第2章 騒がしい蔵


 両手にスーパーの買い物袋を下げ、賑やかな大通りから一本裏道に入る。すると竹林に囲まれた和風の屋敷が静かに出迎えてくれた。


「ふぅ……頑張るぞ!」


 此処が今日から僕の仕事場兼、自宅になる場所だ。


 前回訪れた際の気持ちとは別の緊張感を感じている。尾崎先生のご厚意で『稲荷寿司係』として、住み込みで働かせてもらえる事になった。彼の希望に応えられるように頑張るぞ。


 気合いを入れ直し、屋敷の門を通りぬけ玄関の引き戸を開けた。


「ただいまもどっ……っ!? 尾崎先生!?」


 僕の挨拶は途中で、叫び声へと変わった。


 開けた先には着流しを身に纏い、力無く投げ出された四肢と床に散らばる銀髪。

 廊下に屋敷の主人が倒れ伏していたからだ。


「大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」


 突然の事に驚きつつも、駆け寄り声をかける。


 玄関扉には鍵がかかっていなかった。だから在宅だろうと安心をしていた。まさか、倒れているなど想像も思いもしなかった。僕がアパートの手続きで留守にした二日間に、一体何があったのだろう。

 もしかして強盗にでも襲われたのだろうか?しかし彼の着衣には乱れは無い。それに先生は妖狐で強い筈だ。そんな彼が倒れているとは由々しき事態だ。


「うぅ……」

「……先生!!」


 幸いにも彼は息をしている事に安堵するも、事件性がある事かもしれない。警察に連絡をした方が良いだろう、そう思い立ち上がろうとした。


「……いたぁ……」

「先生!? 大丈夫ですか?!」


 不意に先生に腕を掴まれた。


 何か僕に伝えたい事があるのだろうか、彼は口を小さく動かした。僕は聞き逃さないように、耳を澄ました。


「は……腹が空いたぁぁ……」


 か細い声と共に、先生のお腹が盛大に鳴った。



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