花さかリンちゃん
アオヤ
第1話
私が昔、特別支援学校に勤めていた頃の話だ。
中等部にリンちゃんという子が居て不思議な子だった。
彼女は絵が好きでいつでも小脇にスケッチブックを抱えている。
そして彼女は人物を描くことは少なく風景画ばかりを描いていた。
彼女には若干の知的障害があり、
私が声をかけてもほとんど表情に変化が無く私の事なんてその辺に転がってる石ころを見ている様だ。
そんな彼女だったが・・・
同僚の先生に山本章という人が居て、その人と一緒に居る時だけは彼女の表情が和らいでいる様に見えた。
「ねぇ山本先生、何でリンちゃんは山本先生だけに心を開いてくれてるの? 私を見る時はまるでモノを見る様に表情変えないのに、山本先生にはニコッとしてる様に見えるんだけど・・・」
山本先生は首を横に振る様にして私に応えてくれた。
「リンちゃんはちゃんと分かってくれてますよ。石井先生だって一生懸命リンちゃんに関わってくれてくれてますから。たぶん俺の事は猫か犬と同じと思っているんじゃないですか? リンちゃんの頭の中では色々考えているんだけど、それが言葉にならないだけですよ。」
私はチョト納得いかなかったけど・・・
山本先生は人の心の中が見えている様で羨ましかった。
リンちゃんの目を見つめて語りかける山本先生はいつも優しい顔をしている。
リンちゃんは風景画を色えんぴつで描くのが好きで、その絵は『写真なのか?』と見間違える様な出来栄えだ。
そしてその絵はとても不思議な絵だ。
この間リンちゃんは菜の花畑と思われる場所をスケッチしていた。
「リンちゃん菜の花畑をスケッチしてるの? あと数日後には花が咲くからそれから描いた方が綺麗だよ? 」
花の咲いてない菜の花畑を見て、私はそんな事をリンちゃんに語りかけた。
ふっとリンちゃんのスケッチブックを見たら既に黄色い菜の花が一面に拡がり、それはまるでコーラスをする子供達が身体を揺らしているみたいにも見えた。
でも、私の目の前に見えるのは緑の草が鬱蒼としている景色だった。
黄色い花なんてどこにも無い。
きっとリンちゃんにはここが一面の菜の花畑に成った景色が見えているんだと思う。
不意に山本先生に後ろから声をかけられる。
「リンちゃんの絵、スゴイだろ? 見てるだけでチカラが湧いてくる。」
私は黙って頷いた。
そして次の日、その場所は黄色い花が咲き誇った。
まるでリンちゃんにはこの景色が既に見えていたかのように、そっくりな景色だった。
「フフフ『花さかリンちゃん』だね? 」
そんな風に私はリンちゃんに語りかけた。
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