6-5 無垢
「おかえりなさい」
先程まで
「ただいま。門の前で姐さんたちと偶然会ってさ。一緒にお茶してきた」
「そういえば
「名前を考えてって言われたよ。俺、どうしたらいい?」
夕焼け色に染まるあの縁側で。
甘えるように
****
遠くなっていく意識の中で、
「私は、君に残酷なお願いをしているって解ってる。人の魂を縛るその制約は、呪いとなんら変わらない。永遠の輪廻。本来の輪廻とは違う、その記憶を残したまま繰り返すそれは、理から外れた禁呪と同じ。それでも、君の気持ちは変わらない?」
寝台に仰向けになっている
頬に触れてきた指先が微かに震えていて、冷たかった。その右手を握りしめ、そのまま引き寄せる。
「変わらない。君を守る。永遠に、君の傍にいる」
近づいたその顔に小さな笑みを確認し、そのまま口づけを交わした。
たとえ、君がいない時間をひとり、生きることになっても。
絶対に、君を見つける。
「だから、君をひとりには、させない。最期まで、傍にいる」
本当なら、
けれども、
けれどもその願いは、叶わなかった。
手のぬくもりが離れていく、その一瞬まで。
君は、笑っていた。
あの夜、
こんなことで本当に
強い光に引き寄せられるように、身体から離れた意識がどこかへと連れて行かれる感覚。それは、まるで水の中を漂うような心地好さだった。そして光が消え、やがて暗闇が訪れる。
「こんにちは、可愛い子。私の所に来てくれて、ありがとう」
よく知る声が耳元で響いた。まだ視界はぼやけており、よく見えない。
「ほら、姉様、
明るく響くその声は、
転生するにしても早すぎるだろうと思ったが、これが永遠の輪廻なのだと思い知った。魂が死してのち、間を置かずに生まれる。記憶は死ぬその瞬間まで残っていた。
「そうだな······ああ、本当に、いい子だな」
不思議なことに、ずっと泣いていた赤子は、
「どうしたの? ふたりとも、そんな顔して······なにかあった?」
「その血、
身体を起こそうとして、
「俺みたいなのが、こんな綺麗なモノに触ってもいいのかな?」
人ではないモノと知っている。
けれども、一度として、怖いと思ったことはない。むしろもうひとりの弟と言っても過言ではなかった。
「良いに決まってるでしょう? それに、この子の名前はあなたが付けるって約束、もちろん忘れてないわよね?」
「それは、姐さんが一方的にしたやつでしょ、」
「ふふ。約束は、約束よ」
遠慮がちに
「
小さなその手が、
「どうしよう······どうしたらいい?」
戸惑う
「どうもしなくても良い。気が済むまで握らせてやればいいのだ。お前の事が好きなのだろう」
「あらあら。この母よりも
わざと頬を膨らませて
終わってしまったものと始まるもの。きっとその根源は同じ。
野営の中は長い時間、笑い声が絶えなかった。
しかし、
残されていた文に、交わした約束だけを残して。
それから、十五年後—————―。
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