第4話 父親と恋人とその娘

9歳ぐらいの時に話をさかのぼる。

その頃、父は家にいなかった、さりとてそれが寂しくはなかった、一緒に暮らしていても「見るだけ」の関係だったからだ。


久しぶりに父が会いに来た。

車に乗った。助手席には知らない女の人がいた。けばけばしい化粧の女は何か自己紹介をまくし立てたけど、よく覚えていない。

状況が理解できないまま、発車される。


ショッピングモールに連れていかれた。

欲しいものを買ってもらえた。

焼肉を食べに行った。

そして家に帰された。


9歳の子供は訳がわからず、ぽかんとしていた。父とは会話がなかった。けばい女が話しかけてきたことには、なんとか応答したと思う。


女は父の彼女だった。父は彼女と、その娘と同棲していた。そう分かるまでずいぶんと時間がかかった。


両親が離婚したとも知らないのだ。

子供だからとあなどって状況説明をしないのは虐待だと思う。わたしは「父とその彼女」と過ごす時間は今にして考えると離人状態だった。何とかその場に合わせた自分を作っていた。


行きたくない会いたくないと言ったことがない。父が迎えに来て外出するのは強制で断るという選択肢がなかった。


そのうち、彼女の娘も外出に同行するようになった。車の後部座席の隣で物憂げに反抗期の態度を示している彼女に、わたしはさらに戸惑った。娘はわたしのことを無視していた。


思春期に母親の彼氏の子供なんかと関わりたくないだろ。思春期に他人の男と一緒に暮らすことはしんどかっただろう。


父もその彼女も、子供心を徹底的に無視する天才だと思う。自分たちが連れていきたいところに子供を連れて行って、馬鹿みたいにはしゃぐダメな親の典型だった。

後部座席の子供と、運転席と助手席の親。

温度差を感じているのは子供だけ。

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