第2話 名前を知った日
強引に連れてこられたベンチに座ると、身体がダラっと重く感じた。
本当に僕は熱中症になったのかもしれない。
ふと、顔をあげるとそこに女性はいなかった。
いつの間にか消えていた。
ベンチから見るバラもとても美しかった。
僕はまたバラから目が話せなかった。
それバラの魅力に取り憑かれてしまったかのようだった。
突然冷たい物が首の後ろに当たって、ひゃーっと変な声で叫んでしまった。
「ごめんなさい。そんなに驚くと思わなくて…。」
そこには先ほどの女性が背後に立ち、ペットボトルの水を僕の首にあてていたのだ。
「水を飲んで、身体を少し冷ましたら、きっと元気になれますね。」
と、明るい声で話しかけてくれた。
「親切にありがとうございます。」
と、僕は頭を下げながら心を込めてお礼を言った。
「当然のことをしただけです。ただ、無理やりベンチまで連れてきてしまい、すみませんでした。」
女性も頭を下げていたので、僕は驚きながら
「そんなことないですよ。多分、熱中症になりかかっていたのだと思います。ありがとうこざいました。」
もう一度お礼の言葉と頭を下げた。
「なんだか、2人してペコペコしてて、面白いですね。永遠と終わらなそうなので、これでお互い終わりにしませんか?」
女性はお日様のように暖かく、素敵な笑顔で、僕に言った。
「そうですね。」
その笑顔につられて、僕も笑顔になれた。
日が傾いてきて、2人で他愛のない話をしていた僕の身体はだんだんと楽になってきた。
「だいぶ身体が楽になってきました。」
僕はゆっくり立ち上がった。
「それはよかったです。今度からはしっかり水分と帽子を被ってバラの観賞をしてくださいね。」
彼女は優しい笑顔で僕に言った。
「では、私はこれで失礼しますね。」
「是非お礼させてください。」
背を向けそうになっている彼女を見て、慌てた僕は少し大きな声が出てしまった。
僕は彼女に感謝していたので、このまま彼女を帰すと後悔する気がしたのだ。
実際少し下心もあったと思う。
「お礼だなんて、気にしないでください。」
彼女は少しびっくりしたような、でも少し照れているような顔をしながら、僕に言った。
「じゃあ、名前。名前だけでも教えてくれませんか?」
僕は必死だった。彼女との繋がりを無くしたくはなかった。
「名前ですか?まぁ、それくらいなら…」
少し間を空けて
「皆木美代__みなぎみよと言います。」
「教えてくれてありがとうこざいます。ぼくは無綱逸琉_むづないつると言います。」
「無綱さんって珍しい苗字ですね。珍しい苗字だと覚えやすいですよね。」
僕はこのヘンテコな苗字があまり好きではなかったが、今は苗字に好きになれそうだった。
そのあとすぐに僕たちは別れ別れに去った。
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