episode 49『ハルピュイア』
――誰なの? わたしの翼を歪めたのは。
記憶にある限りわたしは翼を広げたことがない。
初めから歪んだ状態で生えてきたわけではあるまい。物心ついた頃には着せられていたこの拘束衣のせいで曲がってしまったのかもしれない。
だとすると犯人はわたしの育ての親だということになる。それはいかにもありそうなことだ。わたしは広げられない翼を痙攣させながらピィギャアと啼いた。
早くなんとかしなければ、飛べない青空への片思いで今夜も眠れない。
わたしが不機嫌を隠そうともせず、怪鳥のように喚いてばかりいたせいで、幸いなことに育ての親はわたしには知能がほとんどないものと思っている。
翼について研究しているという男のうわさを聞くことができたのは幸運だった。
男は古生物が発するガスのせいで誰も寄り付かない図書館で、あらゆる有翼の生物について研究しているらしい。特にハルピュイアは『神曲』にも登場する地獄の人面鳥として名高い。わたしは自分がハルピュイアと呼ばれていることを知っている。
大型の鳥類などはほとんど手に入らないから、男は花畑と化した図書館のロビーで蝶を捕まえて過ごしているらしい。
もちろん、男がわたしを助けてくれるだなんて思っていない。いきなり捕まえて標本にしようとするかもしれない。そのときはそのときだ。あの育ての親のように頸動脈を掻き切ってしまおう。わたしは翼を引きずって男が住むというダウンタウンの図書館に向かった。
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