幕間 白草米徳の郷土史覚書 1994.12.25.

・註解:ねんねがら唄

[メモ]

・かねてより調査していた七守村ななかみむらの子守唄〝ねんねがら唄〟について、ようやく現代語訳がまとまった。最近では〝ねんがら唄〟とも言うらしい。

「おーよらせっせ たまや」というフレーズが不可解だったが、「およらさせたまえ」の転訛てんかではないかと考えられる。お休みなさいを古く、そして敬う形で表した言葉だ。ここでの「ねんねさま」は子守唄本来の対象である赤子ではなく、猿が信仰する〝ねねさま〟とすると、この神は眠りについており、どうぞ目覚めないでくださいという祈りが見てとれる。


一、

 およらさせたまえ ねんねさま

 およらさせたまえ ねんねさま

 寝ない子は誰かにあげましょう

 寝ない子を置いていたらいなくなった

 誰が寝ない子を連れていった

 ねぶらまが川に流してしまった


二、

 およらさせたまえ ねんねさま

 およらさせたまえ ねんねさま

 横邪よこさに転んだつぐないに

 ねぶらまに向かって頭を下げる

 泣く子に山子に頭を下げる

 堪忍堪忍、堪忍してください


三、

 およらさせたまえ 常世

 およらさせたまえ 常世

 神に懸けて不殺生を誓います

 神に懸けて犬捨てを誓います

 棔子ねむこにはお餅を玉をあげましょう

 罪咎まとめて背負いましょう


四、

 およらさせたまえ 常世

 およらさせたまえ 常世

 根の国底の国永久とこしえ

 戻ってくるなねぶらまと千度祈る

 米を撒き、御供ごくを上げ、合歓ねむのきを植え

 ねんねさまの思し召しのまま


[メモ]

・「とーこーしょ」は「常世」ではないかと暫定で記す。


・よこさ=横邪という表現は祝詞に「横邪の道」として登場する、あまり使われない古語だ。とことはに=永久とこしえ、ねぐ=祈るも同様である。この唄は奇妙に畏まった表現が登場するが、元々神(ねんねさま)に祈る言葉だったとすれば納得できる。


・「いぬはふる」のはふるも、祝詞表現古語の「はふらかす、はふらす」と考えられる。打ち捨てる、放置する、落ちぶれさせるという意味だ。

・ねんねんさま、ねんねさま=神とすれば、ながら、がらは「随神かんながら」の変形と暫定する。


・寝ない子は誰かにあげましょう、寝ない子は川に流されてしまいました、という脅し。反面、寝る子には餅(ごちそう)や玉(オモチャや宝物のたぐい)をあげましょうというフレーズは、子守唄の定型である。

 なだめすかして寝かしつけるのは、どこの地域も同じだ。しかし、そのような使われ方とは接続しない部分も多い。米良の子守唄(宮崎県)のようにストレートに子殺しを歌うものもあるが、どうもつぎはぎな印象を受ける。


・そこで「ねむこ」は眠る子ではなく棔子とした。これは合歓えむせきの人柱譚で人柱に立たされた少女「棔」(実在は不明)から来ている。合歓の堰ができあがった後も、生け贄をまとめて棔子と呼んだ伝承があった。


・全体として、神に許しを乞い、また人身御供をうかがわせる内容である。その中で「ねぶらま」は奇妙に浮いていないだろうか。

 人に殺され、ねぶら筋に憑いた猿と考えるのが妥当な所だろうが、それにしては山子(木こり、または年経た霊猿)という語が別に登場する。単なる語呂合わせか? 「ねぶらま」が〝ねねさま〟と関わりがある、仕える存在であることは明白だが、それが指すものは猿ではないのかもしれない。

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