4「花子さんの祈りと夜宮航」
今、目の前で笑っている夜宮くんが事故にあう!?
信じられないけど、事実だ。早く助けないと!
私はダッシュした(浮くことはできるけど、早く移動できないの。
不便よねホント)。
夜宮くんが歩いているのは、通学路。そして……
前からトラックが走ってきていた。
「っ!」
私が死んだのも同じ場所。しかも、原因はトラック。あの時のよう
にはさせないから!
私は手に力を込めて落ちていた小石を拾って投げる。こっち来て!
「なんか音しなかった?」
「気のせいかな」
「行こ」
ギャーー!全然効果ない!!これは、私の手に負えない!
そのとき、トラックのタイヤがキーーーッと嫌な音をたてた。向か
う先は先頭にいる夜宮くん。
夜宮くんの、目を見開いてなにか諦めたような表情、絶望して叫ぶ
友達をみたとき、私は考えるより先に叫んでいた。
「御力よ!今こそ我の願いを聞き届けよ!」
あたりに風が渦巻いたかと思えば、世界の時が止まった。夜宮くんと
トラックの間の距離は約30㎝。間に合った!これなら、いける!
「私の願いは、夜宮充を救うこと!12年間役目をつとめた我の祈り、
しっかり叶えたまえ!」
すると私の体からふわっと何かが抜けた感じがした。ただの幽霊に
なったみたい。怪談としての力がなくなって、普通の死者になったん
だろう。
「そなたの願い、必ず叶えてみせよう」
低く、威厳を感じさせる男性の声が頭の中に響いた。昔、怪談にな
るときに聞いた以来の声で、なんだか少し懐かしくなった。
そうして止まっていた時が動き出した。トラックが夜宮くんにあた
りそうになった瞬間、ありえないくらい強い風が吹き、トラックが横
転し、夜宮くんは…無事だった。
「…良かった」
私はホッと息をつく。友達たちが夜宮くんに駆けよっていく。私は浮
くことができなくなり、体がいつもより透けていることに気づく。ア
オタが悲しそうに私の足をなめている。
「これで、お別れかぁ」
私は夜宮くんに近づき、耳元で囁いた。
「無事でよかった。さよなら」
一瞬夜宮くんと目が合ったけど、たぶん気のせい。
それから三日が経ち、私は天へと行く日になった。夜宮くんは無事
で元気だ。
「ついにさよならか。意外と短かったかも、12年って」
私は空を見上げる。そして、校門のところに立った。
「やっと、卒業。及川先生、夜宮くん、バイバイ」
そういって空へ一歩踏み出した時、声が聞こえた。
「華さん、聞こえてる?先日は俺を助けてくれてありがとう」
なん、で。私のこと。
「死ぬって思った時、光ってる少女が見えたんだ。それを両親に話し
たら、多分兄ちゃんと両想いだった華ちゃんだって教えてくれた」
そうだったんだ…。
「あの日は華さんの命日だったし助けてくれたんだよね。ありがとう」
そういうと夜宮くんは空を見上げた。
「華さん、兄ちゃんに会えたかな…。二人がどうか、幸せであります
ように」
そして夜宮くんは去ってった。
私は満足した気持ちで空への階段をゆっくり昇っていく。
私の夜宮くんへの気持ちは、恋というより、“推しへの愛”って感じだ
ったかも。推しにたくさん名前呼ばれるなんて今日はいい日だ。それ
に…。
私は空の上を見あげる。大きく手を振っている男の子がいた。
「…夜宮くん!」
私は階段を駆け上がる。待っててくれたんだ、三年間も!すごく、す
ごく嬉しい!
私は走る、大好きな彼のもとを目指してーーー。
あの日以降、霊感を持ち、華ちゃんの写真を見て一目ぼれをした人が
いた。だけど、それは、語られるかわからない秘密の物語。
花子さんだって恋をする! 雫石わか @aonomahoroba0503
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