第51話 エピローグ
あれから100年後、全てのエルフは情動抑制ウイルスにより穏やかな性格に変わり、長らく人族を苦しめてきたエルフの脅威は去った。
エルフとの闘争がなくなった人族の文明は発展し、何百年か経過した後に大航海時代を経て、ついに大陸間で貿易が行われるようになった。
アーランド大陸から来たという人族たちは中央大陸よりずっと進んだ技術を持ち、金髪碧眼をした一部の者はエルフ並みの能力と寿命を備えていたが、エルフと違い侵略をすることなく穏やかな関係が続いた。
あなた方はずっと優れた技術をお持ちのようだが、それを背景に攻めるつもりはないのかと、ある者が荷の引き渡し中に聞いたところ、港付近に建つ「ミナーセ」支店に掲げられた看板の少女のトレードマークを指し示すように、皇家のミナ・ハイリガー・ナナセ・フォン・ルーデルドルフ様より、数百年前から釘を刺されていますと言って笑ったという。
大商会であるミナーセの創立者であり現在もオーナーで居続ける生ける伝説と同じ名前に、得心したように頷いたという。
アーランドでは崇拝の域にあるミナの看板を掲げる港を攻撃できるはずがなく、逆にミナーセに手を出して無事で済む中央大陸の商会は存在しなかった。
◇
ミナは中央大陸にある巨大湖南に面する広い森林地帯を、不老不死の寿命を生かして長い時間をかけて開発し、フェアファミリーの隠遁生活区とした。
新人類に置き換わるまで何千年かの長い時が必要で、ミナは寿命の違いで苦しんだ子孫たちの隠遁生活の場を用意したのだ。
数千年が経ちエルフとの闘争の歴史が風化すると、人族とエルフ族との間で国交が開かれるようになった。互いに混血可能で寿命もほぼ同じことから、それから数千年も経つと、人族とエルフ族の融合が進んで、種族の違いはほぼなくなっていった。
本当は怖いエルフという童話が僅かにかつての名残を残していた。
◇
数千年経過した今、ミナは女神様の言葉を代弁する聖女として教会に所属していた。
精霊瞳により気軽に女神様とコミュニケーションがとれ、政治的及び経済的な背景をもつミナは、宗教に籍を置くのが結局のところ都合が良かったのだ。
結局、あれから再婚してハイヒューマンの子供をもうけることはなかった。亡き夫に操を立てるような意識は数千年も経てば無くなっていたが、精神的に釣り合う存在は同じ神使である白竜くらいしか存在しなかった。
宇宙神様のツリーダイアグラムには、ハイヒューマンでこの星が人口爆発するような未来も含まれていたのかしら?
「そしたら別の星に移民して可能性を広げるまでね!」
女神様や白竜とそんなたわいもないことを話して過ごすミナの姿があった。
おしまい
本当は怖いエルフがいる世界 夜想庭園 @kakubell_triumph
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