最終話
それからの生活は、非常に快適なものになった。腹が空いたら、村から川や山に行って、轟の雷で魚や獣を狩る生活。食うものに困ることは無くなり、次第に俺も轟の血色も良くなっていった。朝方農作業し、午後は狩りをして二人で歌ったり踊ったり。毎日が楽しくなっていった。
こんな生活をしていたから、ばちが当たったのだろうか。ある日突然、玄関の戸が蹴破られ、屈強な村の役人たちがぞろぞろとやって来た。
「お前らが最近、身分に合わない暮らしをしている者たちだな」
役人の一人が高圧的な態度でそう言い放つ。
「な、何だってんだいきなりやって来て。年貢分はちゃんと払っているぞ」
僕はすかさず言い返した。しかし、役人たちは意に返さない。
「黙れ。それに轟とかいう男の方は変な妖術を使うと聞くぞ。怪しいやつだ。轟の身柄を藩に引き渡してもらおう」
窓の隙間から外を見ると、武装した役人が百人以上、家の周囲を取り囲んでいた。一番偉そうな役人の傍には、村の奴らが媚びへつらって集まっていた。
「あいつらです! 真面目に農業もせず、山や川で遊びほうけているのは」
「男の一人は雷の妖術を使うらしいの。怖いわ……」
「いやあ流石は御役人の方々ですな。あの凶悪な男どもをここまで手際よく包囲できるなんて」
耳を澄ますと、村人たちのそんな声が聞こえた。その間、轟はずっと下を向いていた。
「聞いているのか貴様ァ!」
役人の一人が轟に掴みかかろうとする。刹那、
バン
閃光と共に爆発音が生じ、役人は全身黒焦げになって床に倒れ込んだ。
「轟……?」
雰囲気が一変した轟に疑問の視線を送る俺に向かって、轟は淡々と語りだした。
「琥太郎、俺は以前お前に、自分は雷神の息子だって言ったが、本当は違うんだ」
「え……?」
刀を振りかざし向かってくる役人たちを次から次へと黒焦げにしながら、轟は続ける。
「正しくは、息子”だった”。天界でオヤジ……今の雷神との代替わりをかけた争いに敗けてな。天から落とされ、お前に見つからなければ、あのまま消えるところだったんだ」
「俺は別に消えても良かった。だがお前に助けられ、轟という名を貰い、飯を分けて貰った。楽しかった。お前のおかげで、俺は
「だが、俺がいるせいで琥太郎の暮らしが脅かされている。だったら俺に出来ることは」
轟の異様な気配を察知し、すかさず止めに入る僕。だが、既に遅かった。
「琥太郎の敵を全て倒すことだ」
ひと際まぶしい閃光と、ひと際大きな爆発音とともに、僕は部屋の隅まで吹き飛ばされた。
どうやら気を失っていたようだ。辺りを見渡すと、一面の黒色が広がっていた。よく見るとそれは、さっきまで役人だったものと村人だったもののなれの果てだ。轟の姿は、既になかった。
それから一年、僕は再び山に行って、薪を集めていた。あの事件があってからというもの、追手の役人や他の村人たちが家に来るなんてことはなくなった。多分怖がられているのだろう。別にそれはいい。ただ、今は、あいつに会って礼が言いたい。あいつと出会えて助けられ、楽しかったのは俺も同じなのだ。あいつは死んだのか、それともどこかに立ち去っただけなのか、それは既に定かでないが会えるものならまた会いたい。
そんなことを考えていると、直ぐ近くで雷が光り、雷が鳴った気がした。微かだったが、確かにその音と光は、間違えるはずもない、聞きなれたあいつのものだった。
春雷 七草世理 @nanakusa3o
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます