第3章 刺客


 俺は施設の事と、これまでの事件の説明を二人から、聞いて施設の時の記憶を全部思い出した。

事件の件は、凛の鎌の能力で殺した人間の魂を刈り取り、鎌に吸収することによって、その刈り取った人間の記憶を見ることが出来るらしい。

能力で施設の関係者の記憶を見て、院長を探し出し復讐するために。

俺は凛に何で復讐をしようとしていたのかを聞いてみた所、雪那と亮介が死んでしまったと思っていたらしく復讐を誓ったらしい。

凛は施設の爆発の時のことは、運よく爆発から生き延びたはいいものの、体中爆発で傷だらけになり意識が飛びそうな中、山に逃げ込んだでそのまま、その場で力尽きて気を失ってしまって、次に目を覚ましたら、おばあさんが助けてくれていたらしい。

その後はそのおばあさんのお世話になり、この坂守高校の理事長がおばあさんの友人らしく伝手で転入させてくれたみたいだ。

凛の話を聞いて俺は気が沈みそうになった。

『俺と亮介は生きているけど、まだ復讐しようとか思ってたりする?』

そう凛に聞くと凛は真剣な顔で俺と亮介に話してきた。

『今は復讐しようなんて思っていないよ、二人が生きていてくれたから・・でも、私はまだ戦わなといけない、二人に協力してほしい事があるの・・院長をとめないと大変な事になる!』

凛はこれまでに刈り取ってきた記憶を見て、施設の院長の目的を話してくれた。

メンシュハイトエヴォリューション計画は人類を虐殺し世界を院長が手中に収める計画だった。

俺と亮介は、その話を聞いた途端に鳥肌が立った、そして俺は真剣な顔で凛に聞いた。

『凛は・・これから、その計画を止めるために動きたいのか?』

凛は俺に頷いた。

『計画を知ってしまった以上は放置出来ない・・、もし知らんぷりして院長を野放しにしたら、何にも知らない人々が危険に合ってしまう・・雪那と亮介もただでは済まなくなる』

そう答えると凛は俺と亮介の手をとり、『お願いっ』と凛が浮かない顔をしながら頼んでくる、頼んでくる凛を見て俺は少しの沈黙の後、笑って見せた。

『せっかく凛に会えたのに一人で戦わせるわけにはいかないな』

そういうと、俺は亮介に目を向ける、亮介はやれやれと言いたそうな顔で『たく、分かったよ、俺も協力する』と答えてくれた、凛はそんな俺たちを見て満面の笑顔を見せてくれた。

『ありがとう』

お礼を言ってきた、そうすると凛は俺たちの手を離し一歩下がと、俺は亮介に質問する。

『この話、警察にも話して協力して貰えないかな?』

そういうと、亮介は少し考えた後に真剣な顔で答える。

『いや駄目だ、こんな突拍子もない話を警官が信じてくれるとは思えない、それにリミデットヴァッフェ・・、俺たちの力を見せた所で国のモルモットにされるだけだからな』

その言葉を聞いて確かに警察に頼むのは危ないと納得した。

三人でこれからの作戦について話し合おうとした所で学校の予鈴が鳴った、それを聞いて亮介が俺と凛に話しかける。

『それじゃ、これからの作戦会議は今日学校が終わったら話すか』

俺と凛は頷き、三人で屋上から教室に戻ろうと、屋上の扉を開け階段を降りている最中に屋上の扉付近に誰かがいる気配がして、立ち止まって振り返ると直ぐに気配がしなくなった。

『おい、雪那どうした?』

そう亮介が聞いてきたが、何でもないと亮介に言い教室に戻った。

帰りのホームルームを終え、三人で作戦会議を俺と亮介の家ですることになったので、帰ろうとした所、俺は段ボールを3つくらい重ねて持っていた担任の先生に呼び止められた。

『桂木君、これから旧校舎に使わなくなった資料を持って行かなと行けないんだけど、手伝ってくれないかな?』

そう頼まれると、俺は少し考えた後に、分かりましたと答えた。

『凛、亮介悪いんだけどちょっと手伝って来るから待ってて』

そう二人に言うと分かったと返事を返してくれた。

俺は先生から段ボールを受け取り旧校舎に一緒に向かった。


俺と先生が旧校舎に向かっている最中に先生が話しかけて来る。

『桂木君が小鳥遊さんと直ぐに仲良くなってくれて助かったよ、私も色々と忙しくて面倒を見れないから、桂木君には感謝しなくちゃね』

急に先生から褒められて俺は少し照れくさくなった、担任の先生の名前は喜多野隆二先生、去年、坂守高校に歴史の担当教師で赴任してきた、生徒にも凄い優しい眼鏡を掛けた細身の先生だ。

