Day25 キラキラ
Googleで浴衣の着付けについて検索しようと思い検索欄をタップしたところ、履歴に『西陣織 金襴』と出てきた。向日葵には覚えのないものだ。椿が使ったに違いない。夫婦で共有のiPadなので構わないのだが、アカウントを分けたほうがいいだろうか。
さて、金襴とは何だろう。そもそも読めない。漢字が欄や蘭に似ているのでこれもランと読むのでは、と推測し、キンランで変換してみた。出た。
エンターキーをタップした。
検索結果はたいそうきらびやかなものだった。
どうやら金襴とは金箔を織り込んだもののことを言うらしい。しかし出てくるのは端切ればかりで、肝心の着物や帯にはなかなか行き当たらない。手芸をしない向日葵には相場がわからないのだが、十センチ千円というのは高いのだろうか。金箔を織り込んでいるのに安いはずがない。
背後から突然声をかけられた。
「なに見てるん?」
心臓が跳ね上がった。彼の検索履歴をたどっていたというのが後ろめたいのだ。
「金襴?」
「ごめん、ちょっと検索しようと思ったら履歴が勝手に表示されちゃって」
「いや別にええのやけど。そんなに挙動不審にならんでも」
にこにこと微笑んでいる。腹の底が読めない。
「綺麗やろ。
「えっ、なに? 詩?」
「まあええんやけど」
やはり本物は帯のようだ。相当お高いに違いない。
向日葵は冷や汗をかいた。
そんなものを欲しがられたらどうしよう。
何せ椿は実家にいた時毎月生絹の着物を複数仕立てていた男である。今は実家から持ってきたものとネット通販で買えるポリエステルで我慢してもらっているが、彼にとっては西陣織こそ身近な織物なのではないか。呉服屋のシステムは知らないけれど、家に持ってきてくれる知り合いがいる、と言い出してもおかしくない。
花嫁御寮、と言っているので、向日葵に着せたいのかもしれない。正直に言ってやめていただきたい。しかし好意、そして厚意をむげにするわけにもいかない。彼が傷つかない方法でやんわりと断れないだろうか。
「綺麗やろ、金襴」
上機嫌で離れていく椿に、ぞぞぞ、と鳥肌が立つのであった。
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