第3話

次の日、私は花壇の前で立ち止まり「アッ! 」と声をあげる。

花壇の中ではチューリップが花を咲かせていた。


昨日、リンちゃんがスケッチブックに描いた様に、黄色い花とオレンジの花が交互に並んで私を出迎えてくれてるみたいだった。


リンちゃんは今日はどんな花を咲かせてくれるんだろう?

なんだかワクワクしてきてリンちゃんの事を探した。


リンちゃんは学校の通り向かいの公園入口に屈んでいた。

隣にはいつもの様に山本先生が優しく見守ってくれている。


リンちゃんは今日は花のついてないアジサイをスケッチしている。

『一体、何色の花が咲くんだろう? 』

私はなんだか気になって行って見たくなった。


私は通行する車が途切れるのを待っていると、一台のワンボックスカーがスリップして公園入口の方に向かって行った。


そこからの事はあまりハッキリ憶えていない。

でも、気がついたら私は山本先生の心臓マッサージをしていた。

山本先生は血だらけでぐったりしている。

救急車が来るまでの時間がものすごく永く感じた。


病院に着いて山本先生は集中治療室に入った。

肋骨が折れて肺に刺さっていたそうだ。

緊急のオペが行われ、戻って来た先生は身体中に点滴のチューブを取り付けられた。

全身、特に胸を強く打撲しているそうで『命も危ない状態だ』と言われた。


私は目の前が真っ暗に成った様に感じた。

一緒に救急車に乗っていたリンちゃんが山本先生の部屋の前までやって来た。

リンちゃんは無表情にジッと山本先生を見ていたかと思ったが・・・

いつも感情を表に出さないリンちゃんだがその目には涙がたまっていた。

リンちゃんはガラス越しに山本先生をジッと見ながら山本先生が見えるベンチに腰を下ろす。


そして小脇に抱えたスケッチブックを開いて色えんぴつをはしらせ始める。


「こんな時に何やってるの! 」

お見舞いに来ている人が声を荒げた。


「山本先生はこの子の一番の理解者なんです。お願いです、この子のやりたい様にやらせてください。」

私はその人をなんとか説得してリンちゃんに絵を描かせてあげた。


リンちゃんの絵は20分くらいで完成した。

そのスケッチブックには病室のベッドで上半身を起こして、いつもの様に優しく微笑んでいる山本先生が居た。


リンちゃんはその絵をビリッとスケッチブックから外す。

そして病院のスタッフさんに手渡した。

「リンちゃんはコミュニケーションをとることが苦手なんです。」

私はみんなを見て一言だけ告げた。

だか、みんなもリンちゃんの絵を見て想いは伝わったみたいだった。


「今日はみんな帰りましょう! 」

山本先生の事は心配だったが私達はここに居ても何も出来ないので帰る事になった。


次の日、山本先生は生死の境から生還し、意識が戻った。


一方のリンちゃんの方は山本先生に絵を渡す事が出来て嬉しそうだったそうだ。

しかしその夜脳内出血を起こしてしまい、眠るように亡くなってしまった。

リンちゃんはいつもの表情と違い、嬉しそうに微笑んでいてまるで天使みたいな顔だったそうです。


私は山本先生がリンちゃんに「人物画を描くのは止めなさい。」って言っていたのを思い出した。


リンちゃんの絵にはきっと魂がこもっていたんだと思う。

山本先生はそれが人に向けられたりしたら、きっと反動があると思ったのだろう。


リンちゃんはきっと沢山の花に囲まれて、天使の様な笑顔の人々に見守られて次の世界に旅立っていったと思います。


リンちゃんが最後にスケッチしていた場所には青色のアジサイの花が咲き誇っていた。

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花さかリンちゃん アオヤ @aoyashou

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