第13話 岡本太郎展

 ひと月ほど古い話になります。大阪で岡本太郎展が開催されていました。岡本太郎といえば、万博の太陽の塔が有名です。近所に住んでいるということもあり、子供たちを連れて良く太陽の塔を見に行きました。


 あれだけ奇抜なデザインを、よく想像できたものです。大きさだけではなく見る者を圧倒する存在感があります。顔が三つありますが、胸のあたりの苦悶の表情が特徴的です。両手を広げて仁王立ちしている姿に、畏敬の念を感じずにはいられません。小さかった息子たちに、「太陽の塔は、動き出すことも出来るねんで」と揶揄ったことが懐かしい。そうした馬鹿馬鹿しい嘘も、どこか信じてしまいそうな説得力が太陽の塔にあります。


 夏休みに行くつもりでしたが、混雑が心配です。9月の平日に長男と一緒に、岡本太郎展に行きました。とても暑い日でした。大阪駅で乗り換えて環状線の福島駅を降りた僕と長男は、中之島にある大阪中之島美術館に向かいました。徒歩で10分ほどです。


 家を出る事を面倒くさがる長男ですが、岡本太郎展には関心がありました。というか、僕よりも岡本太郎に詳しい。ネット情報ですが、色々と岡本太郎のことを調べていたようです。また、TAROMANという特撮があることも長男に教えてもらいました。岡本太郎が特撮を制作していたなんて、全く知りませんでした。あまりにもシュール過ぎて、笑うというよりも唖然としてしまいましたが……。


 岡本太郎展、じっくりと拝見させていただきました。鑑賞に二時間ほどかかりました。初期作品に始まり、年代ごとに岡本太郎の歩みが感じられるように構成されていました。岡本太郎の作品は、初期からアクセル全開です。思想というか哲学というか情熱というか、岡本太郎が感じている何かをぶつけるようにして表現しています。


 特徴的なのは、原色を多用しているので、とにかく派手です。赤、青、黄色、緑、黒、白。そのまま使うので、コントラストが眩しい。また、対象物は全てデフォルメされて、特徴だけが抽出されています。一見すると、何を表現しているのか全く分からないのですが、題名から何となくは察することが出来ます。また、どの絵にも共通しているのですが、嵐のように絵が暴れています。線が走り回っていて、動きがあります。まるで生きているようです。


 岡本太郎は、美術だけではなく、書籍も出版していますし特撮も手がけました。自分の職業は「人間」と言い切り、様々な可能性に挑戦した人です。そんな岡本太郎展の最大の驚きは、見学者が作品をカメラで撮影していたことです。


 えっ!


 普通、美術館では撮影は禁止です。これは常識だと思います。ところが、岡本太郎展は作品の撮影が可能だったのです。岡本太郎は、芸術作品は大衆の目に触れることで価値が生まれると考えていたようです。だから、自分の作品を売ることもしません。なぜなら個人の所有物として隠れてしまうからです。そうした岡本太郎の意思なのでしょう。大盤振る舞いです。僕も、スマホを構えて写真を撮りまくりました。


 僕も長男も、大満足で岡本太郎展を満喫してきました。長男との良い思い出です。そうした体験の中、僕自身も考えることがありました。様々に影響を受けたのですが、一番は「写真撮影OK」です。


 ――自分は何のために小説を書いているのか?


 そんなことを自問自答しました。小説を書いて、コンテストで優勝して、自分の本を書籍化して、作家として自立する。これが、僕の目的とすることなのだろうか?


 全く違います。仕事は、今の仕事で満足しています。作家に転身する気もありません。当たり前のように、コンテストに応募することを考えていましたが、それすらも僕には必要が無い。現代は、小説をネット上で発表できる環境が整っています。それで良いのではないだろうか……。


 実は、kindleでの出版も、いずれ全て無料にしようと考えています。今は、推敲に時間を掛けているので、その作業を今すぐに行うつもりはありません。一段落してから、その作業に移ります。一度削除しましたが、小説家になろうにも、改訂版の「逃げるしかないだろう」を再度掲載するつもりです。


 kindle出版に際して嫌だったことは、売るためにマーケティングをすることでした。したくないことをするのはストレスが溜まります。僕は、純粋に小説を書くことだけを考えたい。読まれても良いし、読まれなくても良い。まずは、僕が納得できる作品を書き上げる。そんな僕になりたい。岡本太郎展に行ったことで、そんな風に考えるようになりました。

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