6-9 みつけた
朝を待つ余裕はなかった。
(さすがに、そろそろ限界か)
休みなく霊力を使い続けたため、
そのまま足場の悪い崖を駆ける。
宗主になっても、短い者だと一年で入れ替わるらしい。不正や卑怯な手は一切認められず、完全実力主義の一族と言える。だが統治的なことに関しては三人の老師たちが行っており、宗主は派手な飾りのようなものだった。
もともとこの地だけ季節を通して常にあたたかく、夏ともなれば非常に暑い場所。そんな場所にわざわざ都を置いたのは、その盆地のさらに下の方に朱雀の堂が造られているからだった。
地面を隔てたそのずっと下には溶岩が流れているらしく、朱雀の堂がある場所も、
夕方過ぎから半日走り続けた甲斐もあり、なんとか明け方に辿り着けた。太陽が昇り始め、岩壁の隙間から光が射し込む。
その眩しさに思わず半分瞼を閉じる。その先の藍色と青と橙が、光と交じり合った空の果てに、
そんな中、突然どこからか湧いて来たのは、上級の妖鬼たちだった。もうすぐ完全に朝が来るというのに、平気な顔で
「言った通りだろう? 上玉だって」
上級の妖鬼は人に近い姿をしているが、耳が尖っていたり、牙があったり、どこか不自然な容姿をしているのが特徴であった。だがその能力はそれぞれで、並みの術士ではかなり手こずる相手でもある。
普段の
頬にひと筋の汗がつたう。
「ちょっと待て。可愛い顔をしているが、こいつは男だぞ」
「どっちでもいいさ。その恰好は術士じゃなくて、公子だろう? しかも
妖鬼たちはにやにやと笑って、
「女より美しく、五大一族の中で一番強いと謳われている、
「こんな所で出会えるとはな。しかもなんでか霊力が塵みてぇな状態ときた。俺たちは運が良いぜ。こいつを殺して喰らえば、俺たちも特級の鬼になれるかもよ?」
ゆっくりと詰め寄って来る妖鬼たちに、
(使える霊力はわずかだが······、)
やるぞ! という号令と共に、一斉に飛び掛かって来た妖鬼たちに対して、
「くっそ! 誰だよ、霊力が塵だとか言った奴!」
「う、うるせぇっ!」
いててて、と頭を押さえながら吹っ飛ばされた妖鬼たちも起き上がる。仮にも上級の妖鬼。
体術だけではさすがに倒せないとは解っていたが、思いの外頑丈な者たちのようだ。
(焦って先の事を考えずに動いたのが仇となったか······)
目と鼻の先にある都だが、近くに術士もいなそうだ。このまま妖鬼を引き連れて都に入るわけにもいかない。
「これでもくらえっ!」
一体の妖鬼がなにかを投げて来た。それを反射的に弾いた途端、
「よくやった! その煙を浴びたら
油断していたわけではないが、姑息すぎるその手に
地面の足音は微か。じりじりとにじり寄ってきているのが解る。こんなことで自分の目的が果たされないなど、あってはならない事だった。
「今度こそ仕留めるぞ!」
五体が再び一斉に飛び掛かろうと地面を蹴ったその時だった。
奇妙な笛の音が辺りに鳴り響く。
その瞬間、妖鬼の身体が内側から破裂でもしたかのように、ばらばらに弾け飛んだ。
驚いた顔のまま、地面に転がっていく頭。原型を留めていない肉片。飛び散った黒い血。その醜悪な臭いに、
「やりすぎたか。加減が難しいな、この邪曲は」
軽く弾むような声音で目の前に広がる光景を眺め、先の方に琥珀の玉飾りが付いた黒竹の横笛を、くるくると指先で回しながらその者は呟く。
「大丈夫だった? あいつらは全部始末しといたから、安心して帰るといいよ、可愛いお嬢さん」
その声音は、間違いなく。
間違えようのない、者の声。
「······
名を呼ぶ。手を伸ばす。当てもなく伸ばされたその手を、少し震えている冷たい指先が恐る恐る触れて来た。その手を離さないように強く握りしめる。
「やっと、みつけた」
太陽が完全に姿を現し、気付けばふたりの頭上には、透けるような青い空が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます