将棋で遊ぼう
けろよん
第1話
たかし君と将棋で遊ぶ事にした。
「まずは俺の番だな」
俺は駒を一つ前に進めた。
「はい、王手です!」
「は? 駒を一つ進めただけで王手になるわけないだろ。いかさまだ」
「証拠はあるのかよ?」
「無いな。まあいい。まだ詰みではないからな」
たかし君は王将を一つ横に動かす。だが、俺はそれをこそ読んでいたのだ。
「はい、飛車取りです」
「あ……ああーっ!?」
これでもう終わりである。
「いや……まだ終わってはいないぞ! 俺にはまだ角があるからな!」
「往生際の悪い。もうちょっと付き合ってやるか」
それから一時間後――
「はい、王手です」
「え……ちょ、待った!」
「待ちません」
「うわぁ……」
たかし君は頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
「さすがですね。まさかたかし君が負けるとは」
「お前は誰だ?」
いつの間にかそこには悠然と立つ男がいた。ただ者では無いオーラに俺は少し緊張する。
「私はこの町の将棋チャンピオンすぐるです。あなたに対局を挑みに来ました」
「へぇ~。いいぜ、受けてやるよ」
こうして、俺は町のチャンピオンと戦う事になった。
そして三日後――
「はい、王手です」
「フッ、そんな物ですか」
「いや、王手なんだが」
指しながらも俺もこれで終わりだとは思っていなかった。このチャンピオンからは底の知れない物を感じる。何かとんでもない奥の手を秘めているような。
そして、それはすぐに現実の物となる。
「王手されたぐらいで私は負けませんよ。奥の手がありますからね」
「そうか、なら見せてもらおうじゃないか」
「では、ご覧に入れましょう。王手された時、私の王は女王へと進化する!」
「まさかそんな手が!」
さすがはチャンピオンだ。俺もそれなりに将棋は打ってきたがまだまだ井の中の蛙であったと思い知らされる。
「さあ、女王の前進であなたの歩は全滅です!」
「まずい、王の前ががらあきになったぞ。このままでは!」
「さらに二回行動! これでチェックメイトです」
「ぐぬぬ……」
「さあ、降参しなさい。そうすれば楽に終わらせてあげますよ」
「くそっ、俺はこのまま負けるのか……」
俺が駒を握りしめて負けを認めようとした時だ。たかし君が待ったを掛けてきた。
「待てよ、俺に勝った奴がそう簡単に負けを認めるんじゃねえよ」
「だが、俺にはもう打つ手がない」
「俺の角を使え。必ず役に立つはずだ」
「いいのか? これはお前の命より大切な駒だろ? それに俺に手を貸したらお前もただでは済まないぞ」
「心配すんな、そのくらい覚悟の上だ。それに、ここで負けたら元も子もないだろ?」
「わかった。そこまで言うなら使わせてもらうぞ」
「さあ、話し合いが終わったのなら勝負再開といきますか? もちろん勝負は目に見えてますがね」
「どうかな? 勝負はまだ分からないぜ」
俺は角を置いた。
「フッ、残念ですね。あなたの奥の手がただ角を置くだけとは。次の女王の一撃で終わりです」
「気づかないのか? 俺の……いや、俺達の角の置かれた位置に」
「これはまさか! 女王に対してX字状に交差している!?」
「そうさ! これが俺達の友情の角X字切りだ!」
「くっ、飛車でガードだ! 女王を守りなさい!」
「させねえよ。クイックタイミングで龍王の息吹を発動だ!」
「うわあ、飛車が燃えた!」
「これでとどめだ!」
「うぎゃああ!」
こうして俺達は町のチャンピオンに勝ったのだった。だが、戦いは終わらない。
将棋盤が震えている。最初は小さな揺れだったが徐々に激しくなっていく。
「地震か?」
「違うな。もっと恐ろしいものだ。この町の運命を決めるほどのな」
「どういう事だ?」
チャンピオンは不気味に笑っている。彼は起き上がると扇子で将棋盤を指して言った。
「この町に魔王が現れるという予言があったのだ。そして、その魔王はこの将棋盤に封じられていると突き止めた。だから、私はわざわざあなたと将棋を指しにきたのですよ」
「なっ、何だってー!?」
その時だ。突然将棋盤が光り輝いた。
「うわあああっ!」
あまりの眩しさに俺は目を瞑った。
しばらくして目を開けるとそこには一人の男が立っていた。
「ふむ、久しぶりの外だ。お前達は将棋を指しているのか? 余も指すとしよう」
男は辺りを見回すと言った。男の指から放たれた黒い魔力が将棋の駒を掴み、指す。俺は得体の知れない男に警戒する。
「お前は魔王か?」
「いかにも」
「お前も俺と将棋を指そうって言うのか?」
「そうだ。それもただの将棋ではない。お前が負けた時、世界は滅びる」
「なんだって!?」
「だが、お前が勝てば世界は再び光を取り戻すだろう。さあ、どうする? 世界の命運を賭けて余と勝負する度胸がお前にあるか?」
「……」
度胸なんてあるかそれは分からない。だが、挑まれたからには
「受けるしかないだろうよ!」
俺は駒を指す。まずは歩を一つ前に前進だ。基本的な一手だが、それを見て魔王はつまらなそうに鼻を鳴らした。
「つまらん手だな」
「なんだと?」
「余を警戒して王手を避けたか? ならばそれを後悔する事になるだろう」
魔王から黒いオーラが立ち上る。すると、駒は空中に浮かび上がり、彼の周りに集まっていく。