『凛・・、小鳥遊とは子供の頃からの知り合いで、子供の頃に離れ離れになってからずっと会えていなかったので、正直転校してきた時は驚きました』

そう喜多野先生に言うと、にっこり笑いながら

『また会えて良かったですね』

と言ってきた。

旧校舎は学校の裏にある林を抜けた所にある、俺と先生は旧校舎に着いて、先生が旧校舎の玄関の横に段ボールを置き、ポケットから鍵を取り出すとドアを開ける。

『お先にどうぞ』

先生にそう言われると開けたドアを先生が抑えてくれた。

『ありがとうございます』

先生にお礼を言い旧校舎の中に入った、旧校舎の昇降口には木材で出来た下駄箱やそこらかしこの床にも木材の残骸や上履きが落ちていた。

俺は昇降口の奥のほうに歩いて行き、先生に何処に段ボールを運ぶのか聞こうとして、振り返ろうとした時だった、扉が急に締りカチャリと鍵が掛かる音がした。

俺は後ろを振り向くと先生に質問した。

『なんで、鍵を掛けるんですか?』

俺は、目の前に立っている先生に違和感を覚えた。

『何でかって?・・』

先生が気味が悪いような顔をして、俺の問いに静かに答えてくれた。

『僕は坂守児童養護施設の者でね、施設の生き残り・・つまり君らを回収するために来たんだ。まさかこのタイミングで小鳥遊さんもここの高校に転入して来るとは思わなかったけど、一か月前から桂木君と西城君に目をつけといて本当に良かったよ』

そう先生は軽く笑いながら話してくる、俺はゆっくりと持っているダンボールを横に置いて先生にまた質問をした。

『何で俺たちがここの高校にいることが分かった?・・俺たちを捕まえてどうする?』

その言葉を聞いた途端に先生は不気味に笑いながら左腕を前に伸ばす。

『君にそんな事教えても意味ないだろう?』

そう答えると同時に先生が叫んだ。

『リミデットヴァッフェ、ケッテ』

先生が唱えると左の手の甲に紋様が浮かび上がり左手の周りに小さな光の粒が出てくると、ジャラジャラと3メートル位の長い鎖が出現した。その鎖を鞭の様に振り回し、こちらに振りかざしてくる、俺は横に飛び避けると俺の後ろからドンッと大きな音がした、2メートル位ある下駄箱が真っ二つに砕けていた。

(こんなのもろに食らったら普通の人間なら体がぐちゃぐちゃだ!)

と砕けた下駄箱を見て思うと、俺も武器をだす。

『リミデットヴァッフェ アンヴァクセン』

そう唱えると手の甲に紋様が浮かび、左手首に赤く光る数珠が現れると、左手を胸元に引き寄せる。

『アンヴァクセン・・ファースト』

呪文を唱えると数珠が強い光を放ち、その光が全身に回る、その瞬間に俺は前に飛び出す。

迫ってくる俺を先生は鎖で返り打とうとして鎖を右から左に振りまわす、俺は上半身をのけ反らせ鎖を避けし、その状態から足元に落ちていた木材を先生目掛けて蹴り飛ばす。

先生は咄嗟に飛んできた木材を腕で弾く。

『こんな攻撃、私には効かないですよ!』

先生が俺に向かって挑発をしてから前を見るが俺はそこにはいなかった。

『なに!?、何処に言った?』

俺は木材を目くらましに蹴った後に、上に飛び先生の視界から一瞬消える。

『くらえー-!!』

俺はそのまま先生の顔面を殴り飛ばした。

『うぅ』

先生から軽く声が漏れ、後方のドアに吹き飛びドンっとぶつかる、口から血を吐き倒れるが先生は口の血を拭いながら直ぐに立ち上がった。

『君の能力は聞いていたが、まさかここまでとはね』

ペッと口の中の血を吐きながら先生が話す。

(そう俺の能力は自身の身体能力を引き上げる力、ただしこの能力は自身の生命力を削る為、使いすぎると動けなくなる、だから連発して使えない)

『もう、諦めろ』

先生に降参するように言うと、鎖でまた攻撃を仕掛けてくた、飛んでくる鎖を左に避けたが足元の木材の残骸に躓き体制を崩す、途端に鎖の先端だけが動き俺の右足に絡まった。

(なにっ!)

