好きだから、私はあなたを殺したい

第1話 手を繋いだ日

ある真夏のように暑い5月の頃、僕は近くのバラ園を散策していた。

バラの花言葉は「愛」と「美｣。

バラを見ていると、納得できる花言葉だと思う。

外敵からバラを守る棘は花だけでなく、バラの愛らしさや美しさも守っているのではないかと誰かと話した。

誰だったのかは思い出せない。

でも、棘が愛らしさや美しさも守っているのなら、バラに棘があっても悪くないと思う。

「具合でも悪いですか？」

と頭の上から声が聞こえた。

その声は美しく、まるでバラが話かけてくれているようだ。

「大丈夫ですか？」

ハッと現実に引き戻される。

知らぬ間にしゃがみこんでバラを眺めていたらしい。

声の主の方に僕は顔を向けた。

太陽が眩しいせいで顔はよく見えないが、女性だということはわかる。

僕は急いで立ち上がろうとしたが、その途中で少しふらついてしまった。

「大丈夫ですか？熱中症かも…木陰に移動しましょう。」

美しい声の女性は私を心配そうに見ながら、木の下のベンチを指さした。

「大丈夫です。少し立ちくらみしただけですから。」

「ここは暑いですから、熱中症も有り得ます。移動しましょう。」

「いや…でも…。」

女性は僕の手を引き、木陰に強引にでも、ゆっくりと向かった。

これが僕たちが初めて手を繋いだ瞬間だった。