6-8 鬼子の噂
始まりの
宝玉はあくまで穢れを一時的に浄化しているだけで、完全ではないのだと知る。だから、
途中、雨に降られ、古びた小屋に身を寄せた。長い間誰も住んでいないようだった。近くに村もないので、とても助かった。埃を掃い、所々崩れている床の上に腰を下ろす。
季節は夏。
外は雨だが蒸し暑く、普通の者なら不快で顔を歪めていただろう。
「······屋根があるだけマシだな」
ぽたぽたとどこかでしている雨漏りさえ気にならない。
それまでは、
「私は君と一緒なら、どこでも寝れる。夜空を見上げながら眠るのが好きなんだ」
と、言っていたのに、
「まだ幼い
というやり取りに変わった。
その変化に戸惑うことはなかったが、おかげで
毎日のように怪異を鎮め、穢れを祓い、妖者や
「······君は、いつだって、そうだった」
自分のことは後回し。他人の事ばかり。口許が自然と緩む。一緒に過ごした時間は、いつまでもずっと自分の中に残ったまま。
それがどんなに救いか。
「俺は、
関りがあるこの身なら問題ないだろう。
だが、その後は?
この身も朽ちて、次に生まれた時、もう関りは完全に無くなる。
そこまで考えて、首を振る。
(その時は、また、)
結局、ひとりにしてしまうのではないか?
ぽた、ぽた。
ぽた、ぽた。
乾いた板の上に落ちる雨音と、自分の中の鼓動が重なって不安を覚える。
人と鬼の時間は明らかに違う。しかも
****
青龍の加護を失っても、公子たちの高い霊力によって、怪異が起こってもすぐに鎮められるし、妖獣や特級の妖鬼とも渡り合えるだろう。
しかしこの
昼は一変して普通の店が並び、それはそれで活気に満ちているが、人が関わる怪異が多く起こる地で、大半は色恋沙汰の
悪さだけで済めばいいが、呪いで人が何人も死んだり、そこからまた関係のない穢れが繰り返されるため、厄介な地でもあった。
(こんなところで情報なんて聞き出せるのか?)
まだ少年の身である
宿の一階は食事処になっており、夜になると酒も提供しているようだった。大人たちが集まって賑やかしくしている。そんな中、
「なあ、聞いたか?」
「なにを?」
青年がふたり、会話をしていた。
「金眼の鬼子の話だよ」
その足が止まる。
今、男はなんと言った?
「俺の知り合いの商人が、
「そりゃあ······そいつはもう生きちゃいねぇだろう。ご愁傷様、」
拝むように青年は手を合わせる。いやいや、まだ話は終わっちゃいねぇよ! ともうひとりの男が突っ込みを入れる。
「だから、その金眼の鬼子に助けられたんだと!」
「鬼なのになんでひとを助けるんだよ! 夢でも見たんじゃねぇのか?」
「その話、詳しく教えてくれ!」
な、なんだ? と突然割って入って来た立派な身なりの少年に、ふたりは顔を見合わせて首を傾げている。藍色の羽織を纏う少年をもう一度じっと見るなり、男たちは慌てて背筋を伸ばした。
「こ、これは、
基本、他の一族の者が違う地に赴くことはあまりない。男たちもその羽織の色で判断しただけで、実際に
それでも背筋を伸ばさせてしまう雰囲気が、この年下の少年にはあったのだ。
男は言われた通り、先日商人から聞いた話を
(
二階に駆け上がっていったかと思えば、荷物を手に慌ただしく降りて来た。
文字通り、二階の通路に設けられている木の枠に片手を付いて、そのまま一階に
「やっぱり、公子様はすげぇや」
あんなに賑やかだった宿がしん、と一瞬だけ静まり、それから「おおっ!!」という声が上がる。そんなことなど露知らず、
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