episode 50『クジラ』

 土曜日。朝から降りだした雨は午後には小止みになった。

 雨宿りがてらにわたしは駅前のカフェに入り、チョコレートケーキを食べていた。

 そう広くはない店内に置かれたコントラバスが目を惹く。それなりに広さがある前庭でコンサートをしたりするのかもしれない。

 店で手作りだというケーキは控えめな甘さが好ましく、ポットの紅茶があっという間に減っていってしまう。

 隣接する私設図書館のうわさは以前から耳に入っていた。

 個人が建てたにしては広い敷地の下に、巨大な水槽があるといわれていた。何のための水槽かというと、そこでクジラを飼っているのだという。クジラといってもシロナガスクジラのような巨大なものではないらしいが、それでもクジラはクジラである。ちなみに4メートルを境にイルカとクジラを呼び分けるそうなのだが、クジラというからには4メートル超えに違いない。

 ――人知れず大量の水を湛えた深いプール。

 巨大なものが怖いわたしは胸のあたりがひゅんとなった。

 時と場合によっては、クジラのイラストですら怖い。そのせいでプールで泳ぐのを断念して帰ったことがあるのはよい思い出だ。恥ずかしながら、大人になってからのことである。

 雨が上がった。窓の外を見ると、空が黄金色に染まっていた。

 小さい頃、こんな空を見るたびに神秘的な空想を繰り広げていた。そんなところも、小さい頃から変わっていない。 

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ラプンツェルとチーズケーキ 雨の粥 @amenokayu

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