番外編 桜舞う日、君と
第一話
まだ赤子だった時、今世の父と母が他界した。あまり顔は覚えていないが、母は良く笑うひとだったと伯父上が話してくれた。自分は幼い頃の父によく似ているとも言っていた。母は
今世では
しかし
「
これは今世の義兄の
「別に····楽しみというわけでは」
奉納祭の時だけ、
「そうなの? 珍しくひとりで出かけたがるから、てっきり
「私はこれから修練があるので、失礼します」
「うん、頑張って」
にこにこと手を振って、いつものように背に向かって声をかけてくる。それに対して何か言うでもなく、振り向くでもなく、そのまま去った。あのひとは少し苦手だった。何か見返りを求めるでもなく、ただ弟を想う兄として言葉をかけてくれる。
そういう優しさが、なんだか不安になる。
必要以上に関わらないように、そうやって生きることが一番楽だった。何度も繰り返した輪廻の中で学んだことだ。最初の転生先が悪かった。そのせいで
だが、毎回一度は顔を見に行くことにしている。必要以上に関わらず、一度きり、手合わせをして、言葉を交わして、去る。それだけで十分だった。永遠の輪廻の制約もあるので、過去の話はできないし、共有することも不可能だから。
奉納祭は春に行われる。春は、
(今回は
十五になったので、ある程度ひとりでどこへでも行ける許可を貰える。少しの間いなくなっても心配はされないだろう。
それから、
出立は明後日。
変化のない日々を喜んでいいのか、悲しめばいいのか。感情が麻痺しているのか、何を見ても何も感じられない。色とりどりのこのセカイは灰色に霞んで見える。
君がいない。
ただそれだけで、こんなにも色がないなんて。
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