3「花子さんと夜宮くん」
…私が夜宮くんを好きになったのは、夜宮くんが三年生のとき、
つまり三年前だ。
「うっ、うぅ…。うっ」
泣き声が聞こえた。気になって行ってみるとそこにいたのは夜宮く
ん。
(この子は夜宮充くん…。どうしたんだろう?)
私は夜宮くんを知っていた。赤ちゃんの頃から。夜宮くんの兄、夜
宮航は私の初恋の人だ。(兄弟そろって恋するなんて、とか言わな
いでよ?二人ともいい子でかっこいいんだもん!しょうがないじゃ
ん!)
充くんは私と航くんが12歳のとき、生まれた弟だ。航くんと私
はいわゆる両片想いってやつだった。だけど、お互い、好きだと知
っていた。…だからこそ、航くんは私のことがショックで、弟の充
くんには話してない。話していたとしても、充くんが3歳とか5歳
のときだと思うから、たぶん覚えてない。
お兄ちゃんに似て、いつも笑顔で明るい充くんが…泣いてる。
「×☆で、な※で♡!?◇」
なんて!?聞こえなかったから、となりにしゃがんだ。一瞬目をこ
するのをやめてフッと顔を上げたから私に気づいたのかと思って驚
いたけど、ただ顔をあげただけだったみたい。
「兄ちゃん…なんで死んじゃったのぉ。オレを、おいてくなんて…。
たったひとりの兄弟なのに…!」
え、嘘……。航くん、が…死んだ?な、なんで……?
驚きすぎてなにも考えられなくなった。まだ、21歳でしょ。未来
めちゃくちゃあるじゃん。なんで…!
そう思った時だった。
背後にふわっとした気配を感じて振り返る。何もなかった。だけど
少し空間がゆがんでいるように見えて、優しい雰囲気があった。
「華ちゃん…。久しぶり。俺、長くは現世にいられないけど、最後
に顔見たくてきた。…好きだったよ。」
航くんの声がした。驚いて思考停止した。でも、何も見えない。
だから、一度ぐっと目をつむってゆっくり開いた。
そこには、大人になった航くんの姿があった。前以上にカッコよ
くなっていて、惚れ直しちゃいそう。絶対に叶うことはないと思っ
ていた“航くんとの再会”が今叶った。…でも、一番叶ってほしくな
い叶い方をしてしまった。なんで、とききたいけれど、航くんが望
む言葉はそれじゃない。
「わ、私も好きだった…!」
そういうと航くんはニッと笑った。頬が少し赤かった。大人になっ
てるけど、笑顔も、ちょっとやんちゃな感じも、前から変わってな
いなぁ。私のことも覚えてくれてた。…嬉しい。
「俺と充って結構似てるからさ、充のこと好きになるかもしんない
けど、俺はそれを許す!」
「そ、そんなこと……!ない、とは言い切れないけど…。でも、私
の初恋は航くんだから!一番は航くんだから!」
それを聞いた航くんは、さっき以上に顔を真っ赤にしてうつむいた。
「おう、ありがと。…ちなみにさ、俺のいちばんも…」
航くんは顔を上げて最っ高ーっの笑顔でいった。
「華ちゃんだよ…」
っっ!?!?!?
「ふはっ!その顔好き。…あ、俺もう逝かなきゃ。華ちゃん、充を
頼ん、だ、よ……」
そういって航くんは空に溶けていくように、スーっと昇っていった。
「うん。絶対に守るよ」
それ以降、私はよく夜宮くん(充くんのことはこう呼ぶ)を観察
することにした。そうしたら本当に航くんみたいで恋に落ちちゃっ
た♡向こうで航くん、あきれてそうだなと思いながらも。…もし話
せたら、お兄ちゃんの事、いっぱい話したい。私の知らないあいだ
のことも話したかった。だから、そのために力を使おうかとも思っ
た。だけど、私は、夜宮くんに生きてほしい!
だから、私は、航くんとの約束を守るために、御力を使うーーー!
兄弟そろって死なせたりしない!私は、航くんとの約束を、守る
んだから…!
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