「何をするつもりだ?」
「こうするのだよ。プレイヤーアタック」
男の言葉と共に全ての駒が俺に向かって飛んでくる。
「くそっ、こんな所で終わってたまるか!」
俺は必死になって駒を打ち返す。だが、敵の駒の方が圧倒的に多い。このままではやられてしまう。
「まずいぞ。このままでは」
「安心しろ、俺に任せておけ」
そう言ってたかし君は前に出ると、自分の駒を地面に叩きつけた。
「これが俺の角の力だ! この角は俺の味方になった瞬間、無敵になるんだよ!」
たかし君の言葉の通り、彼の角が地面に触れた途端に爆発的な勢いで土煙が上がる。その爆風は迫り来る駒を吹き飛ばした。
「すげえぜ、たかし君!」
「へっ、俺にかかればざっとこんなもんさ」
俺は感心して言う。
たかし君の角によって窮地は救われたが、状況は悪化していた。敵である駒の数が増えてより一層強くなっている。さらに、こちらの戦力となるはずの駒がどんどん消えていく。
俺達の体力も限界に近い。
「くそっ、万事休すか……」
諦めかけたその時だ。俺達の前にマントをはためかせた人物が立った。
「待たせたね。私が来たからにはもう大丈夫さ」
「き、貴様は!」
「そうさ、私はこの将棋盤のキングさ! ここで君に将棋を指されながらずっと魔王の気配を感じていたんだ」
「俺のキング!」
「ああ、ここからは私もともに戦おう。この美しい世界の為に!」
俺は感動した。今まで俺は一人で将棋を指していたのだと思っていた。だが、駒とともに戦っていたのだ。そして今こそ本当の仲間ができた。
「よし、行くぞみんな!」
「ああ」
「任せておきな!」
俺達は立ち上がると魔王に向き直った。
「ふむ、面白い展開だな。いいだろうかかってこい」
俺達の攻撃が始まる。魔王の駒が襲ってくるが、俺達は負けじと打ち返した。激しい攻防が続く。
そして、ついに俺の玉が敵陣深くまで入り込んだ。
「取った!」
「くっくっく、かかったな」
「なに!?」
「お前は余の元に近づきすぎたのだ。ここで取りこんでくれる! ディメンションワームフィールド!」
魔王の放った黒い魔力の渦が俺の駒を飲み込む。だが、俺は叫んだ。
「まだだ!」
「馬鹿め、そんな言葉でどうにかなると思ったのか? お前達はこれで終わりだ!」
「まだだって言ってるだろ!」
俺の玉が光輝く。その輝きが辺りを包み込み、魔王の黒い渦を消し去った。
「なん……だと?」
「お前は俺の事を甘く見すぎなんだよ。俺は将棋を愛している。そして、将棋を愛する者達が集まれば無限の可能性が生まれるんだ」
「ぐぬう、おのれ! こんな勝負は無効だ!」
魔王は将棋盤を蹴とばした。だが、すでに光の魔力で覆われたそれは強固に守られていて逆に魔王の足を弾き返した。
「うぎゃあ! 足いてええ!」
「ここまでだ! 魔王!くらえ、王手飛車取り!」
「まだだ! まだ余は負けてはおらん!」
魔王は何とか王を逃がす。だが、そこにはすでに俺のキングが待ち構えている。
「お前との因縁の決着の時だ!」
「くそおおおっ!」
断末魔と共に魔王は消滅していく。それと同時に辺り一面を包んでいた闇も消えた。
「終わったのか?」
俺は呆然と呟いた。魔王を倒した事で世界は元に戻ったのだろうか?
「やったぜ!」
「うむ、私達の勝利だ!」
たかし君とキングが喜んでいる。俺も嬉しいのだが、それよりもまずは確認しなければならない事がある。
「おい、キング。お前は本当に俺の駒だったのか?」
「もちろんだよ。何せ私はあの時から君の駒なんだからね」
「あの時か……懐かしいな……」
キングの言葉に俺は胸が熱くなる思いだった。だが、それとは別に一つ疑問がある。
「でも、どうして俺の駒になったんだ?」
「君が将棋を好きになっていたからだ。君は私に言ったよね。もっと強くなりたいって。その願いを聞き届けて私が君を選んだんだよ」
「そうなのか……。でも、たかし君も気持ちは同じだったはずでは?」
「いや、お前のその思いには勝てねえよ」
「そうさ、君こそ次の選ばれた勇者さ」
「たかし君、キング……」
二人の言葉に俺は涙が出そうになる。俺の心の中にはずっと迷いがあった。
だけど、今ようやく答えが出た。
「ありがとう、二人とも」
俺の言葉を聞いて二人は笑みを浮かべると、共に握手をした。
「さて、私はそろそろ行こうかな」
「もう行っちまうのか?」
「ああ、私にも役目があってね。またどこかで会えるさ」
「そうか……じゃあな、キング」
「さらばだ!」
こうしてキングは去っていった。俺とたかし君もその後しばらく会話をしてから別れた。
そして、翌日―――。
「おはよう」
「おはよう、将棋バカ」
「将棋バカはよせよ。俺なんてまだまだ普通だ」
教室に入ると、既にたかし君がいた。彼は俺の顔を見るとニヤリと笑う。
「昨日は楽しかったな」
「ああ、そうだな」
たかし君は嬉しそうにしている。やはり、彼の中でもまだ将棋ブームが続いているようだ。
「今日の放課後空いてるか? また俺と一局指してくれよ」
「ああ、いいぞ」
俺は快く承諾する。俺達の道はまだまだ先へと続いているのだ。
将棋で遊ぼう けろよん @keroyon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます