第10話

「みか~!ママが浮気してるよ~」

泣き真似をして抱き締めている娘に甘える彼に、彼女の子供が「よしよし」って頭を撫でている。

「あんなに好きになった人は、他に居なかったからね……。別れてからも、すぐには諦め付かなかったからなぁ~」

懐かしそうにポツリと呟いた彼女の言葉に、何故か涙が込み上げて来た。

「あ!今はパパが一番だからね」

「はいはい。何度も聞かされたから、知ってます」

クルクルと変わる彼女の表情が滲んでいく。

彼女は彼の腕に手を回し

「妬いてる?」

と、悪戯っ子の目をして訊いている。

「別に。俺にはみかがいるから!な~みか!」

「な~!」

キャッキャと笑う子供の声が響き、段々と会話が遠くなって行く。

幸せそうに笑う3人の笑顔を、しばらく見つめていた。


大切な人は、失ってから気が付く。


何処かで読んだ本に書いてあった。

あの時、変なプライドを持たなければ……。

もっと、彼女の声に耳を傾けて上げれば……。

彼が居たあの位置は、本当に自分だったのかもしれないと、一度は打ち消した感情がぶり返す。

でもあの日、彼女の為にずぶ濡れになった彼を選んだから、彼女はあんなに穏やかに笑っているのだろうと思った。

俺はゆっくりと立ち上がり、空を見上げた。

彼女との再会は、通り雨のように突然だった。


「長塚君」


少し「君」の部分が鼻に掛かって、少しだけ音が高くなる彼女の声が好きだった。

俺を全身で大好きって言ってくれた彼女が、俺も好きだったのだと……今更、気が付いた。

俺は彼女達が去っていた方向と逆方向にゆっくりと歩き出す。

 もし次に再会する事が出来たら、その時は俺にも家族が居たら良いな……と思いながら。[完]

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通り雨 青空 @Aozora_6

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