第2話

ある日散歩で学校の外を歩いていたら、リンちゃんが一面背の低い草だらけの田んぼの前で立ち止まった。


リンちゃんは車道と歩道を区切るブロックの上に腰かけるとスケッチブックを開きその草だらけの景色をスケッチしだした。


スゴイはやさだ。

普通の人が一時間くらいかかりそうなところをリンちゃんは10分で書いている。


そのスケッチブックには花の咲いたレンゲ畑が描かれていた。

そこにはミツバチが飛んでいそうな薄いピンクの花畑が広がっていた。

でも、目の前に広がってるのは雑草だか花だか分からない様な一面の緑に覆われた田んぼだ。

ひと通り書き終えた頃合いを見計らって「また後で見に来ようね? 」って私はリンちゃんに声をかけた。


次の日、私が通勤途中に昨日リンちゃんがスケッチしていた場所を通り過ぎるとそこは一面のレンゲの花畑に変わっていた。

私は自分の目を疑った。

またリンちゃんのスケッチブックに描かれた景色通りになった。

今日もお散歩でリンちゃんとそのレンゲのお花畑の前を通り過ぎる。

でもリンちゃんはその景色をチラッと見るだけで特に表情を変える事などなかった。


私はリンちゃんの事をもっと分かりたいのにますます分からなくなった。

私は一面のレンゲ畑に見とれていたのに・・・


そして散歩から帰ると学校の花壇にチューリップがヒョロリと背伸びした様に生えてた。

「あと何日かしたらチューリップの花が咲くね。何色の花が咲くだろうね? 」

私はリンちゃんに声をかけてみる。


そしたらその場でリンちゃんはしゃがみ込んでスケッチブックを開いてチューリップを写生し始めた。


またリンちゃんのスケッチブックには花が咲いたチューリップが描かれている。

すうっと背伸びした様ないきいきとした花が・・・

黄色い花とオレンジ色の花が交互に並んで花壇一杯に咲いている姿が描かれていた。

「明日、こんな風に花壇一杯にチューリップが咲いてたら綺麗だね? 」


私の問いかけにリンちゃんがちょとだけ私にニコッとしてくれた様に見える。

初めて笑顔を見せてくれて私はとても嬉しくなってしまった。


「ねぇリンちゃん? 私の事も描いてもらっていいかな? 」


なんにも考えずに私から言葉がこぼれた。

リンちゃんは表情こそ変えなかったが私の事をジッと見つめる。

そしてスケッチブックの新しいページを開くとスラスラと色えんぴつをはしらせた。


「リンちゃん、人物画を描くのを辞めなさい! 」


後ろから突然、山本先生の大きな声がして私はビクッとなった。


「石井先生も、もう時間だから教室に入ってください! 」


リンちゃんがせっかく私の事を描いてくれているのになんで・・・?

その時はそれが不満で何か言い返してやろうと思った。

でも、山本先生の目はいつもの優しい目だった。

私に何かを訴えているようにも思える。


しかたなく、私もリンちゃんが教室に入る様に促した。


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