2「花子さんの過去と今」
今日も私は登校する子どもたちの中から夜宮くんを探す。あっ!
「夜宮くんだ!今日もかっこいい~!みんなと話してる時の笑顔、
めちゃくちゃ素敵!はぁ、私も話してみたいな、一度くらい」
そういってため息をつく。そこに青太郎(アオタ)がハッハと言い
ながら私の足元を回り始めた。しっぽを振っている姿がとても愛ら
しい。
「ほんとアオタはかわいいなぁ~。ネコ派だった私を完全なイヌ派
にしちゃったんだから。それにしても夜宮くん最高。そういえば、
私が死んだのって12年前だから普通に生きてたら24歳。相手は12歳
………」
華ちゃんはこの先、このことについては一切考えないようにしよ
うと心に決めた。
その時、胸にずきりと鈍い痛みが走った。
「っう、あ…」
これは恋の痛みなんかじゃない。じゃあ何?考えて気づいた。
「今日、私の命日だ…」
私はスーっと窓まで移動する。その視線の先にいるのはずっと前
からこの学校にいる及川先生だ。校門の外の道路に立って両手を合
わせている。…悲しげな表情をして。
「…そんな顔しないでよ先生。私、今楽しいよ…」
今はたしか45歳。…私の元担任。先生は優しくて面白くてみんなか
ら好かれていた。それは今も同じ。そして、とっても生徒思い。
「もう、12年たったんだよ先生。私の事なんか忘れたっていいのに」
言葉ではそういうけど、やっぱり誰かが覚えていてくれるのは嬉し
い。
私は小学校時代のことなどを思い出して感傷に浸ってた。…思い
出したって戻れない。つらいだけ。でも、一年でこの日だけは思い
出すようにしている。忘れないように。これは私の中の儀式のよう
なもので大切なことだ。だけど、それはある一言によって一瞬にし
て終わりを告げた。
「先生、昔ここで誰か亡くなったんすか?」
夜宮くんの声。
「…ああ、12年前に。俺のクラスの子だった。華っていう名前でね。
活発で明るくて、いい子だったよ。本当にその名前があっている子
だった。…あんな早くに亡くなるなんて、思ってなかった。せめて
今、幸せでありますように」
「…そうですね。会ったことない俺に言われても嬉しくないと思う
けど、華さんが今、幸せでありますように」
うきゃーーーーー!うっれしいー!!!夜宮くん最高!あ、あの夜
宮くんが私の名を!呼んでくれただと!?今、最高に幸せです!あ
ざます!
華ちゃんのテンションは爆上がりした。
…その時チャイムが鳴って夜宮くんと及川先生は急いで校舎に走っ
ていった。
私は空を見上げて思う。
私、今幸せ。すごく楽しい。
私の一日を紹介しよう。私は普段トイレにいるけど学校の敷地内
ならどこでも行ける。勘のいい方は察したとおもうけど、一日中夜
宮くんのクラスについていってる。私が見える人いないし、案外楽
しい。職員室のぞきもよくやる。夜は図書館行くよ。あとはアオタ
と遊ぶ。
でも今日は“御力”の使い道を考えなくちゃ。
あ、御力っていうのは、死んじゃって私が花子さんになるときに
神様にもらった力。人に害を与えないことならなんでも願いが一つ
叶う。死んじゃって七不思議とかこういう怪談になって12年たつと
つかえるの。夜宮くん関連にしたいんだけど、どうしよう?
私が人間になって夜宮くんと結ばれるのは無理だし、夜宮くんと
話せるようにするとか?あ、これいい、これにしようか……………
その時だった悪寒がしたのは。
「っ!これは…、この学校の生徒になにか起こる!」
私はトイレを飛び出す。
ここの怪談になってから、ここの生徒の身に危険が迫ると悪寒が
する。私は…その子を助ける!早く死んじゃって親孝行とかできな
かった。だからせめて、この学校の子だけでも私みたいな子を出し
たくないから…!
悪寒の発生源をたどる。そこにいたのは、
「うそ、夜宮くん……!」
ランドセルを背負って友達と楽しそうに笑って歩く夜宮くんだった。
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