5回 秘術師ガレリオン

 この話はエルダースクロールの魔術師ギルドの中でも創世記にあたる。

 もともと魔術師ギルドというものは存在せず、アルテウム島にいる魔術師だけが高等な魔法を使うべきだ、という考えだった。下層階級に魔術を広めるのに反対の魔術師は数多く、それこそこの話の中のギャナッセ卿のような特権意識を持っている者が多かった。

 しかしガレリオンはこれに反対し、魔術を体系化し学問化し、知の波及を指導した。

 この話がなぜ好きなのかと言われれば、学問の誕生というのを上手く寓話化しているところにある。知識というのは学ぶために整理され体系化され教えられなければ、小さな価値しか持たないからだ。

 図書館学をかじったことのある人なら、このガレリオンの生き様に興味を持つのではないだろうか。図書館というのも、一種の知の波及の第一歩として設立された経緯がある。

 だから図書館に置く本を限定したり検閲したりするのは、甚だしい知への冒涜だということを胸に刻んでいただきたい。



『神秘師ガレリオン』

 アスグリム・コルスグレッグ著


 ヴァナス・ガレルイオンは第二期初頭に生まれ、トレシュタスと名付けられた。小貴族、ソリシチ・オン・カーのギャナッセ卿の屋敷に仕える農奴として生まれた。

 トレシュタスの両親は労働者だったが、ギャナッセ卿の掟に背いて読み書きを習得し、トレシュタスにも学ばせた。ギャナッセ卿は読み書きできる農奴は自然への冒涜であり、貴族をおびやかしかねないと聞かされていたため、ソリシチ・オン・カーの全書店を営業停止にしていたのだ。彼の敷地内をのぞいて書籍商、詩人、教師は締め出されていたものの、密輸によって本や巻物が流通していた。

 トレシュタスが8歳のとき、密輸をしていた父が投獄された。無学で敬虔な母が夫を裏切ったという噂もあったが、定かではない。父は吊るされ、ソリシチ・オン・カーで数世紀ぶりの猛暑の中、一週間吊るされた。

 三ヶ月後、ギャナッセ卿の屋敷から逃げ出したトレシュタスは、サマーセット島の半ばにあるアリノールに到達した。吟遊詩人の一団が瀕死の彼を発見し、看病した。回復したトレシュタスを下働きにし、食事と部屋を与えた。

 吟遊詩人の占い師、ヘリアンドが彼の精神力を試そうとしたところ、彼が聡明で洗練されているとわかった。アルテウム島で神秘師として訓練を受けていたヘリアンドは、トレシュタスに相通づるものを感じた。

 巡業でサマーセット島の東端のボタンザ村を訪れた時、ヘリアンドは11歳になっていたトレシュタスを連れてアルテウム島に渡った。その島の魔術師アイアチェシスは彼の潜在能力を認め、徒弟として受け入れると、ヴァヌス・ガレリオンの名を与えた。ヴァヌスはアルテウム島で体と心の鍛錬に勤しんだ。

 魔術師ギルドの初代アークメイジはこうして育てられた。アルテウム島のサイジックからは訓練をつけてもらい、欠乏と不公平の少年時代から知識の共有という哲学を得たのである。


 原文

 神秘士ガレリオン

 アスグリム・コルスグレッグ 著


 ヴァヌス・ガレリオンは血なまぐさい第二紀初頭にこの世に生を受け、トレシュタスと名づけられた。生まれながらにして、小貴族であるソリシチ・オン・カーのギャナッセ卿の屋敷に仕える農奴であった。トレシュタスの両親はごく普通の労働者だったが、父親はギャナッセ卿の掟に背いて読み書きを修得し、その息子にも学ばせた。ギャナッセ卿は、読み書きのできる農奴は自然への冒涜であり、貴族の立場をおびやかしかねないと聞かされていたため、ソリシチ・オン・カーの全書店を営業停止にしていた。ギャナッセ卿の敷地内をのぞいてすべての書籍商、詩人、教師は締め出されたが、それでもなお、小規模な密輸取引によってかなりの本や巻物が卿の目のとどかないところで流通していた。


 トレシュタスが8歳のとき、密輸業者が捕まって投獄された。夫におびえる無学で敬虔なトレシュタスの母が密輸業者を裏切ったという説もあったが、他の噂もあった。密輸業者は裁判にかけられないまま、ただちに刑が執行された。ソリシチ・オン・カーでも数世紀ぶりの猛暑のなか、トレシュタスの父の死体は一週間も吊るされたままだった。


 3ヵ月後、トレシュタスはギャナッセ卿の屋敷から逃げ出し、サマーセット島を半分ほど横切ったところにあるアリノールまでやってきた。トルバドゥールの一団が道端の溝にうずくまっていた瀕死の彼を発見した。看病によって回復したトレシュタスを下働きとして雇い入れると、彼に食事と部屋を与えた。トルバドゥールの一人である易者のヘリアンドがトレシュタスの精神力を試そうとしたところ、この恥ずかしがりやの少年は、その不遇ぶりにもかかわらず、尋常ならざるほど聡明で洗練されていることがわかった。アルテウム島で神秘士としての訓練を受けていたヘリアンドは、トレシュタスにどこか相通ずるものを感じた。


 巡業でサマーセット島の東端にあるボタンザ村を訪れたとき、ヘリアンドは11歳になっていたトレシュタスを連れてアルテウム島に渡った。その島の魔術師アイアチェシスはトレシュタスの潜在能力を認め、徒弟として受け入れると、ヴァヌス・ガレリオンの名を与えた。ヴァヌスはアルテウム島で体と心の鍛錬にいそしんだ。


 魔術師ギルドの初代大賢者はこうして育てられたのであった。アルテウム島のサイジックからは訓練をつけてもらい、欠乏と不公平の少年時代からは知識の共有という彼の哲学を学び取ったのである。


 https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/34.html

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読解力向上のための要約練習 戸賀内籐 @tokatoka00

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