(番外編)栗花落アフターストーリー
※本編の後日談です。
本編未読の方は、本編を先に読んでいただけるとありがたいです。
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あの日から1年が過ぎ、再び桜が咲いて。
私は高校を卒業し、大学生になった。
無事、第一志望の大学に合格した私は、住み慣れた町を離れることになったけれど、日下君や理音とは、今でも時々連絡を取っている。
だから、寂しさはない。
……いや、嘘はよそう。
今年、あの高校からここに進学したのは私だけだ。このキャンパスに、知り合いはいない。それはやはり、少し寂しい。
だが、新入生向けのガイダンスを終え、大講堂を出たところで、見知った顔と目が合った。
「綿貫会長!?」
「おー、栗花落。元気にしてたか?」
綿貫生徒会長――いや、元生徒会長は、腰かけていたベンチから立ち上がり、ひらひらと手を振る。
「元気にしてたか、じゃないですよ。どうして先輩が――あ」
「そ。俺、この大学の2年だから」
そうだ。綿貫先輩もこの大学に合格していた。
だが、彼ならさらに上――それこそ世界のトップクラスの大学に留学する選択肢だってあっただろうに。
その疑問をそのまま口にすると、先輩は
「んー……」
と少し悩んだ後、
「お前が来るのを、ここで待っていたんだよ」
「いや、今日、先輩がここに来ている理由じゃなくてですね――」
「そうじゃなくて。お前が来るのを、1年間、この大学で待っていたんだよ」
「え?」
「お前がここを第一志望にしているのは聞いていたからな。1年、先に入って待っていた」
……ちょっと待って。
高校時代から、飄々として捉えどころのない人だったけれど、何か、すごいことをさらっと言われた気がする。
「1年、私を待っていたんですか?」
「厳密に言えば、あの中高一貫校にお前が入学した頃から、6年くらい待ってるけどな」
「6年!?」
日下君を想い続けて10年待った私が言うのもどうかと思うけれど、6年待つというのも相当だ。
「どうして、そんなに――」
「どうしてって……。お前に惚れてるから以外に理由があると思うか?」
唐突な告白に、頭の中が真っ白になる。
話が急すぎて、まったく思考が働かない。
「やっぱりお前、日下ばかり見てたんだな」
「……」
否定できない。
もちろん、風紀委員長として全生徒に目を配ってきたつもりだけれど、私個人としては、ずっと日下君のことだけを見ていた。
「まー、俺もお前ばっか見てたから、どうこう言える立場じゃないけど」
彼の思いを聞くたび、胸が痛い。待つ辛さを知っている私が、こんなにも人を待たせていたなんて。
だが、先輩はあっけらかんと言い放つ。
「お前の10年を思えば、俺の6年は安いもんだ。俺も少なくともあと4年は待つ覚悟があるぞ」
なんて人だ。
私の10年は、日下君との関係が壊れてしまうことが怖くて言い出せなかった時間だけれど、彼はこうして堂々と宣言した上で待つというのか。
「それは、私が拒んだとしても、ですか?」
「んー、そうだな。お前が嫌だと言うなら、お前には近寄らない。でも、俺が勝手に待つのは、俺の自由だろ?」
本当に、この先輩は、強い。
そして、
「今すぐ受け入れてもらえるとは、俺も思ってないよ。ただ、これまで日下に向けていた目を、少しだけ俺に向けてくれないか」
この先輩は――ずるい。
そう言われて、NOと言えるわけがない。
ましてや、いつも余裕に満ち溢れているくせに、そんな寂しそうに微笑まれたら。
甘い痛みとともに、その顔が胸の奥に焼き付く。
――だから。
「それじゃあ、まずは大学構内の案内をしてもらえますか? あと、近くのランチが美味しいお店も教えていただけると嬉しいんですが」
そんな風に始めてみる。
「仰せのままに」
先輩は、少しおどけて、恭しく礼をしてみせた。
桜の舞う道。暖かい春の風が頬を撫で、通り抜けていく。
構内を並んで歩きながら、ふと気になって尋ねた。
「私がこの大学に入学しなかったら、どうするつもりだったんです?」
「んー、その時はお前のいる大学に編入したかなー」
頭脳明晰、容姿端麗で知られた元生徒会長。
ただ、恋愛に関しては、私以上に大馬鹿者なのかもしれない。
でも、そういう馬鹿は嫌いじゃない。
そう遠くないうちに、彼を好きになる――そんな予感がした。
風紀委員と俺 神森黒夜 @kuroya1016
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