第3話 ご近所さんの女の子と僕は友達で恋人になった
「朝日君。ちょっと話があるんだけど、一緒にお昼食べない?」
学食で何を食べるかなあ、と考えていたところ、唐突に目の前に現れたのは、
今朝の件でかなり意識してしまった、可愛い女の子。
でも、心なしか表情が少し堅いように思える。
「ん。いいけど、話って?」
「朝のおじさんの話」
「了解。確かに心配になるよね」
僕はおじさんからラインで既に連絡を受け取っていた。
【血液検査もしたのですけど、異常なしでした。今朝はありがとうございました】
と。でも、知らない箱田さんから見ればその後は気になるだろう。
「わかった。箱田さんも学食で良かったよね?」
「うん。購買はちょっとね」
我が高校の購買は、パンも含めて味が微妙ということで定評があった。
値段こそ学食より安いけど、購買を選ぶ奴は仕方なくという奴ばかりだ。
「それで、朝のおじさんの話だったっけ」
お互い素うどんを頼む。安く済ませたいときには素うどんはいいのだ。
しかも、出汁の味も悪くないし、コシだってそこそこある。
「うん。その後どうなったのか気になって」
「大丈夫。ラインで連絡があったんだけど、検査でも異常なしだって」
「そっか。何もなくって本当によかった」
「箱田さんも本当、お人よしだよね」
「ううん。あれは朝日君が色々してくれたから」
「いやいや、別に大したことをしてないから」
あんまり言われるのは正直照れ臭い。
だから、流そうとしたのだけど。
「ううん。いつも凄く大したことをしてるよ。私が昔、いじめられてたときも、先生に裏で色々言ってくれたの朝日君なんだよね?中学になってから当時の先生に聞いたから言い逃れは無駄だからね」
ああ。まさか、あのあたりのことがばれてるとは。
ヒーローぶって彼女の前に立ってかばうのはきっと容易かった。
でも、当時の僕は既にそんなのが幻想にすぎないことを知っていたから。
先生という
担任の先生に言ってもらちがあかないから、他の先生にも言いふらすということまでして。
「うーん。恩に感じてくれることは嬉しいけど、僕は恩着せがましいのは嫌いだから。心の中でちょっと感謝してくれれればそれで充分だよ」
そう思うようになったのはいつからだっただろう。
人知れず誰かの役に立つヒーローの物語を見てからだろうか。
テレビやメディアで賞賛される目立つヒーローの裏側に、あえて何も言わず淡々と誰かの役に立つことを実践している無数の人の姿を見たからだろうか。
とにかく、恩に着せるのは僕の趣味じゃないのだ。
「そういうところも本当に昔からなんだね」
なんだか懐かしむような目は不思議と昔から見ていた気がした。
「時々登校のときに話す以外、そこまで箱田さんとは接点なかったはずだけど?」
なんて言いつつ、僕は僕で彼女の姿を時々目で追っていたのだけど。
「君からすればそうかも。でも、小中高。なんだかんだ色々見てたから」
「え?」
見てたから。
そんな思わせぶりな言葉を言われて、顔が熱くなってくる。
いやいや待て待て。自意識過剰にも程があるだろ。
「続きは放課後、帰りながら話せないかな?とても、とても大事な話があるから」
真っ直ぐ僕の目を見つめての言葉にはとても真剣な色が籠っていて。
「わかった。今日は部活ないし。そっちも部活なかったよね?」
「うん。ホームルーム終わったら一緒に帰ろ」
「うん」
しかし、放課後に一緒に帰る、か。
小中高と彼女とはずっと「ご近所さん」だったけど。
一緒に帰るなんてイベントは初めてかもしれないな。
さらに言うと、大事な話の内容が気になる。
(でもまさか、告白とかはないよね)
いくらなんでもいきなり過ぎる。
距離を縮めるにしてもまずは一緒に遊びに行くとかからだろう。
それでも、きっと今まで言えなかった何かについてだろうってのは察しがつく。
(妙な内容じゃないといいんだけど)
そんなことを心の中でぼやいていた僕だった。
◇◇◇◇
放課後、午後3時頃。一日で一番気温が高い時間帯をちょっと過ぎた辺り。
「それで……大事な話って?」
さっきから黙り込んだままだから話が進まない。
「その……きっと、きっと、凄く驚くことだと思う」
「そこまで溜めるからにはよっぽどなんだろうね」
「あのね。私は朝日君のことが好き。もちろん、友達としてとかじゃなくて」
瞬間、周りの音が全て消え失せた気がした。
箱田さんが僕のことを好き?
