第5話 わからない
父と彼女の関係は長く続いた。わたしが小学5年生の時、うちの実家近くにマンションを借りて3人は新生活を始めた。
恋人ではなく内縁の妻に近い関係であった。娘も当選、そこで暮らしていた。
その家によく呼ばれていくようになった。
わたしは離人状態で、それなりに話すが楽しいとか辛いとか感情は消えていた。帰りたくても言えなかった。
父の恋人をどう受け止めていいかわからなかった。
なんて呼べばいいのかわからなかった。
最後までわからなかった。
子供だから、なんでも教えてほしいのに。
誰もこの関係について教えてくれなかった。
父の彼女の娘は大学生になり、ある日、彼氏を家に連れてきて鍋を囲むことになった。
そこにわたしも呼ばれた。複雑な関係性の鍋メンバーに彼氏さんが、にこにこしてくれていたのが救いだった。
わたしだったら、ぜったいにこんな鍋パーティーはいやだ。
彼女、その母親と内縁の夫、その娘の小学生。つつきたくない関係性だ。
いまだに、父の彼女の神経というのはわからない。家に呼ばれて行ったら父と彼女はそそくさ家を出て、娘と2人っきりにされた。
「こっちこないでね」
娘は冷たくそう言って、自室にこもった。
リビングで1人、私は時間を持て余した。
私と娘を2人っきりにして、仲良くさせようという作戦だったとしたら、大失敗もいいとこだ。
お互い子供がいて何年も同棲しているのに籍もいれず無責任に夫婦ごっこを続けている親を持った歳の離れた者同士。
自分の1番嫌な姿を見せつけられる鏡のようで目を逸らしたくなる。
わたしが不登校になって、父の夫婦ごっこも終わった。父が家に帰ってきた、相変わらず
「見るだけ」の関係だった。
父が台所で夕食を食べている時に風呂に入りあがったら、父と祖母の話す声が聞こえてきた。
祖母が「あの子に説明してあげなさい」と言った。
父は「どう話していいか、わからない」と答えた。
父の逃げたその答えが。わたしを何年も苦しませることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます