6-16 槐夢
「
「あはは······俺に当たられても困るんだけど?」
「ま、とにかく、姐さんの心配の種がひとつ解決したってことで、」
まあのぅと
「次は
「ああ、まあ、わからなくもない、かな。さすがの
それくらい、
「
「そうだね、気を付けるよ。姐さんも、気を付けて。四神との契約を結ばせている本当の理由がなんなのか、
あと数日後には
「俺は、約束を守るだけ」
始まりの神子である、生みの親と、育ての親である
『必ず、
約束の証は、
先程まで宙を覆っていた
どうか、その願いだけでも叶いますように。
他の願いなんて聞かなくていいから、どうか。
そんな独りよがりの馬鹿げた願いを込めて、
****
夏の日差しの中、土の上で忙しなく列をなして動き回っている蟻の群れ。深いのか浅いのかもわからない小さな穴に、何かを運びながらどんどん流れ込んでいく。誰かのために運ばれたそれは、その誰かを潤す糧となる。
夜。少しだけ外の空気が暑さを忘れ、心地の良い風が部屋に入ってきた。
「
従者の纏う黒い衣の中でも、襟首に近い上の方に太陽のような白い模様が描かれた衣を纏う彼は、公子の中でも長男である、自分のためだけに存在する従者である。
護衛でもあり、なんでもこなす万能な存在。術士としても重宝されているので、妖者退治にも共に赴く。常に主の傍に控え、守るのが仕事である。
「ありがとうございます。文など珍しいですね、」
五つ年上の青年は要領がよく、人を惹きつけるなにかを持っていた。常に穏やかな
けれど知っている。
それらは彼にとっては、ただの有象無象であることを。
「
「あのお嬢さまが? 残念ですね、数少ないお友達だったじゃないですか、彼女」
どこまでも明るい声で彼は言う。彼にとっては残念でもなければ、同情心さえもないだろう。そういう人として不完全な所が気に入っている。
「まあ、自業自得ってやつじゃないですか?」
浮かべた笑みはどこまでも無感情。
「
「はいはい、そうでした。申し訳ありませーん」
じわじわと侵蝕するように燃えていく文。送り主は、
文にはあの地で起こった悲劇が綴られていたが、彼女がその主犯であったことは書かれていなかった。彼女の名誉でも守ったつもりだろうか。
「今度はどんな面白いことを考えたんですか?」
「面白い、かどうかはさておき、順調に事は進んでいますよ」
その表情はどこまでも穏やか。
「すべては
「意味が解らん」
ふふっと
「蟻どもの群れは、掃っても掃っても湧いて来る。それを束ねる王たる者は、やはり蟻だと思いますか?」
「蟻の王は蟻だろう。それ以外でもそれ以下でもない。っていうか、それとさっきの問いとなんか関係あるわけ?」
「私は、そのすべてを踏み潰したい」
「最初からそう言え。回りくどい。しかも適当にはぐらかしただろう?」
敬愛する主のそのすべてを、知っている。
その優越感が、たまらなく心地好い。
蟻の話はさっぱり解らなかったが、その望みはよく解った。
蝋燭の火が揺らぐ。
掻き消された光の中で、薄闇の中で、その美しい首筋に口付けをした。
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