第5話後半 もふもふ動物園ガイド ~実践編~

 う~ん、『おうち動物園』ってなんだ?


 自分で言っておいて俺はかなり悩んでいた。ひまりを1人にしておけないし、家にあるものは限られる。


 ひまりは一体動物園に何を求めている?


 もふもふか……。

 つぶらな瞳にピンクの肉球。

 たまにキラリと光る鋭い爪。

 ぷりぷり動くもこもこのおしり。

 ビックリするほど長いまつげ。

 ふりっふりしてるふっかふかのしっぽ。

 独特のにおい……?


 だめだ。動物園初心者過ぎて分からない。

 動物園のことは動物園に聞くしかない。


 俺は行く予定だった動物園のホームページを見た。ひまりは『レッサーパンダ』が特に見たかった筈だ。


 そこから、たぐってたぐって何とか俺は『おうち動物園』までたどり着いたんだ。


 うーん、頑張ったからひまりは満足してくれるだろうか。


 あれを用意して、ここに入れておく。


 よーし、やるぞぉ!


 ◎○●◎○●


 ベッドの上に横たわったパジャマ姿のひまりは、顔を赤くして苦しそうだった。冷えピタをおでこに貼り、少し冷やしたスポーツ飲料を飲ませる。


「さっくん、ありがとぉ」

「もっと早く気がつかなくてごめんな」


 ゆっくりと頭を撫でると、気持ち良さそうにひまりは目をつぶった。


「ううん、ほんとは何か調子悪いかも?と思ってたけど、凄く楽しみだったから気のせいだって思い込ませたの。ごめんね」


「一応、家で寝てても動物園気分味わえるような方法考えたけど、まずは寝とく?

 しんどいだろ?」


 ほっぺたに手を当てると、彼女のそれはじっとりと熱かった。辛くない筈はない。


「ううん、さっくん嫌じゃなかったら、『おうち動物園』したいなぁ……」


 少し息が荒い彼女に無理をさせる訳にはいかない。


「じゃあちょっとずつだけな? また良さそうなの探してやるし、動物園は体調良くなったら行こう」


 俺の言葉にリンゴのような赤い顔をしたひまりは穏やかに微笑んだ。


 ●○◎○●○


「うわぁ~、さっくん見てぇ! お鼻がひくひくしてるよ」


 俺とひまりは今ベッドに横になって、スマホを眺めている。画面に写し出されたのは


 白や黒、様々な色のうさぎ達。

 彼等は鼻をひくひくと動かし、床に置かれたペレットに群がっている。


 カリッカリカリ……


 ひまりはスマホを動かしたり、指を動かしたりしてうさぎ達の様子を嬉しそうに見つめている。


 俺が動物園のホームページから見つけたのは、動画投稿サイトの360度VR映像だ。


 動物を至近距離から見ることができ、かつスマホ自体やタッチ操作好きなように見る方向を変えることが出来る。音声も相まってその場にいるような臨場感を味わえるのだ。


「うわぁ~ふわっふわ! 」


 ひまりの顔は喜びに溢れていた。あまりに不器用にスマホを動かすので目が回らないか心配になる。

 熱中し過ぎないようにサクサク進めないと。



 ウサギの次はテンジクネズミだ。見かけは大きなハムスターにしか見えない。


 色とりどりの彼等は木製のレールの上を一直線に駆けていく。一心不乱にエサをめがけて走っているのだ。


 スタタタタタタッ、ズドドドドッ


 という音が聞こえて来そうだが、実際にはチリンチリンチリンと、エサの合図である音が鳴り響いている。


 小さなもふもふ達は俊敏な動きを見せてくれた。ひまりの目は釘付けになっていた。


(これは、楽しんでる? )