急いで体制を直そうとしたが少し遅かった。

鎖を横に思いっきり振られ、俺の体がそのまま宙に浮き上がり凄まじい勢いで壁に叩きつけられた。

『がはっ』

壁に頭と体を強くぶつけられ、そのまま床に落ちる。

頭から血が流れ目に入り視界が真っ赤になりぼやけ、体を壁に叩きつけられたせいで上手く呼吸が出来ない、その状態で何とか先生の方に顔を向けて見ると、鎖が先生の周りをふわふわと浮いていた。

その鎖はまるで意志を持っているかのようだった、鎖を見て俺は確信した。

『・・そういう・・こと・・か』

呼吸がまともに出来ない俺は何とか体を起こそうとするが思い通りに体が動かない、そんな俺を見て先生は

『油断大敵ですよ桂木君』

ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら俺に言うと鎖で攻撃をして来る。

鎖が俺の頭めがけて飛んでくる視界がぼやけて動けない。

(死ぬ)

そう思い、目を瞑った瞬間、キンッと金属音が響いた。

攻撃がいつまで経っても飛んでこない、ゆっくりと目を開けて前を見ると鎌で鎖を受け止める凛の姿があった。

『雪那っ!』

廊下の方から亮介が走って俺に駆け寄ってくる、二人が駆けつけてくれた。

『どう・・して・・ここに?』

俺は上手く呼吸が出来ない状態で亮介に質問する

『ドアが閉まってたから旧校舎の反対の窓割って入ってきた、遅すぎると思って見に来たら、まさか喜多野先生とこんな事になっているとはな』

そう亮介は言うと俺を昇降口の隅の方に運んでくれた、その時凛が鎌で鎖を弾き先生から距離を取った。

『後は、俺と凛に任せとけ、雪那はそこで休んでな』

そう笑顔で言うと亮介が俺の前に庇う様に立つと呪文を唱える。

『リミデットヴァッフェ リングゲン』

左手の甲に紋様が浮かび上がると、銀色に輝く銃が出現した。

亮介は銃を先生に向けて発砲する、その銀色に輝く銃から赤色の弾丸が発射されて先生目掛けて飛んでいく。

キンッキンッ、と先生は鎖で銃弾を防いでいく。

『この程度の攻撃では私は倒せませんよ』

先生が余裕に満ち溢れた表情をするが、亮介が発砲したと同時に動いていた凛が先生の背後に回り込んでいて鎌を振り上げて切ろうとした瞬間に先生の口元が少し笑うのが見えた、俺は凛に叫んだ。

『だめだ!』

凛に叫んだ瞬間、亮介の弾丸を防いでいた鎖の反対側が凛を襲う、凛は鎖を避けようとするが間に合わず鎖が少し頬を翳めて血が出る。

『大丈夫かっ!?』

亮介が凛に叫びながら聞く

『大丈夫、頬を翳めただけだから』

そう亮介に答えると血が出た頬を制服の袖で拭った。

呼吸が少し戻りつつある俺は目の前に立っている亮介に先生の能力を伝える。

『亮介、先生の能力は鎖を自分の意のままに操る能力だ!』

俺の言葉に亮介が『分かった』と頷くと、俺はどうやって先生に勝つ方法はないかを考える。

(あの鎖は攻撃も防御も出来る、先生本体を攻撃する為に近づくのは至難の技だ、だったらどうすれば・・・)

