何もないところへ

佐藤菜のは

何もないところへ

去り行く友よ

私は涙も拍手も贈らない


君はこの世界で息ができないと嘆く

いまこの瞬間でさえも


目で耳で口で指で伝わってくるものが

いつもたいそう君を苦しめた


石の真似をしても

しょせん人は人


うずくまって拒んでも遮断できなかった

苦しみから逃れる術を君は知らなかった


君が遠くへ行くことを決めたのは

いつだったか


そこでは大きく息ができるだろうか

そうであることを私は願う


少しずつ冷たくなっていく君の体を

私は抱きとめることはしないだろう


熱を失うことを君が望んだのだ

石のように


さようなら

何もないところへ去り行く友よ

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何もないところへ 佐藤菜のは @nanoha_

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