ストロングゼロを飲んでから書く文学

スカイレイク

第1話彼女の恋、僕の愛

 僕について深く語る必要は無いだろう。どこまでいってもただの人間であるし、取り立てて人類の救済や奇跡を起こしたりはしていない。だから僕は僕なのだと思う。


 ある日、少女に出会った。どこで出会ったかはさっぱり覚えていない。ただ日常の中で出会ったのだ。あるいは髭を剃っていたのかもしれないし、昔の教え子がやってきたのかもしれない。理由など結局のところ些細な事に過ぎない。


 僕は少女に恋をした。いかに恵まれなかろうが、いかに倫理にもとっていようがその気持ちだけは本物だった。


 僕は彼女にあらゆるものを与えた。金銭的なものも、情に訴える事もあった。しかし彼女が振り向く事はなかった。それでも構わない、人につくすというのは結局のところ自己満足でしかない。リターンを求めてパチンコをやるやつはほぼ全員損をしているように、人は無益なものにひたすらリソースを消費する事を厭わない生き物だ。


 ある日、彼女は死んだ。事故だった、あるいは自殺である事さえ疑われたが、僕にとってはそんな事は彼女が死んだと言う事のまえには意味をなさないものだった。他殺だろうが自殺だろうが彼女が死んだ事には何の変わりも無いのだ。


 僕はそれから酒に溺れた。酒だけだったならどんなに幸せだっただろう。彼女の面影が僕に病院の戸を叩かせた。そこではなんだかよく分からない処方薬をもらった。それらは一時的に僕を赦してくれたし、しばしの安定を与えてくれた。


 しかし現実というものはどこまでも僕につきまとう。きっと一生僕は彼女の影に寄り添って生きていかなければならないのだろう。


 僕はどうしようもない世界に嫌気がさした。しかし、僕は気がついてしまった。僕がいるかぎり彼女は僕の影に居座ってくれるのだ。僕が生きているかぎり彼女も存在しているのだ、そう考えると僕は生きていく事の高潔さに感動すら覚えた。


 いずれ来る終わりまで彼女が寄り添ってくれるなら僕はどこまでだっていく、僕はずっとずっと二人で生きていける事に感謝をした。なぜなら僕がいるかぎり彼女は永遠に存在してくれるのだから。

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