5-30 断罪
白虎の陣を展開し陰の気を静め、倒れている民たちの無事を確認した後、
もちろん予想していなかったわけでもなく、寧ろそうなるだろうことは解っていたわけだが、
気を抜いたら倒れてもおかしくない。それでもいつもの笑顔で傍らに立つそのひとは、事情を知らない者が見れば本当にいつもの
今の状況は良くない。少女たちの怨霊が幽鬼となって、つぎはぎの人形に取り憑いていた。
(邪曲の影響かな?)
だったら自分が始末するか。
(でも、まあ、別に、)
どうでもいい。
暗い影を落としかけた
「幽鬼になってしまったら、もう、その魂は救えないというけど、」
「うん、そうだね。あの子たちは、もう」
言いかけて、
「それでも、救いたいって言ったら?」
「その身体で、まだ霊力を使うつもりなの? いくらあなたでも、白虎の陣を展開したばかりで、それ以上無理をしたら、」
離れた左手を掴み損ねて、
(俺は
その小さな背中を見守り、美しい笛の旋律に耳を傾ける。すべてを浄化するようなその音色は、この場に溜まった陰鬱な気をすべて祓うように、どこまでも優しく澄んだ水の波紋のようだった。
本来、怨霊になり幽鬼にまで堕ちたモノは、祓ったところでその魂は救えない。消滅するだけ。けれども、最期くらいは良い夢を見てもいいはずだ。
少女たちは望んでそうなったわけではなく、不運が重なり、歯車が狂ってしまっただけ。
『····あたたか、い······これで、帰れる········かえ、る······』
幽鬼は笑みを浮かべ、嬉しそうにそう言った。借り物の人形の身体はぼろぼろと崩れ出し、光に包まれて消えて逝った。
笛の音が止む頃には光も失せ、
「ごめんなさい。本当は、もう、」
「
気付けば
「大丈夫だ。きっと、届いてた」
少女たちの魂は消滅した。二度と生まれ変わることも叶わない。だからせめて、夢を見せてあげたいと思った。この暗闇から解放されて、自分たちの家に帰る夢を。希望を。光を。
「あなたは可哀相なひとだ。でも、自分を終わらせる勇気があるなら、過ちを認めて罪を償うのが道理なんじゃないか?
他人である
座り込んで俯いたままの少女は、無言のまま静寂を保っていた。
「
その均衡を破るように、
自分を殺すようにと、まだ幼い
「母上、どうして
わざと、問う。知っている。
本当は、解っているのに。
「
「······そう、ですか」
仕損じることは解っていて、しかしそれで救える可能性を残して。
「あなたにはたくさん我慢をさせてきた。でもそれは、あなたが疎ましかったわけではない。あなたには、普通の幸せを手に入れて欲しかっただけ。今回の事は、言葉で伝えることをしなかった私の罪。共に罰を受けましょう」
「ごめん、なさい······っ」
謝って赦されることではない。それでも。
「母上····私、は······」
「
「姉様っ!?」
抱き合うふたりに安堵し、喜びの涙を浮かべていた
「姉上······そんな、どうしてっ」
息をしていない
(あれは、あの時の、)
しかし一体どこから? 何の気配もしなかった。だが、今更それを解明した所で意味はないだろう。
「
「は? え? は、はい」
突然話しかけられたかと思えば、もう姿はなく、
(なんで渓谷の妖鬼が、
しかし今はそんなことよりも、目の前の出来事に囚われて、何も考えられない。
まさか、こんな結末になるなんて。
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