第5話 エピローグ
フィオナさんの肉体に住んでいた4人家族は、Aさんの訪問をきっかけに分裂してしまったようだ。
トロさんが久しぶりに出会う若い女性。
夫から他の女性に注がれる欲情した眼差し。
目の前でその姿を見せつけられて、嫉妬する妻。
さらに肉体的な反応にも、妻は気が付いていた。
一つの体を共有しているからだ。
じわじわと下から登って来る熱量。
口角から飛び散る飛沫。
緩んでいく口元。夫は歓喜に震えていた。
いままで喧嘩もしたことがない、仲のいい家族にAさんが持ち込んだもの・・・。
それは悪魔の誘惑だった。女は悪魔。
夫は長い間、女性に飢えていたのだ。
相反する感情を一つの肉体に抱えきれなくなった時、
フィオナさんは自家中毒を起こして、4人の家族は破裂した。
Aさんを受け入れたい夫、排除したい妻。
2人はすぐにお互いを傷つけ始めた。
罪のない子供たちは暗闇に追いやられ、
フィオナさんとトロさんは二人で壮絶に殴り合い、ののしりあって、果てた。
一家は滅んでしまった・・・。長い間かけて共存していたのに。
そこまでの境地に至るのに、どれほどの長い年月を要しているか、他人には計り知れない。長い苦しみの時間を過ごし、ようやく4人の人格がお互いを補い合って、自立できるまでになったのに。
Aさんの浅はかな感情。
他人の家庭への憧憬。
男への渇望。
そうしたものが一瞬で、多重人格者の絶妙なバランスを破壊したのだ。
もう、フィオナさんの肉体には誰も住んでいない。
今はフィオナさんの抜け殻だけが、精神病院に入院しているということだった。
Aさんはもう二度と更新されないブログを今も眺め続けている・・・。
オーナーの忠告を聞くべきだったと反省しながら。
Aさんはフィオナさんの見舞いに行く。
彼は無反応だ。
それでも、Aさんは彼を愛している。
自分に興味を示してくれた初めての男性として。
分裂 連喜 @toushikibu
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