Day3 謎

「エハラモトロクさんて何しはった方?」


 唐突に問われて、向日葵は目をぱちぱちと瞬かせた。


江原素六えばらそろく先生のことか?」

「そう、その人や。駅の北口に新しく銅像立ったやんな」


 そういえば会社で話題になっていた。生誕百八十年を記念して銅像を立て、五月に除幕式が行われたのだ。主に南口で活動している向日葵はまだ実物を拝んだことがない。


 沼津駅は南北の往来に不便で、よっぽどの用事がなければ行ったり来たりしないものである。これを解消するために駅を高架化すると聞いたが、いつ実現するのかわからない。沼津駅の再開発はまだまだこれからだ。


「江原先生はいろいろやった人で一言では説明できないな。お茶農家の我が家にはお茶栽培に尽力した人だと伝わってるけど、もともとは江戸幕府の幕臣で、幕府解体後に沼津に移住してあれこれいろんなことに手をつけた政治家なんだよね」


 日本史に強い椿が「なるほど」と頷いた。


「江戸幕府の人らは肩身が狭いな。お侍さんの再就職は大変やったと違う?」

「うちは先祖代々農民だから士族の再就職はよくわからんけど、幕臣で静岡で事業を起こした人はそれなりにいるって聞いたよ。大河ドラマで渋沢栄一もどうこうってやってたじゃん」

慶喜けいきさんが来はったから?」

「親戚みたいに言うね?」


 これだから悠久の時を生きる京都人はおもしろい。


「明治資料館にいろいろゆかりの品が展示されてるから見にいったらいいさ。市の資料館だから安い入館料で見れるはずだよ。いつだったか無料開放もしてた気がする」

「郷土の偉人なんやなあ」


 感心している椿を見て逆に興味を持った向日葵は、椿にこんな質問をしてみた。


「椿くんの思う、椿くんの地元の郷土の偉人って誰?」


 椿はちょっと考えてからこう答えた。


「帝は嵯峨天皇から明治天皇まで僕の地元でお育ちあそばされたけどそういうんやあらへんやんな?」

「わたしが悪かったよ」

「無難に藤原道長さんと違いますか、僕のご先祖様でよかったら兼実かねざねさんというよう日記書かはった人がいはるけど」

「そうさね」




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