それはあまりにも予想外のことで。
僕は天地がひっくりかえったような衝撃を受けていた。
「まずはその……ありがとう。でも、疑うわけじゃないんだけど、聞いていい?」
「うん。きっと聞かれると思ってたよ」
「朝は時々話すけどさ。教室で話したことほとんどないよね?」
「うん。それも、一緒に教室に入るの避けようとかずっと前に朝日君が言うから、どう接していいかわからなかったんだけど」
「いや。あれは……箱田さん的に冷やかされるの嫌だろうしとか思ったんだけど」
まさか、そんな風に受け止められていたなんて予想外もいいところだ。
「私からしたら、「これ以上近づくのは許さない」って言われてる気分だったの」
「そういう気持ちじゃなかったんだけど……言い訳しても仕方ないか。ごめん」
一つには、そういう風に冷やかされて箱田さんに嫌われるのが嫌だった。
もう一つには、朝のひと時、ちょっとしたことを話せる距離が嫌いじゃなかった。
でも、箱田さんにしてみれば距離を取られていると感じたわけで……。
「ううん。今ならわかるけど、朝日君なりの優しさだったんだよね」
「……そういう高尚なものじゃないけど」
「とにかく。友達以上にはなれないけど、気が付いたらいつも目で追うようになってて、朝も時々わざとタイミング合わせてみたり。どういうことを話そうかなって色々考えたり……。でも、ずっと足踏みをしてても伝わらないから。朝日君、私とお付き合いしてください!」
額から汗もだらだら。耳まで紅潮している。
胸に手を当てて深呼吸をしている。
そんな勇気を振り絞った告白。
「僕も。きっと箱田さん程じゃないけど、朝にちょっとした話をするのが楽しかった。友達と話しているのを聞いてて、可愛いなあって時々思ってた。君がいい人なのはよくわかってるつもり。今、告白されて嬉しい気持ちはあるし、付き合ってみたい。でも、箱田さん程の強い気持ちはないけど……それでもいい、かな?」
男女のお付き合いというのはこれまでよくわからなかった。
だから、どこか遠い世界のような出来事だと思っていた。
そんな僕が箱田さんみたいな子の彼氏になっていいんだろうか。
「もちろん!それに、付き合っていく中で私のことをもっと好きになってくれればそれで充分だから。だから、よろしくお願いします!」
「うん。じゃあ、これからは恋人としてよろしくね」
気が付いたら手を差し出していた。
「えーと、これはどういうこと?」
「僕たち、同じ学校でも、お互いのことあんまり知らないでしょ。だから、恋人になるだけじゃなくて、友達にもなりたいから。だから、握手」
「そうだね。友達としても恋人としてもよろしくね。
「こちらこそ、よろしく。
他人以上友達未満だった僕たち。
でも、これからは友達で恋人だ。
ああ、でも。お付き合いとか縁がなかったから何をするんだろう。
それ以前にもっとお互いを知り合わないとね。
本当に前途多難だ。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
小中高と一緒だけど、でもお互いのことをよく知らない二人。
でも、お互いに気になっていた二人が距離を縮めるお話でした。
楽しんでいただけたら、応援コメントや★レビューいただけると嬉しいです。
ではでは。
☆☆☆☆☆☆☆☆
ご近所さんで友達未満の可愛い女の子は僕の事が気になっていたらしい 久野真一 @kuno1234
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