そこで俺は思いついた、亮介の能力を使えば先生を倒す方法があると、そうすると俺は亮介を呼ぶ。

『亮介、いい案がある』

亮介は俺の横でしゃがみ込み亮介に耳打ちをする、亮介は作戦を聞いて

『なるほどね、その作戦いいな』

亮介は先生の向こう側にいる凛に話しかける

『凛っ!俺が合図したら先生に突っ込め』

亮介の声に凛は頷いた、それと同時に俺はしゃがんでいる亮介の背中に左手で触れて呪文を唱える。

『アンヴァクセン・・セカンド』

すると、俺の左手の数珠が光だし亮介に光が流れ込んで行く、すると亮介の銃が赤く光り輝く。

亮介は先生に狙いを定めて引き金を引く。

『くらえー!』

ドン、ドンさっきよりも勢いをました弾丸が先生を襲うが、鎖を使い軽く防がれる。

『こんな玉、何発撃った所で無駄ですよ!』

そう先生が言うとこちらめがけて鎖で攻撃しようとする、その瞬間

『今だ、凛』

亮介が叫ぶと、凛は先生めがけて走り出し鎌で攻撃したが鎖で鎌を防がれる。

『あなたたちは本当に学習しませんね』

先生がそのまま凛に追い打ちをしようとした時だった、ピキピキと鎖から異様な音がした、先生が音のした所を見てみると鎖にヒビが入っていた。

『なっなに!』

先生が驚いた表所を一瞬浮かべた、凛を振り払い俺たちから距離を取る。

鎖を良く見ると鎖に赤い液体がベットリと付いていて、その部分の鎖が茶色く変色していた。

『貴様ら、何をした!』

余裕の表所を見せていた先生が俺と亮介を睨みながら叫ぶ、すると亮介が口を開いた。

『先生・・あんたは俺の銃弾を鎖で防いだ時点で負けてたんだよ、俺の銃弾は自分の体内を液体を弾丸に変える』

そうい言うと先生は亮介の言った事を理解し、みるみる顔から血の気が引いていく

『あっありえない、こんなに早く・・』

先生は取り乱しながら後ろに少しずつ下がって行く、亮介はそのまま先生に話しかける

『確かに普通に待っていた所で、そんな早く錆びる事はないが、雪那の能力を使えば話は別だ・・時間を早く、短縮出来る』

そう先生に説明すると、俺は亮介と拳を合わせる

(俺の能力は、自身の身体強化アンヴァクセン・ファーストともうひとつ、アンヴァクセン・セカンドがある。これは自身ではない仲間の身体強化をする能力、ただし亮介の身体にではなく能力の一部だけを、一点だけ増加させた。人間の血液には塩化物イオンが含まれており、その塩化物イオンが金属と結合して放置すると金属は錆びる。だが、ただ待っているだけだと錆びるまでに時間がどうしても掛かってしまうため、塩化イオンと結合スピードだけを俺の能力で増加する事により鎖が錆びる時間を短縮した訳だ)

先生が亮介の説明を聞いた直後、後ろに後ずさっていた先生の背中がドアにがぶつかる。

『もう観念して下さい』

俺は先生にそう言うと、先生は取り乱し鎖を振り回した。

『う、ゔぁーーー!』

周りの下駄箱や傘立てが次々と大きい音をたてて壊れていく、すると凛が先生に素早く近づき鎌で錆びている部分に連撃を加える、鎖のヒビが段々と大きくなり凛が小さい声で呟く。

『これで終わり!』

と、言った瞬間にヒビの部分目掛けて鎌で重たい一撃を加えた、すると鎖がバキンッと大きな音を立てて真っ二つに壊れた。

先生の手から鎖がジャラジャラジャラと音をたてて床に落ちる、すると先生は糸が切れたかの様にその場に倒れた・・・。

俺はその光景を見たのを最後に意識が遠のき床に倒れて気を失った。


次に俺の目が覚めたのは、自分の部屋だった。

頭の上にあるデジタル時計に寝たまま目をやり、日付と時間を確認した所、時刻はお昼前で、どうやら俺は丸2日眠っていたらしい。

体を起こそうとした時、ベットの横にもたれ掛かって寝ている凛に気が付いた、俺は凛の肩を揺らして声を掛けて起こした。

『凛?』

すると凛の瞼がゆっくりと開いていく、俺の顔を見た途端に凛が飛び起き、俺に抱きついてきた。

『雪那!・・もう、心配させないでよ!』

凛が泣きながら俺に抱きつき、俺は申し訳なさそうな表情をした。

『ごめん、心配掛けた』

そう言い凛を抱きしめる、すると部屋のドアに寄りかかっている、亮介が口に手を当てて咳ばらいをする。

『んっゔん』

その音で俺と凛はビックリし離れるが、亮介が俺と凛を見てニヤニヤしていた。

『おあついですねぇ~』

と、茶化す様に言ってきた、亮介に対して凛が軽く睨み近づいてポカポカと叩く

『もう、茶化さないでよ』

すると叩いた後、少し離れて涙を拭っていた、少し経ってから凛が落ち着いてきて俺は二人にあの後どうなったのか説明を受けた。

喜多野先生を倒した後、気を失った俺を亮介が担いで家に戻り、凛が付きっきりで看病してくれていたらしい、先生は次の日に亮介が旧校舎に確認しに行った所、遺体が無くなっていて、遺体が無かったことはいざ知らず戦いで壊れた下駄箱や笠立が全部治っていたらしい、まるでそこで起きた事が全部なかったかの様に・・・

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リミデットタイム 松丸冬 @matumarutouma

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