第6話 罪
※自傷行為の描写があります。
初めて「切った」のは中二の時だった。
洗面所でカミソリを見つけた、手にした、腕を切った、思いの外血が流れて焦った。
祖母はわたしの傷を見て「あてつけみたいなことして」と言った。
自傷行為の理由は人それぞれ理由が違う。
10代の自傷行為は言語化できない苦しみをわかって欲しいというヘルプだった。
「あてつけ」はまぁ当てはまっている。祖母はわたしの傷から目を逸らした。
中三の冬。わたしは受験生だった。塾に通って初めてちゃんと勉強した。普通科の学校に行こうと意気込んでいた。
しかし、受験間近になって自信がなくなり通信制高校に通うことにした。
通信制高校も半年通って中退。
わたしの最終学歴は中卒だ。
中退以降は半引きこもりの生活となる。
図書館に行ったり、友達と会うなど外に出ることはあった。しかしアルバイトなどはできなかった。
こんな生活ではいけない、ニートではダメだと思い小説家デビューするために新人賞に送っては一次通過もしないというダメっぷり。
社会に出るのが怖かった、働くのが怖かった。人に迷惑をかけるのが怖い。働いたことがないのに仕事でミスするのを恐れていた。
焦るばかりで何もできない。
どうすればいいのかわからなかった。
転変が起きた。
早朝に廊下で祖母が泣きながら騒いでいた。
何か悪いことが起きたんだ、と直感した。
祖母が部屋に入ってくる。
1枚の紙を見せる。
父の遺書だった。借金を背負っそてどうしようもないから死ぬという内容だった。
わたしは祖母に抱きついて泣いた。
泣かなきゃ、と思って泣いた。
駐車場に車がなかった、死ぬために父は車で出かけたようだ。
祖父は父の携帯電話に連絡し、同時に弁護士の知り合いを呼んで相談することになった。
電話がかかってきて祖母が出た、必死に父の名を呼んでいる。父から電話がかかってきたらしい。わたしは電話をかわって
「わたしのお父さんはあんたしかいてない」
と言った。そう言わなきゃいけない気がしたから、言った。
祖母に頼まれ事をする。今日中にしなくてはいけない支払いがあるから、銀行にお金を振込みに行って欲しい。
わたしは出かけた。家に出ると冷静になってきた。本屋に寄って「公募ガイド」を買った。作家になって借金を返せないかな、と甘い考えを持った。
帰ってくると、父の車が帰ってきていた。
ガッカリした。
なんだ、帰ってきたのか。
父が死んだら、わたしは、不幸な生い立ちの若き作家として注目されたかもしれないのに。
はっきり、そう、考えていた。 頭が冷たかった。父が帰ってきてくれて嬉しいと思えなかった。現実を受け入れられないせいではない。わたしは父に対して肉親への温もりというのを持っていないと確信した。
父親の死を願うなんて…と罪がわたしのなかに刻まれた。
わたしは密かに罪を犯した。
精神病闘争記 なつのあゆみ @natunoayumi
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