ショッピングモールとは複合型商業施設のことで、僕の知る限りじゃあららふぉーととかイーオンとかそういうのが該当する。まさかそんな現代感マシマシの言葉をこの異世界にて聞くことになるとは思わなかったが、まあショッピングモールだって普通の言葉だ。英単語らしい言葉だってそこいらで聞くし、ショッピングモールがあったっておかしくはないのだろう。
だって異世界なんだし。
「って……んなわけあるかーい!」
何がショッピングモールだ。商店街があるだけでもかなりレアな気がするこの世界で、ショッピングモールなんてもんが出来上がってたまるか。世界観が死ぬ。
広場で魔法使いたちに命令を出している大型の魔物は自分のショッピングモールの夢を語っているが、あのデカブツがショッピングモールを理解しているのか不明だ。
「セリア、今すぐあいつをブチのめすぞ」
隣にいるセリアに声をかける。
魔法使いがいるので、やはりセリアは一瞬怯んだが、盗賊団の団長としての矜持か、すぐに持ち直した。
「ええ。ああいうのは見ていられないわ」
僕達は隠れている茂みから出ると、巨体の魔物の前に出た。
奴の周囲に小型の魔物が集まる。どうやら全員二足歩行みたいだ。
小型の奴はゴブリンだろう。大型のは何だろう。オークと呼ぶべきか、強化型ゴブリンとでも呼ぶべきか。
だがそんなことはどうでもいい。
ここは言ってやらねばならぬ。
「お前ら、ショッピングモールとか言ってるけどなぁ、あれ造るのに何年かかると思ってんだ!」
「ヨシヤ?!」
大型の二足歩行の魔物が一歩前に出る。すると大地が揺れて一瞬体勢がぐらついた。歩いただけでこれだ。僕では太刀打ちできないだろう。というかあのゴブリンにすら普通に負けそうだ。
全く、情けないことに。勇者ではあっても、僕のスペックは男子高校生並みなのだ。
「適当に啖呵切ったら後ろに隠れるから後は任せたぜ団長」
普段のセリアならこういう事を言えば、「アタシに任せなさい」とか二つ返事で引き受けてくれそうなものだが、今回ばかしは相手が悪いのか、少し控え目な反応だった。
「ここぞとばかりに副団長らしい行動を……。アタシでもあれは無理よ。どうやったら一撃で倒せるっていうのよ」
「ナイフを投げずに戦う選択肢は無いのかよ」
「無いわ」
「……」
テラーラビットを喚び出す余力はあるだろうか。ウィリアムを召喚したことで僕の魔力はかなり底をついている。テラーラビットを喚び出せても戦わせられるかはまた別の話だ。人質もいるし……何で出て来ちゃったんだろう。
僕はどうにか仕切り直し出来ないか、頭の中でいくつかの選択肢を捻り出したが、どれも油に火を注ぐに近いものだった。
「ガハハ。何かと思えば、ガキ二人じゃないか。魔力も大して感じねえし、何がしたいんだ?」
「う、うるせぇ! こいつだってな、やれば出来る子なんだよ!」
「アタシを指ささないでよ。アンタから出てきたんだからアンタが相手しなさいよ!」
敵の前で哀れにも互いを差し出そうとする僕達の姿は奴隷となっている魔法使いたちからはどう見えているだろうか。
「オマエラ、遊んでやれ」
大型の魔物が言うと、それに答えてゴブリンが押し寄せてくる数は五体ほど。セリアが反射的にナイフを投擲して一体撃破したので、残り四体だ。
僕はスマホを出した。自分の魔力の回復スピードに期待して、召喚リストからテラーラビットを喚び出した。
「あとは任せたぜ!」
「ん。了解した、マスター」
黒髪ロングに真っ白のうさ耳、そしてバニースーツを着用した彼女の姿は森の中では奇怪に映った。さっきのウィリアムが余りにも環境に適していたのもあるだろうが、しかしテラーラビットに感じる違和感はそれだけではない気がする。
「何かエロい姉ちゃんが増えた……。まあいい、アイツごとやってしまえ」
大群を指揮するだけのことはあるのか、大型の魔物はすぐに調子を戻し、配下の魔物へ命令を下す。テラーラビットを避けて僕とセリアに迫ろうとするゴブリンどもをテラーラビットの美脚が蹴り飛ばす。
「私がいる限り、マスターには触らせないわ」
「……お前、とうとうやる気出してくれたのか」
「マスター。あれは【十眷属】の配下。つまりこの戦いは魔王の軍勢との戦い」
「……十眷属……?」
初めて聞いた言葉だった。だが重要な言葉なのは分かる。テキストで表示されたら【】で挟むようなレベルの重要単語だ。
ユニットであるテラーラビットが知っているのなら、何故女神は教えてくれなかったのだろうか。
だが魔王の軍勢との争いともなれば、彼女がやる気を出すのも分かる。ウィリアムの言葉通りなら、召喚されてくるユニットたちも僕と同じように女神から依頼されているのだから。
「負けるワケにはいかねえぜ。全力でやっちまえ!」
「マスター」
テラーラビットが僕に横目を流す。その視線からは僕に対する信頼が感じられた。
彼女はやる気が無かったワケでは無いのだ。ただ本気を出すタイミングを決めていただけ。
テラーラビットが口を開く。
「残念だけど、全力は無理」
「何で?!」
「マスターからの魔力の供給量が少なすぎる」
「……」
「というかもう存在を保つだけでも精一杯」
「ちょっとカッコイイ会話をしておいてこれかよ! 肝心な時に僕の魔力は切れやがるし」
テラーラビットがうっすらと透けて、向こうにいる大型の魔物と目が合った。
「何だ……。あの女消えるのか。面白そうな敵だと思ったんだがな」
大型の魔物が近付いてくる。地面が揺れて僕は地面に膝をついてしまった。セリアは僕の後ろで様子を窺っている。彼女の視線はナイフに向いている。そのナイフは大型の魔物のすぐ後ろだ。
「オマエから嫌な魔力を感じた。女神の力だな。ただの人間が持つ力じゃねえ。気味が悪い。ここで潰しておくか」
油断してくれればどうにかなった可能性もあったろうが、こうなるともう万事休すだった。
僕はセリアの体を押し飛ばして、やつの攻撃から少しでも離れるように彼女に言った。セリアは吹っ飛んだ衝撃を利用してさらに後退するとウインクしながら言った。
「ヨシヤ。短い時間だったけど楽しかったわ」
「そこはもう少し悲しんでくれませんかね?!」
大型の魔物の拳が振り下ろされる。
ああ、これでお終いだ。
勇者として何も出来ず、そして告白も失敗。男として最悪の死に方だ。
大体、ここで死んだらどうなる。初春が待ち合わせ場所で待ちぼうけてしまうじゃないか。死ねない。でも生きのこるビジョンが見えない。
「はーっはっはっはっはっは!!!」
振り落とされた拳がかき鳴らす轟音に混じって、森の奥から何者かの笑い声が聞こえた。
運任せの異世界冒険記-召喚スキルはガチャ仕様でした- Naka @shigure9521
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