 短い動画なのでそんなに時間は掛からない。3本目はアメリカンビーバーの赤ちゃんだ。


 小さめのビーバー達は水の中を泳ぎ回る。

 カメラは水中にセットされているので、視界から消えていく彼等のまるいしっぽをひまりは必死でスマホを動かして追いかける。


 コポコポ……チャプ、チャプ


 という音にまるで自分も水中にいて一緒に泳いでいるようだ。ひまりはそんなに器用ではないので、上手くみられずに続けて2回目にチャレンジし始めた。


「ひまり、疲れちゃうから、また今度にしな? 逃げないから。 今日は次で最後」

「えっ、さっくん大丈夫だよ~? 」


 そういうひまりの顔は真っ赤で、何故か息まで上がっている。無理はさせられない。


「次のはきっと気に入るから」


 俺は次の動画を再生した。

 それはひまりが大好きなレッサーパンダだ。


 木の上にいるもっふもふな毛皮の塊は、つぶらな目でカメラを見つめている。かなり至近距離まできて


 くんくん


 と匂いを嗅いだり、


 かしゃっ、かしゃっ


 とカメラを引っ掻いたりしている。


 見慣れぬ物体に興味津々のようだ。実際に動物園に行くよりも余程至近距離で推しのもふもふを見られて、ひまりの目は一際輝いた。


 実際に触れるんじゃないかと思うほどのもふもふ感。じっと見つめてくる2つの瞳。


 そして、動画は終了した。


「さっくーん、すっごい可愛かった!

 ねっ、見てたでしょ?! もっふもふでお目目がキラキラで――」


 興奮した様子で話し始めるひまりのほっぺたを俺は両手でむにむにした。

 かなり熱い、もう潮時だ。


「はいはい、分かったからこれで『おうち動物園』はひとまず終了な?

 無理は良くないから。 ちょっと待ってな」


 えー、大丈夫だよ。と不満げな声を無視して俺は一旦部屋を出た。ひまりの為に用意しておいた『あるもの』を持って彼女の元に帰ってくる。

 ひまりに見えないように後ろに隠しながら。


「ひまちゃん、レッサーパンダそんだけ好きなら、あいつらの好物も知ってるよね? 」


「ん? えーっとぉ、笹? よく飼育員さんが持って歩いてるよ」


「まぁ、それも正解だな。

 でも今日ひまりパンダの為に俺が用意したのはこれ」


 俺は皿ごとひまりにその食べ物を差し出す。


「あーっ、そっか。食べてたかも! 」

「だろ? それちょっとだけ食べて、あとは寝てな」


 ベッドから起き上がり、食べやすいサイズに切られたリンゴをひまりは両手に持って食べ始める。


(これが『拝み食べ』だろうか?)


 シャリシャリ

 もぐもぐ

 ごっくん!


「さっくん、ありがとぉ。

 とっても楽しかったぁ! 」


「はいはい、風邪ひきパンダは寝んねの時間な」


 ひまりはそのままスヤスヤと寝てしまった。その顔は至極満足そうだ。


(飼育員もやり甲斐はあるけど、楽じゃねーな)


 残ったリンゴを食べながら俺は思った。


 もふ・もふ・Zzz……



【もふもふ判定】★5つが最大

 ◎もふもふ度:★

(動画であり触感ではないため)

 ◎再現度:★★★★

(リアルを間近で見ているような臨場感)

 ◎もふもふ欲求解消度:★★★★


 →もふもふランキング 暫定3位


 ※ただし手軽さはNo.1!!

 そして、1人でも実践可能です。


 ◎ひまり感想

 動物園デートに行けなかったのは残念でしたが、かなり距離が近くて凄く良かったです。改めて、優しいさっくんのこと好きだなと思いました。きゃっ、恥ずかしい。のろけてごめんなさい。


 ◎朔也感想

 他にも色んな動画があって、興味深かったぞ。笹やリンゴの他には、『オレンジや煮たさつまいも、ニンジン、レーズン、ペレット、煮干し』なんかをあげてるらしい。

 ちょっ! 勘違いするな。俺は『もふもふ』には興味がない。飼育したいのは、うちの子だけだ。んで、見ていいのも俺だけな。




 ※今回の動画は実際にみることが出来ます。風太くんで有名になったあそこです。


 ※『拝み食べ』風太くんのこどものクウタくんの得意技。両手で持って拝むように食べます。



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もふ・もふ @tonari0407

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